| ID番号 | : | 09585 |
| 事件名 | : | 労働契約上の地位確認等請求事件 |
| いわゆる事件名 | : | アメリカン・エアラインズ事件 |
| 争点 | : | 経営悪化による再雇用拒否 |
| 事案概要 | : | (1)本件は、米国に本社を置く航空会社である被告(アメリカン・エアラインズ・インコーポレイテッド)との間で労働契約を締結し、本邦の成田国際空港において地上スタッフとして就労していた原告が、満60歳の定年に達したことをもって令和2年12月31日付けで被告を退職する予定となったことを受け、被告に対して定年後の再雇用に係る労働契約の締結を申し込んだ。これに対し、被告は新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大を受けた経営悪化に対応するべく労務費の削減を図ることを理由として、同契約の締結を拒否した。このため、原告は被告に対し、(1)主位的には、〈1〉就業規則(※)上、被告は原告の定年後の再雇用に係る労働契約の締結の申込みを承諾する義務があるから、被告による同契約の締結拒否は無効であり、原告と被告との間では原告の定年後も契約期間が有期となること以外は定年前と同一の労働条件で労働契約が成立している、〈2〉〈1〉に基づいて原告と被告との間で定年後の再雇用に係る労働契約が成立していないとしても、原告においては、定年に達した後も被告に継続雇用されるものと期待することについて合理的な理由があり、また、被告による定年後の再雇用契約の締結拒否には客観的に合理的な理由はなく、社会通念上も相当であるとはいえないから、労働契約法19条2号の適用若しくは類推適用により、原告と被告との間では原告の定年後も契約期間が有期となること以外は定年前と同一の労働条件で労働契約が成立しているとして、労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、労働契約に基づく未払賃金の支払を求め、(2)予備的に、被告は就業規則に基づき原告を65歳まで継続して雇用する義務を負っていたから、被告が原告の定年後の再雇用に係る労働契約の締結を拒否したことは債務不履行又は不法行為を構成するところ、これにより原告は65歳に達するまで継続して就労する機会を奪われ、その間の賃金相当額の損害及び精神的苦痛を被ったとして、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき、5年間分の賃金相当額及び慰謝料等の支払を求める事案である。 ※ 被告の就業規則(抜粋) イ 65条(雇用の終了) 次の各号のいずれかを含む事項に該当したとき、雇用は終了する。 5号 事業縮小、人員整理、組織再編成等により、社員の職務が削減されたとき。 ウ 67条(定年退職) 1項 社員が60歳に達した日の属する月の末日をもって定年とする。 2項 前項による定年到達者が引き続き勤務を希望した時は、1年契約の更新制とし再雇用する。ただし、定年の時点で69条の解雇事由又は65条の退職事由に該当する者は再雇用の対象としない。 (2)判決は、原告のいずれの請求も理由がないとして棄却した。 |
| 参照法条 | : | |
| 体系項目 | : | 解雇 (民事)/ 解雇制限 (労基法19条)/ (2) 定年と解雇制限 |
| 裁判年月日 | : | 令和5年6月29日 |
| 裁判所名 | : | 東京地裁 |
| 裁判形式 | : | 判決 |
| 事件番号 | : | 令和3年(ワ)6113号 |
| 裁判結果 | : | 棄却 |
| 出典 | : | 労働判例1305号29頁 |
| 審級関係 | : | 確定 |
| 評釈論文 | : | 有田謙司・労働法律旬報2054号39~40頁2024年4月25日 石田信平・労働判例1307号84~90頁2024年6月15日 |
| 判決理由 | : | 〔解雇 (民事)/ 解雇制限 (労基法19条)/ (2) 定年と解雇制限〕 (1)被告においては、定年に達した従業員から再雇用の申出を受けた場合、当該従業員について、いったん定年退職の扱いとし、再雇用後の労働条件について協議・合意した上で新たに労働契約を締結していたこと、その際、その時点のフライト数や業務内容、業務量等によって再雇用後のポジションや労働時間数、労働条件のオファーをし、定年後再雇用を希望する従業員との間で再雇用後の労働条件について調整し合意した上で個別に労働条件が決定されていたことが認められる(なお、就業規則67条3項4号及び5号は、定年後再雇用に係る労働条件が当然に定年前の労働条件と同一となるものではないことを前提とした規定であると解される。)。したがって、被告の定年後再雇用の制度が適用された場合に再雇用後の労働条件が定年前の労働条件と同一となるとはいえず、そのような慣行があったと認めることも困難といわざるを得ない。 (2)令和2年当時、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大を受けて航空旅客需要は大きく低下し、全世界に定期路線を設定していた被告も大幅な減便を余儀なくされるなど収益が著しく悪化し、多額の営業損失が生じたこと、被告は、経営悪化に対応するべく経費の削減に取り組み、その一環として従業員の雇用に要する労務費の削減を図ることとし、日本支社においても間接部門の正社員を約30%削減するなどの人員削減施策を講じ、併せて、同年9月頃、定年退職者の再雇用についても、これを中止ないし一時的に凍結することとし、定年退職する従業員が生じてもその後任者は補充せず、そのままそのポジションを廃止するという方針を決定したことが認められる。以上によれば、原告については、定年に達した令和2年12月の時点において、就業規則65条5号の「事業縮小、人員整理、組織再編成等により社員の職務が削減されたとき」という退職事由が存在していたものといわざるを得ないから、原告には就業規則67条2項ただし書所定の事由があったものと認められる。 (3)労契法16条は期間の定めのない労働契約を終了させるべくされた解雇を無効とし、従前と同様の期間の定めのない契約を継続させる効果を生じさせる旨の規定であるところ、前提事実等によれば、被告における定年後再雇用の制度は、期間の定めのない労働者が定年に達した場合に退職の効力を一旦発生させた上で、定年後の労働条件についてあらためて協議・合意して労働契約を締結するという構造の制度であることが認められ、本件も、原告と被告との間の期間の定めのない労働契約が原告の定年退職により一旦終了した後に被告が原告に対して定年後再雇用に係る労働契約を締結しなかったことの当否が争われている事案であって、被告による解雇がされたものではないのであるから、労契法16条が想定し、同条が規定するいわゆる解雇権濫用法理が適用される枠組みとは事案を異にするものであり、労契法16条及び同条に係る解雇権濫用法理の適用はもとより、類推の基礎をも欠くものといわざるを得ない。 (4)本件再雇用拒否は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によりグローバル企業であった被告の経営状態が世界規模で悪化したことに対応するための労務費の削減政策として日本支社で計画された定年後再雇用の制度の中止ないし一時的な凍結という社内施策に基づいて行われたものであるところ、そのような理由で定年後再雇用がされなかったことが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当とは認め難いとは断じ得ない。 以上によれば、原告において、定年退職後に本件契約と同内容の労働契約で雇用関係が継続すると期待することについて合理的な理由があったとはいえず、また、被告において、原告に対し本件再雇用拒否をしたことが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認め難いものともいえない。したがって、原告の頭書の主張は採用することができない。 (5)原告には就業規則67条2項ただし書に該当する事由が認められ、被告は、これを理由に原告に対し定年後再雇用の申出には応じられない旨の本件再雇用拒否をしたことが認められるから、被告において原告を定年後も雇用すべき債務又は注意義務があったものとは認め難いものといわざるを得ない。 |