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ID番号 09500
事件名 療養補償給付支給処分(不支給決定の変更決定)の取消請求事件(95号)、休業補償給付支給処分の取消請求事件(137号)
いわゆる事件名 一般社団法人あんしん財団事件/一般社団法人あんしん財団(療養補償給付支給処分取消等)事件/一般財団法人あんしん財団事件/あんしん財団事件/国・札幌中央労働基準監督署長(一般財団法人あんしん財団)事件
争点 特定事業主の労災給付処分に関する原告適格
事案概要 (1) 原告は、中小企業における特定保険業等を営む一般財団法人(一般社団法人あんしん財団)であり、労働保険の保険料の徴収等に関する法律(以下「徴収法」という。)12条3項に基づくいわゆるメリット制の適用を受ける事業の事業主(以下「特定事業主」という。)である。
 本件は、原告の支局に勤務していた補助参加人が精神疾患を発症したことについて、札幌中央労働基準監督署長(以下「処分行政庁」という。)が、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づき、療養補償給付及び休業補償給付の各支給処分をしたことにつき、原告が、特定事業主は、自らの事業について業務災害保険給付等に係る支給処分(以下「業務災害支給処分」という。)がされた場合、同処分の法的効果により労働保険の保険料の納付義務の範囲が増大して直接具体的な不利益を被るおそれがあり、同処分の取消しを求めるにつき、法律上の利益を有する者(行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)9条1項)に当たると主張して、本件各処分の取消しを求める事案(第1事件は療養補償給付を支給する旨の処分の取消しを求める事案、第2事件は休業補償給付を支給する旨の処分の取消しを求める事案)である。
(2)判決は、特定事業主は、業務災害支給処分の取消訴訟の原告適格を有しないと解するのが相当であるとして原告の請求を却下した。
参照法条 行政事件訴訟法9条
労働保険の保険料の徴収等に関する法律12条
労働者災害補償保険法1条
労働者災害補償保険法7条
労働者災害補償保険法12条の8
労働者災害補償保険法38条
体系項目 労災補償・労災保険/審査請求・行政訴訟/ (4) 国等による支給処分の取消等
裁判年月日 令和4年4月15日
裁判所名 東京地裁
裁判形式 判決
事件番号 平成31年(行ウ)第95号/令和2年(行ウ)第137号
裁判結果 却下
出典 訟務月報68巻12号1618頁
労働判例1285号39頁
労働経済判例速報2485号3頁
労働法律旬報2015号58頁
審級関係 控訴
評釈論文 吉田肇・民商法雑誌159巻3号111~125頁2023年8月
判決理由 〔労災補償・労災保険/審査請求・行政訴訟/ (4) 国等による支給処分の取消等〕
(1)行訴法9条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである(最高裁平成16年(行ヒ)第114号同17年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2646頁参照)。
 そして、当該処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し、この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項参照)。
(2)メリット制に係る特定事業主の利益は、あくまで、徴収法に基づく労働保険料の認定処分との関係で考慮されるべき法律上の利益となり得るにとどまるものと解するのが相当であり、事業主の不服申立てにより、個別の保険給付自体の是正を図ることが予定されているものとはいい難い。
 原告が指摘する労働保険料の認定処分に対する事業主の不服申立権(旧徴収法の規定を含む。)は、労働保険料の認定処分との関係で考慮されるべき事業主の利益を保護することを意図した制度であると解するほかなく、徴収法が、個別の保険給付に係る特定事業主の利益を保護していると読み取ることはできない。
(3)労災保険法は、専ら、被災労働者等の法的利益の保護を図ることのみを目的とし、事業主の利益を考慮しないことを前提としていると解するのが相当であり、労災保険法及び徴収法並びにこれの下位法令を通覧しても、処分の根拠法令である労災保険法が、業務災害支給処分との関係で、特定事業主の労働保険料に係る法律上の利益を保護していると解する法律上の根拠は見出せない。そうすると、根拠法令が、特定事業主の労働保険料に係る法律上の利益を個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むものとは解されず、当該特定事業主の利益は、行訴法9条1項にいう法律上保護された利益には当たらず、特定事業主は、業務災害支給処分の取消訴訟の原告適格を有しないと解するのが相当である。