ID番号 | : | 09512 |
事件名 | : | 療養補償給付支給処分(不支給決定の変更決定)の取消請求、休業補償給付支給処分の取消請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 一般社団法人あんしん財団事件/一般社団法人あんしん財団(療養補償給付支給処分取消等)事件/一般財団法人あんしん財団事件/あんしん財団事件/国・札幌中央労働基準監督署長(一般財団法人あんしん財団)事件 |
争点 | : | 特定事業主の労災給付処分に関する原告適格 |
事案概要 | : | (1) 控訴人(一審原告)は、中小企業における特定保険業等を営む一般財団法人(一般社団法人あんしん財団)であり、労働保険の保険料の徴収等に関する法律(以下「徴収法」という。)12条3項に基づくいわゆるメリット制の適用を受ける事業の事業主(以下「特定事業主」という。)である。 本件は、控訴人の支局に勤務していた補助参加人が精神疾患を発症したことについて、札幌中央労働基準監督署長(以下「処分行政庁」という。)が、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づき、療養補償給付及び休業補償給付の各支給処分をしたことにつき、控訴人が、特定事業主は、自らの事業について業務災害保険給付等に係る支給処分(以下「業務災害支給処分」という。)がされた場合、同処分の法的効果により労働保険の保険料の納付義務の範囲が増大して直接具体的な不利益を被るおそれがあり、同処分の取消しを求めるにつき、法律上の利益を有する者(行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)9条1項)に当たると主張して、本件各処分の取消しを求める事案(第1事件は療養補償給付を支給する旨の処分の取消しを求める事案、第2事件は休業補償給付を支給する旨の処分の取消しを求める事案)である。 (2)一審判決は、特定事業主は、業務災害支給処分の取消訴訟の原告適格を有しないと解するのが相当であるとして原告の請求を却下したところ、控訴人がこれを不服として控訴した。 (3)控訴審判決(2022年4月15日東京地裁判決)は、原告適格を有しないとして本件訴えをいずれも却下した原判決は相当ではないとして、原判決を取り消し、東京地裁に差し戻した。 |
参照法条 | : | 行政事件訴訟法9条 労働保険の保険料の徴収等に関する法律12条 労働者災害補償保険法1条 労働者災害補償保険法7条 労働者災害補償保険法12条の8 労働者災害補償保険法38条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険/審査請求・行政訴訟/ (4) 国等による支給処分の取消等 |
裁判年月日 | : | 令和4年11月29日 |
裁判所名 | : | 東京高裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和4年(行コ)130号 |
裁判結果 | : | 原判決取消、差戻し |
出典 | : | 労働判例1285号30頁 労働経済判例速報2505号3頁 労働法律旬報2030号45頁 |
審級関係 | : | 上告 |
評釈論文 | : | 中町誠・労働経済判例速報2505号2頁2023年3月10日 藤田進太郎・経営法曹216号95~103頁2023年6月 徳本広孝・月刊法学教室515号118頁2023年8月 |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険/審査請求・行政訴訟/ (4) 国等による支給処分の取消等〕 (1)行訴法9条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと解すべきである(最高裁昭和49年(行ツ)第99号同53年3月14日第三小法廷判決・民集32巻2号211頁、最高裁平成元年(行ツ)第131号同4年9月22日第三小法廷判決・民集46巻6号1090頁等参照)。そして、処分の名宛人以外の者が処分の法的効果による権利の制限を受ける場合には、その者は、処分の名宛人として権利の制限を受ける者と同様に、当該処分により自己の権利を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者として、同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に当たり、その取消訴訟における原告適格を有するものというべきであり(最高裁平成24年(行ヒ)第156号同25年7月12日第二小法廷判決・裁判集民事244号43頁参照)、処分の名宛人以外の者が処分の法的効果により公課の納付義務の範囲が増大するなど直接具体的な不利益を被るおそれがある場合も、上記と同様に解するのが相当である(最高裁平成16年(行ヒ)第275号同18年1月19日第一小法廷判決・民集60巻1号65頁参照)。 (2)特定事業主は、自らの事業に係る業務災害支給処分がされた場合、同処分の名宛人以外の者ではあるものの、同処分の法的効果により労働保険料の納付義務の範囲が増大して直接具体的な不利益を被るおそれがあり、他方、同処分がその違法を理由に取り消されれば、当該処分は効力を失い、当該処分に係る特定事業主の次々年度以降の労働保険料の額を算定するに当たって、当該処分に係る業務災害保険給付等の額はその基礎とならず、これに応じた労働保険料の納付義務を免れ得る関係にあるのであるから、特定事業主は、自らの事業に係る業務災害支給処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあり、その取消しによってこれを回復すべき法律上の利益を有するものというべきである(東京高裁平成29年(行コ)第57号同年9月21日判決・労働判例1203号76頁参照)。 (3)特定事業主は、自らの事業に係る業務災害支給処分がされた場合、同処分の法的効果により労働保険料の納付義務の範囲が増大して直接具体的な不利益を被るおそれのある者であるから、同処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)として、同処分の取消訴訟の原告適格を有するものと解するのが相当である。 (4)控訴人は本件各処分の取消訴訟の原告適格を有するというべきところ、これと異なり、控訴人が原告適格を有しないとして本件訴えをいずれも却下した原判決は相当ではなく、本件控訴は理由があるから、更に審理を尽くさせるため、原判決を取り消して、本件を東京地方裁判所に差し戻す。 |