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ID番号 09587
事件名 賃金等請求控訴事件
いわゆる事件名 阪神電気鉄道事件
争点 勤務割表による勤務指定日の年休の時季変更権
事案概要 (1)鉄道事業を営む被控訴人(阪神電気鉄道株式会社)に雇用されて車掌として勤務していた控訴人は、平成30年8月19日に同年9月19日の年次有給休暇についての時季指定をしたところ、被控訴人により時季変更権を行使されたが出勤せず、翌20日に欠勤を理由とする注意指導を受け、1日分の賃金を減給された。
 本件は、控訴人が、上記時季変更が違法であると主張して、被控訴人に対し、〈1〉雇用契約に基づき、減給された賃金等〈2〉労働基準法114条に基づき、上記賃金と同額の付加金等、〈3〉不法行為に基づき、違法な時季変更権の行使を前提とする注意指導による慰謝料50万円等の各支払を請求する事案である。
 原判決(大阪地判)は、被控訴人の時季変更権は適法であるとして、控訴人の請求を棄却したところ、控訴人は、原判決を不服として控訴した。
(2)判決は、控訴人の請求は、いずれも理由がないから棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であるとして、控訴を棄却した。
参照法条 労働基準法39条
体系項目 年休 (民事)/ 3 時季指定権
裁判年月日 令和5年6月29日
裁判所名 大阪高裁
裁判形式 判決
事件番号 令和5年(ネ)239号
裁判結果 控訴棄却
出典 労働判例1299号12頁
労働経済判例速報2528号22頁
審級関係 確定
評釈論文 白石浩亮・経営法曹220号119~125頁2024年6月
判決理由 〔年休 (民事)/ 3 時季指定権〕
(1) 控訴人は、Q1列車所は、恒常的に要員不足の状態にあり、このような職場において、労使合意に基づく取扱いであることは時季変更権の行使を正当化する理由にならないから、本件時季変更は、欠員の補充が適切になされていなかった点において違法である旨主張するところ、この点、控訴人の指摘するとおり、本件時季変更当時、西部列車所の車掌の在籍数は90名(運転見習生を除く。)であり、そのうち1名は復職教育中で、乗務循環表の勤務シフト数の91よりも少なかったこと、控訴人が、平成30年に休日出勤を2日行い、W勤務を17日行ったことが認められる。
 しかし、乗務循環表のシフトには予備循環のシフトが複数含まれていて、Q1列車所の車掌在籍数は、列車の運行に必要な人員数に達していないわけではないこと、時間外労働であるW勤務は三六協定及び労使間の合意の範囲内で命じられていたことに照らせば、控訴人指摘の事実から直ちにQ1列車所が「恒常的に要員不足の状態」にあったとは認められない。
 むしろ、これらの事情や、Q1列車所所属の車掌職の平成30年の年休取得率は96.6%であり、同年4月1日から平成31年3月31日までの年休申請に対して時季変更権が行使されたのは4.7%であったこと、控訴人自身も、平成27年から本件時季変更までの3年間、毎年年休を100%取得し、時季変更権を行使されたことがなかったことを併せ考慮すれば、Q1列車所は、本件時季変更当時、「恒常的な要員不足の状態」ではなかったというべきである。
(2) 控訴人は、Q1列車所では、年休取得の代替勤務の補充を時間外労働であるW勤務に依存していたところ、W勤務の人数は三六協定による時間外労働の上限を守るために制限されていたのであって、本件時季変更は、この点においても違法である旨主張する。
 しかし、予備循環のみで対応しきれない年休取得の時季指定に対して原則としてW勤務で対応する旨の労使間の合意は、週2日の公休日を確保するためのものであり、W勤務の本数に関する労使間の合意は乗務員の勤務負荷の軽減を図ったものであって、これらは、三六協定による時間外労働の上限を守るためのものとは認められない。そして、このような西部列車所における労使間の合意ないし週休制の運用に基づく取扱いに反しなければ補充人員を確保できない状況の下で、公休出勤を命じるなどして代替勤務者を確保することは、労使間の合意や慣例に反する取扱いを認め、公休出勤を命じられる者よりも年休取得希望者を優先することにつながりかねないものであって、被控訴人がなすべき「通常の配慮」とはいえず、これを行わなかったことをもって本件時季変更が違法であるとは解されない。
(3) 控訴人は、本件時季変更は、9月19日の社用による「勤務抜き」2名の代替勤務の補充について公休出勤を命じなかった点においても違法である旨主張する。
 しかし、Q1列車所においては、班協議会で協議・決定された「勤務実施表の基準」において、公休出勤はなるべく発生させない旨が定められ、年休取得のために公休出勤を命じないことが労使間の合意内容又は慣例となっており、社用による「勤務抜き」も、その必要が生じた時点で後補充について年休取得と同様の対応が可能であれば、後補充のために公休出勤を命じない運用がなされていたものである。この事情に照らせば、上記(2)に説示したのと同様、「勤務抜き」の必要性が生じた後に控訴人らから年休申請がなされた9月19日の場合に、「勤務抜き」の後補充のために公休出勤を命じなかったことをもって、本件時季変更が違法であるとは解されない。