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ID番号 09577
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 名古屋自動車学校(再雇用)事件
争点 再雇用後の労働条件
事案概要 (1) 本件は、自動車学校の経営等を目的とする上告人(株式会社名古屋自動車学校)を定年退職した後に、有期労働契約を上告人と締結して就労していた被上告人らが、期間の定めのない労働契約を上告人と締結していた正職員との間に、労働契約法20条に違反する労働条件の相違がある旨主張して、主位的に職員の就業規則が適用されることを前提に本来支給されるべき賃金、賞与と実際に支給された賃金、賞与との差額等の支払い、労働契約法20条違反の労働条件の適用という不法行為に基づく損害賠償、慰謝料等の支払いを求めるとともに、予備的に労働契約法20条違反の労働条件の適用という不法行為に基づく損害賠償の支払を求めた事案である。
 一審判決は、労働条件の相違(①基本給のうち正職員定年退職時の額の60%を下回る部分、②皆精勤手当及び敢闘賞(精励手当)の減額分、③賞与(嘱託職員一時金)のうち正職員定年退職時の基本給の60%に各季の正職員の賞与の調整率を乗じた結果を下回る部分)は労働契約法20条違反の労働条件に当たるとして、不法行為に基づく損害賠償として、予備的請求の一部を認容した。これに対し、それぞれの敗訴部分を不服として当事者双方が控訴した。
(2) 原判決(名古屋高裁)は、原判決は正当であって、本件各控訴はいずれも理由がないとしてこれらを棄却した。
(3) 判決は、原判決中、被上告人らの基本給及び賞与に係る損害賠償請求に関する上告人敗訴部分は破棄を免れないとして、更に審理を尽くさせるため、上記部分を原審に差し戻した。
 なお、上告人のその余の上告については、上告人が上告受理申立ての理由を記載した書面を提出しないとして却下した。
参照法条 労働契約法20条
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条
体系項目 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/不合理な待遇差
裁判年月日 令和5年7月20日
裁判所名 最一小
裁判形式 判決
事件番号 令和4年(受)1293号
裁判結果 一部破棄差戻し、一部却下
出典 最高裁判所裁判集民事270号133頁
判例時報2579号91頁
判例タイムズ1513号80頁
金融・商事判例1688号2頁
金融・商事判例1695号30頁
労働判例1292号5頁
労働経済判例速報2529号3頁
労働法律旬報2039号70頁
労働法律旬報2044号57頁
裁判所ウェブサイト掲載判例       
審級関係
評釈論文 本久洋一・労働法律旬報2039号48~49頁2023年9月10日
河津博史・銀行法務2167巻10号70頁2023年9月
橋本陽子・ジュリスト1589号4~5頁2023年10月
石田眞・労働法律旬報2044号6~14頁2023年11月25日
牛嶋勉・会社法務A2Z199号31~35頁2023年12月
神吉知郁子・ジュリスト1592号72~78頁2024年1月
末啓一郎・労働経済判例速報2529号2頁2023年11月20日
中谷雄二・季刊労働者の権利354号103~108頁2024年1月
井川志郎・季刊労働法284号2~11頁2024年3月
井川志郎・法学セミナー69巻5号116~117頁2024年5月
酒井夕夏・ビジネス法務24巻5号94~95頁2024年5月
櫻庭涼子・季刊労働法285号182~192頁2024年6月
小山敬晴(労働判例研究会)・法律時報96巻8号136~139頁2024年7月
日原雪恵(東京大学労働法研究会)・ジュリスト1602号142~145頁2024年10月
島田裕子・民商法雑誌160巻4号134~147頁2024年10月
判決理由 〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/不合理な待遇差〕
(1)基本給について
〈1〉管理職以外の正職員のうち所定の資格の取得から1年以上勤務した者の基本給の額について、勤続年数による差異が大きいとまではいえないことからすると、正職員の基本給は、勤続年数に応じて額が定められる勤続給としての性質のみを有するということはできず、職務の内容に応じて額が定められる職務給としての性質をも有するものとみる余地がある。他方で、正職員については、長期雇用を前提として、役職に就き、昇進することが想定されていたところ、一部の正職員には役付手当が別途支給されていたものの、その支給額は明らかでないこと、正職員の基本給には功績給も含まれていることなどに照らすと、その基本給は、職務遂行能力に応じて額が定められる職能給としての性質を有するものとみる余地もある。そして、前記事実関係からは、正職員に対して、上記のように様々な性質を有する可能性がある基本給を支給することとされた目的を確定することもできない。
〈2〉また、前記事実関係によれば、嘱託職員は定年退職後再雇用された者であって、役職に就くことが想定されていないことに加え、その基本給が正職員の基本給とは異なる基準の下で支給され、被上告人らの嘱託職員としての基本給が勤続年数に応じて増額されることもなかったこと等からすると、嘱託職員の基本給は、正職員の基本給とは異なる性質や支給の目的を有するものとみるべきである。
 しかるに、原審は、正職員の基本給につき、一部の者の勤続年数に応じた金額の推移から年功的性格を有するものであったとするにとどまり、他の性質の有無及び内容並びに支給の目的を検討せず、また、嘱託職員の基本給についても、その性質及び支給の目的を何ら検討していない。
〈3〉労使交渉に関する事情を労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮するに当たっては、労働条件に係る合意の有無や内容といった労使交渉の結果のみならず、その具体的な経緯をも勘案すべきものと解される。
 前記事実関係によれば、上告人は、被上告人X1及びその所属する労働組合との間で、嘱託職員としての賃金を含む労働条件の見直しについて労使交渉を行っていたところ、原審は、上記労使交渉につき、その結果に着目するにとどまり、上記見直しの要求等に対する上告人の回答やこれに対する上記労働組合等の反応の有無及び内容といった具体的な経緯を勘案していない。
〈4〉以上によれば、正職員と嘱託職員である被上告人らとの間で基本給の金額が異なるという労働条件の相違について、各基本給の性質やこれを支給することとされた目的を十分に踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、その一部が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法がある。
(2)賞与について
〈1〉前記事実関係によれば、被上告人らに支給された嘱託職員一時金は、正職員の賞与と異なる基準によってではあるが、同時期に支給されていたものであり、正職員の賞与に代替するものと位置付けられていたということができるところ、原審は、賞与及び嘱託職員一時金の性質及び支給の目的を何ら検討していない。
〈2〉また、上記(1)〈3〉のとおり、上告人は、被上告人X1の所属する労働組合等との間で、嘱託職員としての労働条件の見直しについて労使交渉を行っていたが、原審は、その結果に着目するにとどまり、その具体的な経緯を勘案していない。
〈3〉このように、上記相違について、賞与及び嘱託職員一時金の性質やこれらを支給することとされた目的を踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、その一部が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法がある。