全 情 報

ID番号 09586
事件名 未払賃金請求事件
いわゆる事件名 テレビ東京制作事件
争点 事業外労働みなし労働時間制の適用の有無
事案概要 (1)本件は、グループ会社である株式会社テレビ東京(以下「テレビ東京」という。)などで放送されるテレビ番組の企画制作の受託等を事業とする株式会社テレビ東京制作(以下「被告」という。)に雇用され、テレビ番組の演出及びプロデュースなどの番組制作業務(以下「制作業務」という。)を主たる業務とする制作センターに配置されていた原告が、被告に対し、(1)被告が原告の業務は「労働時間を算定し難いとき」(労基法38条の2第1項本文)に当たるとして、1日当たり、所定労働時間である7時間働いたものとみなされるとしていることに対し、これを否認し、法内超勤に対する賃金並びに労働基準法(以下「労基法」という。)37条に基づく時間外及び休日労働に対する割増賃金(以下「割増賃金」というとき、同条に基づくものを指す。)等の支払請求、(2)本件請求期間の割増賃金と同額の付加金等の支払請求、(3)被告が原告に対して平成31年2月19日にした出勤停止1日の懲戒処分(以下「本件処分〈1〉」という。)及び同年3月26日にした出勤停止3日の懲戒処分(以下「本件処分〈2〉」という。)がいずれも無効であることの確認請求と本件処分〈1〉、〈2〉により支払がされなかった賃金等の各支払請求、(6)本件処分〈1〉〈2〉は違法であり、これにより精神的苦痛を受けたと主張して不法行為に基づく損害賠償金等の支払請求、(7)被告が原告に対し平成30年2月4日から同年3月23日まで48日間の連続勤務をさせた行為や制作センターから業務センター総務部兼番組管理部への配置換え(以下「本件異動」という。)などは、いずれも不法行為であり精神的苦痛を被ったと主張して損害賠償金等の支払請求を行う事案である。
(2)判決は、労基法38条の2第1項による事業場外みなし労働の適用を認めず割増賃金等及び付加金等の請求並びに長時間労働等による不法行為による損害賠償を認容し、その余の請求を棄却した。
参照法条 労基法38条の2第1項
体系項目 労働時間 (民事) / 6 事業場外労働
裁判年月日 令和5年6月29日
裁判所名 東京地裁
裁判形式 判決
事件番号 平成31年(ワ)9026号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 D1-Law.com判例体系
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働時間 (民事) / 6 事業場外労働〕
(1)原告は、制作業務を一人で担当しており、企画、取材及び撮影は、被告の事業場外での労働が中心であり、編集についても事業場外の編集所で行う場合が多く、全体として、おおむね直行・直帰により行われていたものであり、上司などの管理者の目視できる場所で作業が行われることは少なかった。
 他方で、企画及び取材における初期の段階でも、管理者が、原告から、その日行った作業内容の結果を報告させることは可能であったといえる。さらに、一つの番組は2~8箇月といった比較的長い時間をかけて制作されるものであり、一旦企画書が採用された後は、企画書によって、取材及び撮影の対象、内容及び方法が一定範囲に定まるものであると認められるから、企画書が採用された後は、上司において、企画書などに基づき、原告から報告された日々の作業内容に基づいて進捗を確認し、指揮命令を行うことができるといえる。
 また、始業・終業時刻については、携帯できる端末でどの場所からでも入力できる勤怠管理のシステム(本件システム)で報告することとされており、同システムには、ボタン操作により即時記録される始業・終業時刻はもちろん、始業・終業時刻を手動で入力編集した時刻も逐一記録されるものであったから、上司において、始業・終業時刻を確認したり、入力状況を確認したりすることができた。
 本件システムの備考欄によって取材先が報告されることがあるほか、首都圏以外は出張届で事前に届出がされ、首都圏内でも交通費の申請がされ、上司において、取材場所の確認が可能であった。また、原告が撮影した全ての映像には、撮影時刻及び撮影対象が逐一記録されていたから、撮影の作業の裏付け確認を行うことも可能であった。放送局及び取材先との会合費は月ごとに領収証とともに報告がされていたから、これにより原告の報告した作業内容の真実性を確認することもできた。また、映像の編集を行う編集所からは、番組ごとの利用日及び時間帯が被告に報告されていたから、これにより、原告の編集作業時間を確認することが可能であった。
 さらに、原告は、被告から社用の携帯電話を所持するよう指示されており、被告からいつでも呼出し確認ができる状態となっていた。
 以上のことからすれば、原告の制作業務は、おおむね事業場外の労働であったといえるが、原告の上司において、上記ウの方法で、原告の労働時間を把握するため具体的な指揮監督を及ぼすことが可能なものであったといえる。
 したがって、制作業務は、その労働態様が、使用者が労働時間を十分把握できるほど使用者の具体的な指揮監督を及ぼし得ない場合であったとは認められず、労基法38条の2「労働時間を算定し難い場合」とはいえない。
(2)原告は、平成30年2月4日から同年3月23日まで48日間連続勤務を行ったことが認められる。なお、原告の法定時間外労働及び法定休日労働の合計は、平成30年2月及び3月はそれぞれ100時間を超えている。使用者が、労働者に対し、このような勤務を余儀なくさせることは、違法というよりほかはない。
 そして、原告の上司であるF部長においては、原告から、平成30年3月5日までに、本件システムにより同年2月4日から同月末日まで連続勤務した旨の報告を受けた上、同年2月23日及び同年3月14日に、同年2月23日から同年3月23日まで1日も休まず連続して勤務する内容のスケジュール報告を受けており、少なくとも、同年3月14日の時点においては原告が1箇月以上連続勤務を行っていることを知り得たといえる。この時点において、被告としては、原告の補助をさせる者を配置するか、フジテレビと協議して納期を伸ばすといった方法で、原告の負担を軽減すべきであった。
 したがって、被告には、労働時間を適正に把握し管理する義務があるのにこれを怠り、原告に平成30年2月4日から同年3月23日まで48日間連続勤務を行うことを余儀なくさせたものであり、不法行為が成立する。
 担当医師の診断によれば、原告が発病した適応障害は、本件異動に伴う環境変化及び人間関係による心理的負荷が要因とされるが、上記過重な業務による心理的負荷も発病の基盤となっていることは否定できないというべきである(上記適応障害については、労働基準監督署長が連続勤務との相当因果関係を認め、労働者災害補償保険法による業務上の疾病である旨認定している。)。
 慰謝料額については、上記不法行為が適応障害の発病の基盤となったこと、その治療内容、治療期間及び治療頻度を考慮し、不法行為についての原告の請求額どおり、100万円とするのが相当である。