ID番号 | : | 09510 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 国立大学法人東北大学(雇止め)事件 |
争点 | : | 12年間勤務していた有期雇用労働者の雇止め |
事案概要 | : | (1)本件は、被告(国立大学法人東北大学)の設置する大学院において、平成18年度から平成29年度まで時間雇用職員(22年度は謝金業務期間)として勤務していた原告が、平成30年度以降の有期労働契約の更新を拒絶した被告に対し、労働契約法19条に基づき有期労働契約が更新され、同法18条に基づき期間の定めのない労働契約が成立したとみなされるなどと主張して、〈1〉労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、〈2〉労働契約に基づく賃金等の支払を求め、さらに、〈3〉不法行為に基づく慰謝料等の支払を求めた事案である。 (2)判決は、雇止めを有効として、原告の請求をいずれも棄却した。 |
参照法条 | : | 労働契約法19条 |
体系項目 | : | 解雇 (民事)/ 短期労働契約の更新拒否 (雇止め) |
裁判年月日 | : | 令和4年6月27日 |
裁判所名 | : | 仙台地裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成30年(ワ)887号 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例1270号14頁 D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | 控訴 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇 (民事)/ 短期労働契約の更新拒否 (雇止め)〕 (1)本件各労働契約は、契約期間の満了前に、原告における更新の希望の確認、本件研究科の研究室委員会での承認、研究科長に対する任用依頼及び研究科長による承認がされ、労働契約の締結に際しては、原告に対する労働条件通知書の交付ないし原告による労働条件通知書(兼同意書)への署名といった手続を経て締結されたこと、労働条件通知書ないし労働条件通知書(兼同意書)には契約期間及び更新に関する定めが記載されていたことが認められる。 以上によれば、原告の有期労働契約は、契約期間の満了前に相応に厳格な手続を履践して締結されていたものであるから、契約期間の満了ごとに当然更新を重ねてあたかも無期労働契約と実質的に異ならない状態となっていたということはできない。 以上によれば、原告と被告との間の労働契約が、労働契約法19条1号に該当するということはできない。 (2)原告は、主として、〈1〉平成18年度から平成20年度までは、教育研究支援者としてキャンパス・コミュニティの製作業務に、〈2〉平成21年度は技術補佐員としてDの研究プロジェクトに関する業務に、〈3〉平成22年度は、勤務時間の定めなく、謝金の支払を受けて、キャンパス・コミュニティのメンテナンス業務及びICTルームのパソコン管理業務に、〈4〉平成23年度から平成25年度までは、事務補佐員として各種研究資料の収集、複写、製本の業務、授業などの配布資料の作成補助及び教室内の機材、機器の操作補助などの業務に従事した。これらの業務は、その性質上、被告における基幹的業務ではないところ、原告は、上記〈1〉ないし〈4〉の各期間の契約に従い、異なる業務に従事したものというべきであり、これによれば、その雇用につき常用性があると評価することはできない。 (3)更新の回数及び雇用の通算期間をみると、労働契約が締結された回数は6回、雇用の通算期間は〈3〉の期間を合算すれば8年間であるが、一方で、原告が担当していた主たる業務は、各期間において異なっていたことのほか、〈1〉の期間の時間給は2100円を超えていたのに対し、〈2〉ないし〈4〉の期間の時間給は1172円であったこと、〈2〉の期間の平成21年度労働契約は財源との関係で担当業務が制約されるプロジェクト雇用に係る労働契約であり他の期間とは性質が大きく異なること、〈1〉、〈2〉及び〈4〉の期間の労働契約は始業時刻及び終業時刻の定めのある週30時間の勤務であったのに対し、〈3〉の期間は、勤務時間の定めもなく、業務時間は週30時間よりも相当に短く、社会保険等にも加入していないなど契約条件が明らかに異なること、〈3〉の期間には労働条件通知書が作成されず、初任給算定依頼書に記載をするなど通常と異なる手続がとられたことといった事情を指摘することができ、このことからすれば、契約更新を期待する合理的理由の有無の判断において、これらの点を度外視して、上記の労働契約を締結した回数や雇用の通算期間のみを重視することは相当ではない。 (4)各年度の労働条件通知書には契約期間の定めが記載され、原告が提出した本件各確認書には平成18年度労働契約及び平成23年度労働契約についての更新上限が明示されていたのであるから、原告の契約期間管理は厳格に行われていたものと評価できる。 (5)原告は、本件各確認書及び各年度の労働条件通知書に記載された契約期間及び更新上限を認識していたものというべきであるところ、被告が、平成26年3月31日までに更に更新上限を超えて契約更新がされることを示唆したなどといった事情もうかがわれず、雇用継続の期待をもたせる使用者の言動があったということはできない。 (6)以上に加え、平成25年3月22日付けの各部局等の長宛ての通知により、原告の更新上限が平成28年3月31日となったことを踏まえると、原告は、平成26年3月31日の時点において、平成28年3月31日までの限度で契約更新を期待する合理的理由があったということができるとしても、同日を超える契約更新を期待する合理的理由があったということはできない。 (7)以上の雇用の恒常性に関する判断、原告の契約期間管理は厳格に行われていたこと、原告も本件上限条項の概要を認識したことなどから、平成26年4月1日以後に生じた事情により、原告につき、本件雇止めの時点において、契約更新を期待する合理的理由が生じるに至ったということはできない。 原告につき、本件雇止めの時点において、契約更新を期待する合理的理由があったということはできず、原告と被告との間の労働契約が、労働契約法19条2号に該当するということはできない。 (8)原告は、有期労働契約の更新拒絶が強行法規違反である場合などには、労働契約法19条各号に該当しなくても雇止め法理を適用すべきであり、本件雇止めは、無期転換申込権の発生を回避することを目的とするものであり、同法18条を潜脱するものであるから、本件雇止めは許されないと主張する。 しかしながら、通算契約期間を5年以内と定め、無期転換申込権の発生直前に雇止めをするという意味で、無期転換申込権の発生を回避することを目的とした雇止めをしたことをもって、直ちに同法に抵触するものではない。 被告は、無期転換申込権の発生の4年前に本件上限条項を設け、これにより雇止めを行ったものであり、前記認定事実並びに前記2及び3において説示したところに照らしても、本件雇止めが強行法規違反であるとか、公序良俗に反するといった事情は認められず、本件雇止めについて、労働契約法19条以外の根拠による雇止め法理を適用すべきであるということはできない。 |