ID番号 | : | 09504 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | REI元従業員事件 |
争点 | : | 競業避止義務を定めた契約の有効性 |
事案概要 | : | (1)本件のうち、甲事件は、主にシステムエンジニアを企業に派遣・紹介する株式会社である原告が、その労働者としてA株式会社等を就業の場所としてシステムエンジニアとして従事した被告に対し、被告が令和2年10月9日付け秘密保持契約書(以下「本件合意書」という。)に定める競業避止義務に違反し、あるいは自由競争の範囲を逸脱し、原告を退社した後、同年10月1日以降、株式会社B(以下「B」という。)と業務委託契約を締結し、Aに通い、A、その子会社もしくは関連会社であり、原告と取引関係のある事業者において勤務したことによる違法な競業を行ったと主張して、債務不履行又は不法行為に基づき、約定損害額等の支払を求めた事案である。 また、本件のうち、乙事件は、被告が、原告に対し、被告が在職中であった令和2年9月1日から同月30日までの賃金等36万5150円が支払われていないと主張して、雇用契約に基づき、同額の支払等を求める事案である。 (2)判決は、甲事件については、本件合意書は公序良俗に反し無効であるとして原告の請求を棄却し、乙事件については、被告の請求を認容した。 |
参照法条 | : | 民法90条 |
体系項目 | : | 労働契約 (民事) /労働契約上の権利義務/ (18) 競業避止義務 |
裁判年月日 | : | 令和4年5月13日 |
裁判所名 | : | 東京地裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和3年(ワ)7641号 |
裁判結果 | : | 一部棄却、一部認容 |
出典 | : | 労働判例1278号20頁 D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | 確定 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約 (民事) /労働契約上の権利義務/ (18) 競業避止義務〕 (1)従業員の退職後の競業避止義務を定める特約は、従業員の再就職を妨げてその生計の手段を制限し、その生活を困難にする恐れがあるとともに、職業選択の自由に制約を課すものであることに鑑みると、これによって守られるべき使用者の利益、これによって生じる従業員の不利益の内容及び程度並びに代償措置の有無及びその内容等を総合考慮し、その制限が必要かつ合理的な範囲を超える場合には、公序良俗に反して無効であると解するのが相当である。 (2)原告は、主にシステムエンジニアを企業に派遣・紹介する株式会社であって、その具体的な作業については各派遣先・常駐先・紹介先会社の指示に従うものとされていたと認めることができる。このような原告におけるシステムエンジニアの従事する業務内容に照らせば、原告がシステム開発、システム運営その他に関する独自のノウハウを有するものとはいえないし、被告がそのようなノウハウの提供を受けたと認めるに足りる証拠もないのであって、原告において本件合意書が退職後の競業避止義務を定める目的・利益は明らかとはいえない。 (3)本件合意書は、「(1)貴社との取引に関係ある事業者に就職すること」、「(2)貴社のお客先に関係ある事業者に就職すること」、「(3)貴社と取引及び競合関係にある事業者に就職すること」及び「(4)貴社と取引及び競合関係にある事業を自ら開業または設立すること」を禁ずるものと認めることができるところ、いずれも文言上、転職先の業種・職種の限定はないし、地域・範囲の定めもなく、「取引に関係ある」、「競合関係にある」又は「お客先に関係ある」事業者とされ、原告の取引先のみならず、原告の客先の取引先と関係がある事業者までも含まれており、禁止する転職先等の範囲も極めて広範にわたるものといわざるを得ない。被告は、令和元年11月から令和2年9月30日まで、システムエンジニアとして従事していたものと認めることができるのであり、このような被告の職務経歴に照らすと、上記の範囲をもって転職等を禁止することは、被告の再就職を著しく妨げるものというべきである。 (4)被告は、原告に勤務していた期間中、基本給及び交通費の支給を受けていたものと認めることができるにとどまり、手当、退職金その他退職後の競業禁止に対する代償措置は講じられておらず、本件合意書においても、被告の負うべき損害賠償義務を定めるにすぎず、その代償措置については何らの規定もないのである。 (5)原告の本件合意書により達しようとする目的は明らかではないことに比して、被告が禁じられる転職等の範囲は広範であり、その代償措置も講じられていないことからすると、競業禁止義務の期間が1年間にとどまることを考慮しても、本件合意書に基づく合意は、その制限が必要かつ合理的な範囲を超える場合に当たるものとして公序良俗に反し、無効であるといわざるを得ない。 |