全 情 報

ID番号 09579
事件名 賃金等賃金請求控訴事件
いわゆる事件名 JPロジスティクス(旧トールエクスプレスジャパン)事件
争点 割増賃金相当額を減額して算出した歩合給制度の有効性
事案概要 (1)本件は、貨物自動車運送事業等を目的とする被控訴人(JPロジスティクス株式会社(旧商号トールエクスプレスジャパン株式会社))との間で労働契約を締結し、集配業務に従事していた控訴人らが、被控訴人に対し、〈1〉主位的に、被控訴人は、控訴人らに支給する能率手当の算定に当たり割増賃金に相当する額を控除しているため、労働基準法(以下「労基法」という。)37条所定の割増賃金の一部が未払であると主張して、未払割増賃金等及び労基法114条所定の付加金等の支払を求め、〈2〉予備的に、出来高により算出される数額から割増賃金に相当する額を控除する計算方法が採用されていることは公序良俗に反し無効であると主張して、未払歩合給及び未払割増賃金等の支払を求める事案である。
 集配職の賃金は、以下ア~ウのとおりである。
ア 集配職の賃金は、〈1〉基準内賃金(能率手当ほか)〈2〉基準外賃金(時間外手当ほか)により構成されている。
イ 時間外手当は、時間外手当A、時間外手当B及び時間外手当C(以下、この3つの時間外手当を併せて「本件各時間外手当」という。)により構成され、それぞれ、以下の計算式により算出される。
 (ア) 時間外手当A=能率手当を除く基準内賃金÷年間平均所定労働時間×(1.25×時間外労働時間+0.25×深夜労働時間+1.35×法定休日労働時間)
 (イ) 時間外手当B=能率手当÷総労働時間×(0.25×60時間以下の時間外労働時間+0.5×60時間を超える時間外労働時間+0.25×深夜労働時間+0.35×法定休日労働時間)
 (ウ) 時間外手当C=能率手当を除く基準内賃金÷年間平均所定労働時間×0.25×60時間を超える時間外労働時間
ウ 能率手当は、各集配職の従事した業務内容(配達重量部分、集荷重量部分、配達枚数部分、集荷枚数部分、集荷軒数部分、走行距離部分、大型作業部分、持込作業部分、その他部分)に基づいて算出された「賃金対象額」と称する数額が時間外手当Aの額を上回る場合に支給され、以下の計算式により算出される。
 能率手当=賃金対象額-時間外手当A
(2)原判決は、控訴人らの請求をいずれも棄却したことから、これを不服とする控訴人らが控訴した。
(3)判決は、控訴人らの請求は理由がないからこれらをいずれも棄却すべきとし、これと同旨の原判決は相当であるとした。
参照法条 民法90条
民法91条
労働基準法27条
労働基準法37条
体系項目 賃金 (民事)/ 割増賃金/ (3) 割増賃金の算定方法
裁判年月日 令和5年7月20日
裁判所名 大阪高裁
裁判形式 判決
事件番号 令和5年(ネ)401号
裁判結果 控訴棄却
出典 労働判例1313号65頁
労働経済判例速報2532号3頁
審級関係 上告、上告受理申立て(令和6年2月14日 最三小決定:棄却、不受理)
評釈論文
判決理由 〔賃金 (民事)/ 割増賃金/ (3) 割増賃金の算定方法〕
(1)本件賃金規則等の定めに照らせば、被控訴人は、時間制賃金と請負制賃金とを併用する賃金体系(以下「併用型賃金体系」という。)を採用していることが認められる。
 賃金体系は、業務の遂行方法に一定の裁量が認められる集配職に対し、効率的な業務遂行についてのインセンティブ(動機付け)を与え、これによって業務の効率化を図ることを可能にするものであって、計算の際に用いる賃金対象額が実態に即していない等の特段の事情がない限り、本件算定方法には、一定の合理性があるというべきである。そして、賃金対象額については、労働組合からの要望を踏まえた改定がされているところであり、上記特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
(2)本件賃金規則等の内容及び賃金体系が賃金水準に関する強行法規に適合しているものとして、検討の所与の前提としてよいかを検討すると、次のとおりである。
ア 時間制賃金の水準に関しては、最低賃金法による規制が存在するところ、本件賃金規則等に基づく時間制賃金の水準が最低賃金法に違反すると認めるに足りる証拠はない。
イ 労基法及び施行規則は、労基法27条所定の「一定額」の意味に関する細目を定めていないが、同条の趣旨が、仕事の単位量に対する賃金率を不当に低く定めて、労働者を過酷な重労働に追いやり、又は一定量の仕事につきその一部に不出来があった場合にその全部を未完成として賃金を支払わないなどの弊害が生ずることを防止する点にあることに照らせば、全体として上記のような弊害が生ずることを防止し得るような賃金体系が採用されているかどうかによって、同条が求める賃金の保障がされているかどうかを判断すべきものと解するのが相当である。
これを本件についてみると、本件賃金規則等は、併用型賃金体系を採用しているところ、その一部を構成する時間制賃金の水準が最低賃金法に違反すると認めるには足りない。また、本件賃金規則等の定めによれば、時間制賃金に対応する時間外手当A(60時間を超える労働時間に係る時間外手当を含まない。)の総額が、取り扱った荷物の重量、伝票枚数、客の軒数、走行距離等の集配業務の業務量に基づいて算出される賃金対象額を上回る場合、本件計算方法に基づき、能率手当が支給されることはないものの、時間制賃金に対応する基本給及び時間外手当の支払が減額されることはないから、最低賃金法に違反しない内容の賃金が保障されていることになる。さらに、本件賃金規則等が併用する請負制賃金は、出来高を示す揚高の一定割合を賃金として支払うことを保障するものではなく、質の高い労働(労働密度の高い労働)を提供した場合に、その点に賃金対象額と時間外手当Aとの差額に相当する価値を見出して、時間制賃金に加算をして給与を支払う性格のものであって、出来高払制賃金とは異なる性格のものであり、本件全証拠によるも、被控訴人が併用することとしている請負制賃金の定めによって、出来高払制賃金の下で生じ得るような弊害が生じる危険性があると認めるには足りない。これらの諸事情に照らせば、本件賃金規則等の定めは、能率手当を算定するための計算式を「賃金対象額」-「時間外手当A」の計算式で計算することとしている部分も含め、労基法27条が求める賃金の保障をしているものと解するのが相当である。
 なお、自動車運転者の労働条件に関し、歩合給制度が採用されている場合に、労働時間に応じ、固定的給与と併せて通常の賃金の6割以上が保証されるような保障給を定めることを求める通達(平成元年3月1日付け基発第93号)は、歩合給制度とは異なる仕組みの請負制賃金が併用されているにすぎず、時間制の固定的給与のみでも賃金水準に関する強制法規に適合した賃金の支払が保障されている本件のような場合においてもなお、上記の目安に達していないことをもって労基法27条違反となることを明らかにしたものではないというべきである。
(3)本件賃金規則等の定めが労基法37条の適用上、判別性の要件を充足するかについて、本件各時間外手当及び能率手当の算出方法は、本件賃金規則等に明記されていたこと、手当等の項目及びその金額(時間外手当Aや能率手当の金額を含む。)は、被控訴人から各控訴人に対して交付される給料支払明細書に明確に区分して記載されていたこと並びに被控訴人の本件賃金規則等は各支店に備え置かれ、いつでも閲覧可能な状態に置かれていたことが認められる。これらの事実によれば、本件賃金規則等において、本件各時間外手当は、時間外労働等に対する割増賃金として、他の賃金とは明確に区別された形式により定められていたことが認められる。
 本件賃金規則等は、時間外手当Aの算定に当たっては、基礎賃金に能率手当を組み込んでいない。これは、能率手当が、あくまでも、請負制賃金として一定の場合に支払われることに由来するものである。そして、能率手当の額は、他の手当と区別して具体的な金額が明らかにされているから、時間外手当Aの算定に当たって基礎賃金に能率手当を組み込んでいない点をもって、判別性の要件を欠くということはできない。
 時間外手当Aの総額が賃金対象額を上回る場合は、基本給としての能率手当も、これを基礎賃金として算定される時間外手当Bも支払われないことになり、請負制賃金である能率手当に関し、通常の賃金が支払われることがないのに、時間外手当のみが支払われるというような事態が生じることはなく、国際自動車事件第2次上告審判決(最高一小判:令和2年3月30日)が指摘した当審における控訴人らの補充主張のとおりの問題点は生じないというべきである。