ID番号 | : | 09502 |
事件名 | : | 研修費用返還債務不存在確認及び未払賃金等請求事件(31338号)、貸金返還請求反訴事件(7037号) |
いわゆる事件名 | : | 大成建設事件 |
争点 | : | 研修費用の返還請求 |
事案概要 | : | (1) 原告は、被告(建築工事、土木工事、機器装置の設置工事その他建設工事全般に関する企画、測量、設計、施工、管理等を目的とする株式会社)本社の土木本部土木設計部陸上設計室(以下単に「陸上設計室」という。)に配属され、在職中、被告の社外研修制度により米国の大学へ留学(平成30年6月28日、米国に渡航し、復職日は令和2年6月1日)した後、令和2年6月30日付で被告を退職した者である。 本研修制度を定めた被告の社外研修規程10条1項には、「社外研修生は、研修期間中又は復職後満5年以内に、就業規則32条2号若しくは4号に該当し退職する場合、又は諭旨解雇若しくは懲戒解雇に処せられた場合、貸与金を退職日又は解雇日までに全額返済しなければならない。」旨の規定があった。 本訴請求事件は、原告が、被告に対し、給与、賞与及び退職金等が当該研修費用と相殺されたとして、不払いの賃金、賞与、退職金等の支払を求める事案である。 反訴請求事件は、被告が、社外研修に要した費用は被告が原告に貸与したものであり、原告との相殺合意に基づき、上記費用の返還請求権及びこれに対する利息請求権と本訴請求債権とを相殺したとして、原告に対し、消費貸借契約に基づき、相殺後における上記費用の残額である729万5985円等の支払を求める事案である。 (2)判決は、本訴請求はいずれも理由がないとして棄却し、反訴請求は理由があるとして認容し、社外研修に要した費用は被告が原告に貸与したものであり、原告との相殺合意に基づき、被告は原告に対し本件消費貸借契約に基づき、本件研修費用の返還請求権を有しているとした。 |
参照法条 | : | 労働基準法16条 労働基準法24条1項 |
体系項目 | : | 労働契約 (民事)/ 賠償予定 賃金 (民事)/ 賃金の支払い原則/ (3) 全額払・相殺 |
裁判年月日 | : | 令和4年4月20日 |
裁判所名 | : | 東京地裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和2年(ワ)31338号/令和3年(ワ)7037号 |
裁判結果 | : | 棄却(31338号)、認容(7037号) |
出典 | : | D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | 控訴 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約 (民事)/ 賠償予定〕 (1)労基法16条関係 原被告間においては、本件誓約書(「万が一、社外研修規程10条1項に該当し、社外研修に伴う貸与金を全額返済する事態になった場合、会社が、私が会社から支給される給与、賞与、経過賞与、退職金等、私が会社に対して有する債権と相殺しても異議を申し立てません」という内容を含むもの)の提出をもって本件消費貸借契約が成立したと認められる。本件消費貸借契約が労基法16条に反するか否かは、本件消費貸借契約が労働契約関係の継続を強要するものであるか否かによって判断するのが相当である。 〈1〉本件研修は、応募や辞退、研修テーマ・研修機関・履修科目の選定が原告の意思に委ねられていたこと、〈2〉本件研修は、汎用性が高い内容を多く含むものであり、原告個人の利益に資する程度が大きいこと、〈3〉貸与金の返済免除に関する基準(消費貸借契約に基づく貸金返還債務は、社員の申し出による合意退職、休職期間の満了、諭旨解雇又は懲戒解雇の事由がない限り、復職後5年を経過した時点で免除)が不合理とはいえず、返済額が不当に高額であるとまではいえないことからすると、本件消費貸借契約が労働契約関係の継続を強要するものであるとは認められない。 したがって、本件消費貸借契約は労基法16条に違反するとはいえない。 〔賃金 (民事)/ 賃金の支払い原則/ (3) 全額払・相殺〕 (2)労基法24条1項関係 労基法24条1項本文は使用者が労働者に対して有する債権をもって労働者の賃金債権と相殺することを禁止するものであるところ、労働者がその自由な意思に基づき相殺に同意した場合においては、その同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、その同意に基づく相殺は労基法24条1項本文に違反するものとはいえないものと解するのが相当である(最高裁平成2年11月26日第二小法廷判決・民集44巻8号1085頁)。 原告は、貸与金や相殺について何ら異議を述べることもなく、本件誓約書に署名押印してこれを被告に提出したのであるから、本件相殺合意は、原告の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在すると認められる。 したがって、本件相殺合意は労基法24条1項本文に反しない。 |