全 情 報

ID番号 09578
事件名 賃金等請求事件(4380号)、賃金請求事件(1759号)
いわゆる事件名 JPロジスティクス(旧トールエクスプレスジャパン)事件
争点 割増賃金相当額を減額して算出した歩合給制度の有効性
事案概要 (1)本件は、貨物自動車運送事業等を目的とする被告(トールエクスプレスジャパン株式会社)との間で労働契約を締結し、集配業務に従事していた原告らが、被告に対し、〈1〉主位的に、被告は、原告らに支給する能率手当の算定に当たり割増賃金に相当する額を控除しているため、労働基準法(以下「労基法」という。)37条所定の割増賃金の一部が未払であると主張して、未払割増賃金等及び労基法114条所定の付加金等の支払を求め、〈2〉予備的に、出来高により算出される数額から割増賃金に相当する額を控除する計算方法が採用されていることは公序良俗に反し無効であると主張して、未払歩合給及び未払割増賃金等の支払を求める事案である。
 集配職の賃金は、以下ア~ウのとおりである。
ア 集配職の賃金は、〈1〉基準内賃金(能率手当ほか)〈2〉基準外賃金(時間外手当ほか)により構成されている。
イ 時間外手当は、時間外手当A、時間外手当B及び時間外手当C(以下、この3つの時間外手当を併せて「本件各時間外手当」という。)により構成され、それぞれ、以下の計算式により算出される。
 (ア) 時間外手当A=能率手当を除く基準内賃金÷年間平均所定労働時間×(1.25×時間外労働時間+0.25×深夜労働時間+1.35×法定休日労働時間)
 (イ) 時間外手当B=能率手当÷総労働時間×(0.25×60時間以下の時間外労働時間+0.5×60時間を超える時間外労働時間+0.25×深夜労働時間+0.35×法定休日労働時間)
 (ウ) 時間外手当C=能率手当を除く基準内賃金÷年間平均所定労働時間×0.25×60時間を超える時間外労働時間
ウ 能率手当は、各集配職の従事した業務内容(配達重量部分、集荷重量部分、配達枚数部分、集荷枚数部分、集荷軒数部分、走行距離部分、大型作業部分、持込作業部分、その他部分)に基づいて算出された「賃金対象額」と称する数額が時間外手当Aの額を上回る場合に支給され、以下の計算式により算出される。
 能率手当=賃金対象額-時間外手当A
(2)判決は、時間外手当Aの支払により、労基法37条の定める割増賃金が支払われたということができ、賃金の計算方法は公序良俗にも反しないとして、原告の請求を棄却した。
参照法条 民法90条
民法91条
労働基準法37条
体系項目 賃金 (民事)/ 割増賃金/ (3) 割増賃金の算定方法
裁判年月日 令和5年1月18日
裁判所名 大阪地裁
裁判形式 判決
事件番号 令和1年(ワ)4380号 /令和3年(ワ)1759号
裁判結果 棄却
出典 労働判例1313号78頁
労働経済判例速報2510号21頁
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 〔賃金 (民事)/ 割増賃金/ (3) 割増賃金の算定方法〕
(1)能率手当は、労働者が従事した集配業務の量を表す諸要素を考慮して所定の計算式により算出された賃金対象額が時間外手当Aの額を上回る場合に、その超過差額が手当として支給されるものである(本件計算方法)。
 そして、本件計算方法において、賃金対象額は、取り扱った荷物の重量、伝票枚数、客の軒数、走行距離等の集配業務の業務量に基づいて算出される数額であること及び原告らを含む集配職には、集配先を回る経路や順序、荷物の積み込み方法等の具体的な業務遂行方法に一定の裁量があり、各人の工夫によって効率的に業務を遂行することができるようになり、効率的に業務に従事することにより、当該業務に要する時間を削減するとともに、追加業務の指示を受けるなどして、賃金対象額を増額させることができることが認められる。そうすると、能率手当は、業務遂行に当たり一定の裁量が認められる集配職に対し、効率的に業務を遂行することに対するインセンティブを与え、これによって業務の効率化を図る目的で設けられた出来高払制の手当であって、その算定方法も一定の合理性を有するものであるということができる。
 また、上記のような能率手当の制度は、被告の従業員の過半数が加入する労働組合との協議及び調整を経て導入され、上記労働組合からの要望を踏まえて改定されてきたものであることが認められ、能率手当の制度は、導入及び改定に係る手続面からしても、一定の合理性を有するものであるといえる。
(2) 集配職が全く時間外労働等をしなかった場合、時間外手当Aは発生せず、業務量等に対応して算出された賃金対象額全額が能率手当となるのに対し、集配職が時間外労働等をした場合には、賃金対象額から時間外手当Aが控除されることになり、時間外手当Aが賃金対象額を上回ると、能率手当が0円となることもある。このため、出来高払制の賃金である能率手当を得るに当たり、時間外手当Aを経費とみて、その全額を労働者に負担させることになり、これが労基法37条の趣旨に反しないかが問題になる。
(ア) 能率手当の位置付け
 本件賃金制度において、賃金対象額が時間外手当Aの額を上回り、被告に能率手当の支払義務が発生する場合には、当該従業員が時間外労働等に従事していれば、被告には時間外手当Bの支払義務も発生するから、被告は、能率手当を支払うことによっても、集配職に対する割増賃金の支払義務を免れることはできない。そうすると、能率手当の制度が、売上高等を得るに当たり生ずる割増賃金を経費と見た上で、その全額を労働者に負担させることを目的とするものとはいい難い。
(イ) 賃金対象額の性質
 原告らと被告との間の労働契約において、賃金対象額自体について、出来高払制の通常の労働時間の賃金として支払われる旨の合意がされているものではなく、本件賃金制度における賃金対象額は、能率手当を算出するための前提として、業務量等に基づいて算出される計算上の数額にすぎない。
(3) 国際自動車事件第1次上告審判決(最三小判:平成29年2月28日)によれば、出来高払制の賃金を算出するに当たり、売上高等の一定割合に相当する金額から労基法37条に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする定めが当然に同条の趣旨に反するものと解することはできない。
労基法27条は、出来高払制の労働者に対し、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならないと定めているところ、本件賃金制度は、固定給と出来高払制の賃金を併用するものであって、本件請求期間中の原告らに対する賃金の支払状況及び弁論の全趣旨によれば、原告らの実収賃金のおおむね半分から6割以上は固定給及び時間外手当Aであり、これらの賃金によって同条の定める労働時間に応じた賃金の保障がされているものと認められる。
 したがって、本件賃金制度が労基法27条に反するともいえない。
(4) 能率手当は、集配業務の効率化を目的とした出来高払制の賃金として、賃金対象額を上限として時間外手当Aを含む固定給部分に追加して支給されるという性質を有するものである。原告らと被告との間の労働契約において、賃金対象額が出来高払制の賃金として支払われることが保障されているものではないから、本件計算方法は、本来支払われるべき出来高払制の賃金から割増賃金相当分を控除する旨を定めたものともいえない。結局のところ、本件賃金制度における能率手当は、実質的に見ても、売上高等を得るに当たり生ずる経費としての割増賃金の全額を労働者に負担させるものであるということはできない。
 そうすると、本件計算方法が労基法37条の趣旨に反し、その実質において、出来高払制の通常の労働時間の賃金として支払うことが予定されている賃金を、時間外労働等がある場合に、その一部につき名目のみを割増賃金に置き換えて支払うものであると評価することはできない。時間外手当Aは、その名称及び計算方法からして、時間外労働等の対価として支払われるものであり、時間外手当Aに通常の労働時間に対する賃金が含まれているとみるべき事情はない。
 したがって、時間外手当Aは、時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているといえる。