ID番号 | : | 09503 |
事件名 | : | 賃金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 吉永自動車工業事件 |
争点 | : | 最低賃金との差額である未払賃金放棄の合意の有効性 |
事案概要 | : | (1)本件は、大阪府に所在する吉永自動車工業株式会社(被告)に勤務していた原告が、被告に対し、日給7000円と合意したにもかかわらず日給6000円しか支払われず、これが最低賃金法4条2項所定の最低賃金額に達しない賃金となった後も日給6000円しか支払わなかったなどと主張して、労働契約に基づく賃金請求権又は不当利得返還請求権に基づき、被告に入社した平成16年3月分から退職した令和2年3月分までの差額賃金合計342万4000円及び遅延損害金の支払を求める事案である。 なお、原告は、令和2年6月に、解雇予告手当の支払に関連し、原告が被告に対して有する賃金があればこれについても放棄する内容の「誓約書および確認合意書」(本件合意書)に署名押印している。 (2)判決は、本件合意書による和解契約の成立を認めず、大阪府最低賃金平成30年5月31日支払分(同年4月16日から同年5月15日までの賃金)までの賃金は消滅時効により消滅したとした上で、平成30年6月以降の大阪府最低賃金と日給額6,000円との差額等の支払を命じた。 |
参照法条 | : | 最低賃金法4条1項2項 民法488条 民法489条 |
体系項目 | : | 賃金(民事)/最低賃金 |
裁判年月日 | : | 令和4年4月28日 |
裁判所名 | : | 大阪地裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和2年(ワ)11543号 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | 労働判例1285号93頁 |
審級関係 | : | 控訴 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金(民事)/最低賃金〕 (1)当事者間で合意した賃金額日給6000円を時間についての金額に換算した金額は750円である。そして、大阪府の最低賃金は平成21年9月30日時点で1時間当たり762円であり、それ以降本件労働契約が終了した令和2年3月10日までの間、継続して1時間当たり750円を上回る金額であったことが認められる。したがって、平成21年9月30日以降の本件労働契約の賃金額は、大阪府の1時間当たりの最低賃金額に所定労働時間8時間を乗じた金額を日給とするものとなる。 (2)平成21年9月30日以降の本件労働契約の賃金額は大阪府の最低賃金額となっているところ、証人Aの証言によれば、被告において、本件合意書の作成時には、最低賃金額と日給6000円との差額の未払賃金が生じていたことを知っていた者はいなかったことが認められるほか、本件合意書の作成時に、上記差額を原告が認識していたことをうかがわせる事情は見当たらない。そうすると、原告は、上記差額の金額はもとより、その存在すら認識せずに本件合意書に署名押印したのであって、このような署名押印に至る経緯に照らせば、労働者の自由な意思に基づくものであると認めるに足る合理的な理由が客観的に存在しているとはいえない。したがって、本件和解契約の成立は認められない。 (3)原告は、被告から支払われた賃金は、順次、過去の未払賃金に法定充当されたので、消滅時効期間は経過していない旨を主張する。 しかし、被告は、原告に対して、毎月、当該月の支給賃金額を記載した給与支払明細書を交付して賃金を支払ってきたのであるから、民法488条所定の弁済の充当の指定をしていたものといえる。したがって、法定充当に係る民法489条は適用されない。 平成21年9月30日以降の本件労働契約の賃金額は、大阪府の最低賃金額となるところ、平成30年5月31日支払分(同年4月16日から同年5月15日までの賃金)までの賃金は消滅時効により消滅した。 |