全 情 報

ID番号 09508
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 グッドパートナーズ事件
争点 契約更新を通告した後の雇止めの有効性
事案概要 (1) 原告は、主に介護の仕事を紹介する人材派遣会社である被告との間で有期労働契約(平成31年2月3日~同年3月31日)を締結し、有料老人ホームに派遣され夜勤専従の介護福祉士をしていた。原告は、被告から、同年2月21日、本件契約が令和元年5月31日までの2か月間更新されることが確定した旨の電子メール(以下「本件メール」という。)を受信したが、その後、原告は、同年2月25日の勤務時間終了後、本件施設の副施設長に対し、施設職員による利用者への虐待行為があったとして、その旨報告し、行政機関にも同内容の通報(以下「本件通報行為」という。)を行うとともに、被告に報告したところ、被告は、同年3月6日、原告に対し、契約更新を取り消し、新たに仕事の紹介もしないと通知し、平成31年3月31日をもって有期労働契約につき雇止め(以下「本件雇止め」という。)をした。このため、原告が、本件雇止めは無効である旨主張して、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに(請求1)、上記労働契約に基づき、同年4月分から令和3年12月分までの未払賃金等の支払(請求2)並びに令和4年1月分以降の未払賃金の支払を求め(請求3)、さらに、本件雇止めが不法行為に当たると主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料等の支払(請求4)を求める事案である。
(2)判決は、平成31年4月分及び令和元年5月分の賃金額のうち他の会社で勤務して得た賃金の中間控除した上で、未払賃金等の支払請求を認容し、それ以外の請求を却下又は棄却した。
参照法条 民法536条
民法709条
民法710条
労働契約法19条
労働基準法26条
体系項目 解雇 (民事) /短期労働契約の更新拒否 (雇止め)
裁判年月日 令和4年6月22日
裁判所名 東京地裁
裁判形式 判決
事件番号 令和1年(ワ)29107号
裁判結果 一部却下、一部認容、一部棄却
出典 労働判例1279号63頁
労働経済判例速報2504号3頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 控訴
評釈論文 神田遵・労働経済判例速報2504号2頁2023年2月28日
本久洋一・労働法律旬報2029号42~43頁2023年4月10日
判決理由 〔解雇 (民事) /短期労働契約の更新拒否 (雇止め) 〕
(1)本件メールは、本件契約の更新が確定したことを内容とするものであるから、これを受信した原告において、初回の契約満了時である同年3月31日の時点において、本件契約が更新されることについて強い期待を抱かせるものであったということができる。そうすると、原告には、同日時点において、本件契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる。
 原告は、平成31年3月31日時点だけでなく、それ以降の契約更新についても合理的期待が生じている旨主張する。しかしながら、本件メールの内容は、2か月間と期間を明示して、本件契約の更新が確定したことを内容とするものであり、令和元年6月以降の更新について期待を生じさせるような内容ではなかったというべきである。
 したがって、原告については、本件契約が令和元年5月31日まで継続すると期待することについては合理的な理由があるものと認められるが、同年6月1日以降については、契約更新を期待することについて合理的な理由があるとは認められない。
(2) 被告は、本件雇止めの理由として、原告は自慢話等の不要な話が多いことや、原告のこだわりが強く、対応に時間を取られていたことを主張するところ、被告においては、本件メールを送信した同年2月21日の時点においては本件契約を更新するとの判断をしていたものであり、少なくとも同日以前の原告の行為について、契約更新をしないだけの事情があるとは捉えていなかったものと認めるのが相当である。
  以上からすると、上記事情は、本件雇止めの客観的に合理的な理由に当たるものとは評価できず、被告の主張は採用できない。本件雇止めについて、客観的に合理的な理由があるとは認められない。
(3)被告は、原告が平成31年4月の時点で再就職していたこと等をもって、被告での就労意思を喪失していた旨主張する。しかしながら、一般的に雇止めされた労働者が、当該雇止めの効力について争う場合において、生計維持のために新たな職を得ること自体はやむを得ない面があり、他社への就職をもって直ちに元の就労先における就労意思を喪失したと認めるのは相当でない。
  また、原告は、本件雇止めの後、同月10日付けで、被告が確定していた契約更新を覆したことを不服とする内容の「通知書」を送付し、その後、あっせんの申立てを経て、令和元年7月には労働審判手続の申立てをしているのであり、一貫して本件雇止めの効力を争う姿勢を見せていたことも踏まえると、原告が復職について具体的な提案等をしなかったからといって、原告が就労意思を喪失していたと認めることはできない。
  よって、被告の主張は採用できず、原告は被告に対し、平成31年4月分及び令和元年5月分の賃金請求権を有するというべきである。
(4)本件雇止めの理由として被告の主張する事情は、いずれも客観的に合理的な理由とは認められないことからすると、本件雇止めは、実質的には、原告が被告に報告することなく、本件通報行為に及んだことを理由としてなされたものと認めるのが相当である。
  上記を踏まえて、本件雇止めに係る不法行為の成否及び損害額について検討するに、一般に、雇止めによって生じた精神的苦痛については、雇止めが無効であるとして、労働契約上の地位が確認されたり、雇止め後の賃金が支払われたりすることによって慰謝されるのが通常であり、侵害行為の悪質性等によって特段の精神的苦痛が生じたものと認められない限り、不法行為に基づく慰謝料を請求することはできないと解するのが相当である。
(5)原告は、本判決確定の日の翌日以降の賃金の支払も求めているが、特段の事情の存する場合でない限り、判決確定後の賃金をあらかじめ請求する必要があるとは認め難いところ、本件全証拠に照らしても、上記特段の事情を是認すべき事情があるとは認められないから、却下するのが相当である。