ID番号 | : | 09505 |
事件名 | : | 準委任契約報酬請求等事件 |
いわゆる事件名 | : | アムールほか事件 |
争点 | : | 準委任契約のフリーライターに対するハラスメント |
事案概要 | : | (1)本件は、原告が、被告株式会社アムール(以下「被告会社」という。)に対し、同社との間でウェブサイトの運用等に係る業務委託契約を締結し、当該業務を行ったにもかかわらず、被告会社から報酬が支払われないと主張して、準委任契約に基づく報酬請求として、令和元年8月分ないし同年10月分までの報酬等の支払を求めるとともに、被告らに対し、被告会社の代表者である被告Y(以下「被告代表者」という。)から、被告会社の「エステB」店舗(以下「本件店舗」という。)においてハラスメント行為を受けたと主張して、被告代表者に対しては不法行為に基づく損害賠償請求として、被告会社に対しては安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求として、連帯して、慰謝料500万円と弁護士費用50万円の合計550万円等の支払を求める事案である。 (2)判決は、原告の請求のうち、被告会社に対して準委任契約に基づく報酬請求の支払を求める部分の請求及び被告代表者に対しては不法行為に基づく損害賠償請求として、被告会社に対しては債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求として、連帯して損害金150万円の支払を認容した。 |
参照法条 | : | 民法 415条 民法623条 民法656条 改正前民法【平成29年6月2日法律第44号改正前】415条 改正前民法【平成29年6月2日法律第44号改正前】623条 改正前民法【平成29年6月2日法律第44号改正前】656条 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則 (民事)/ 均等待遇/ (11) セクシャル・ハラスメント アカデミック・ハラスメント |
裁判年月日 | : | 令和4年5月25日 |
裁判所名 | : | 東京地裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和2年(ワ)17431号 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | 労働判例1269号15頁 労働法律旬報2016号56頁 |
審級関係 | : | 確定 |
評釈論文 | : | 青龍美和子・労働法律旬報2016号34~35頁2022年9月25日 水町勇一郎(東京大学労働法研究会)・ジュリスト1577号144~147頁2022年11月 滝原啓允・労働判例1272号81~87頁2022年11月15日 中井崇・労働判例1283号82~83頁2023年5月15日 |
判決理由 | : | (1)原告と被告代表者が、令和元年6月以降、被告会社が原告に委託する業務の内容や報酬の金額について具体的なやり取りを重ね、同年7月1日にはそれまでのやり取りを踏まえた本件契約書案を作成した上、同年8月1日以降、原告が、被告代表者の意向を確認しながら現に本件業務を履行したことに照らすと、同年7月1日頃には、原告及び被告会社との間において、原告が同年8月から本件業務を行い、被告会社が原告に対して月額15万円の報酬を支払う旨の本件業務委託契約が成立していたものと認めるのが相当である。 〔労基法の基本原則 (民事)/ 均等待遇/ (11) セクシャル・ハラスメント アカデミック・ハラスメント〕 (2)被告代表者が、〈1〉本件店舗において打合せを行った際、原告に対し、これまでの性体験や自慰行為等に関する質問をしたこと、〈2〉本件店舗において1回目の施術を受けた原告に対し、無理やりにでも裸になった方が施術のときにくすぐったく感じなくなるなどと述べて、バストを見せるよう求めたこと、〈3〉本件店舗において6回目の施術を受けた原告に対し、施術用の紙パンツを脱ぐよう指示し、3回にわたって原告の陰部を触った上、自分で陰部を触ることを要求して従わせ、さらに被告代表者の性器を触ることを要求したこと、〈4〉本件店舗において打合せを行った際、原告に対し、性交渉をさせてくれたら食事に連れて行くなどと述べ、キスをするよう迫り、原告の腰を触り、原告の臀部に被告代表者の股間を押し付けたこと、〈5〉原告に対し、原告が執筆した記事の質が低いことなどを理由として契約を打ち切る旨を告げ、原告が被告会社の専属として仕事をしていなかったことにがっかりしているなどのメッセージを送信したこと、〈6〉原告に対し、今の原告はプロフェッショナルではない、書く記事が全て上位に表示されないのであれば意味がないなどとメッセージを送信したこと、〈7〉原告に対し、仕事の質が低いことや兼業をしていることなどについて不満を述べた上、〈8〉原告を抱擁してキスを迫り、原告の臀部に被告代表者の股間を押し付けたこと、〈9〉本件店舗において打合せを行った際、原告を抱擁し、キスをしようとした上、上半身の着衣を脱ぐよう指示し、女性Aと互いに相手の胸を触るよう指示したこと、〈10〉原告から、原告が行った作業を検証ないし評価する方法について話合いを求められたのに対し、そういうことも教えないとわからないのであれば報酬を要求しないでほしい旨、原告とは契約も交わしていないし、今の状況ではスキルが低すぎるので契約は交わせない旨、被告代表者の教えの下に育ててほしいのであれば報酬は要求しないでほしい旨のメッセージを送信したこと、が認められる。 上記〈1〉ないし〈10〉の被告代表者の一連の言動は、原告の性的自由を侵害するセクハラ行為に当たるとともに、本件業務委託契約に基づいて自らの指示の下に種々の業務を履行させながら、原告に対する報酬の支払を正当な理由なく拒むという嫌がらせにより経済的な不利益を課すパワハラ行為に当たるものと認めるのが相当である。 (3)原告は、被告会社から、被告会社HPに掲載する記事を執筆する業務や被告会社専属のウェブ運用責任者として被告会社HPを制作及び運用する業務等を委託され、被告代表者の指示を仰ぎながらこれらの業務を遂行していたというのであり、実質的には、被告会社の指揮監督の下で被告会社に労務を提供する立場にあったものと認められるから、被告会社は、原告に対し、原告がその生命、身体等の安全を確保しつつ労務を提供することができるよう必要な配慮をすべき信義則上の義務を負っていたものというべきである。 しかるに、被告会社は、被告代表者自身による上記(2)〈1〉ないし〈10〉のセクハラ行為ないしパワハラ行為によって原告の性的自由を侵害するなどし、上記義務に違反したものと認められるから、原告に対し、上記義務違反を理由とする債務不履行責任を負う。 (4)原告は、上記(2)〈1〉ないし〈10〉の被告代表者の行為によりうつ状態に陥ったものと認められる。その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、被告代表者の不法行為及び被告会社の債務不履行により原告が被った精神的苦痛を慰謝するに足りる金員は、140万円と認めるのが相当である。被告代表者の不法行為及び被告会社の債務不履行と相当因果関係のある弁護士費用は、10万円が相当である。したがって、原告が被告代表者の不法行為及び被告会社の債務不履行により被った損害は、合計150万円である。 |