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ID番号 09588
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 JR東海(年休・大阪)事件
争点 年休の時季変更権の違法性
事案概要 (1)本件は、旅客鉄道事業等を目的とする東海旅客鉄道株式会社(以下「被告」という。)の大阪第二運輸所において東海道新幹線の乗務員として勤務していた原告が、平成27年4月1日から平成28年3月31日まで(以下「平成27年度」という。)及び平成28年4月1日から平成29年3月31日まで(以下「平成28年度」といい、平成27年度及び平成28年度を併せて「本件期間」という。)において、合計128日の年次有給休暇(以下「年休」という。)の時季指定をしたところ、このうち95日について、被告から、労働基準法(以下「労基法」という。)39条5項所定の時季変更権を行使されずに休日(公休、特休)と指定されたり休日勤務を命じられたりしたほか、同項所定の要件を満たさない違法な時季変更権を行使されたことにより、年休を取得することができず、本件期間に付与された年休のうち7日分の年休権が消滅するなどして精神的、肉体的苦痛を被ったと主張して、労働契約上の債務不履行又は不法行為に基づき、慰謝料40万円等の支払を求める事案である。
(2)判決は、本件各時季変更は、違法ということはできないとして、原告の請求を棄却した。
参照法条 民法 709条
労基法39条5項
体系項目 年休 (民事) / 4 時季変更権
裁判年月日 令和5年7月6日
裁判所名 大阪地裁
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(ワ)11592号
裁判結果 棄却
出典 労働判例1294号5頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 控訴
評釈論文 淺野高宏・労働法律旬報2044号33~34頁2023年11月25日
判決理由 〔年休 (民事) / 4 時季変更権〕
(1)時季変更権行使の要件である「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するか否かの判断に当たって、代替勤務者確保の難易は、その判断の一要素となるというべきであるが、特に、勤務割による勤務体制がとられている事業場の場合には、重要な判断要素であるというべきである。このような事業場において、勤務割における勤務予定日につき年休の時季指定がされた場合に、使用者としての通常の配慮をすれば、代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にあると認められるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしないことにより、代替勤務者が配置されないときは、必要配置人員を欠くものとして事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできないと解するのが相当である(最高裁昭和62年7月10日第二小法廷判決・民集41巻5号1229頁参照)。
(2)使用者が通常の配慮をしたとしても代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況になかったと判断しうる場合には、使用者において代替勤務者を確保するための配慮をしたとみうる何らかの具体的行為をしなかったとしても、そのことにより、使用者がした時季変更権の行使が違法となることはないものと解するのが相当である(最高裁平成元年7月4日第三小法廷判決・民集43巻7号767頁参照)。
(3)大阪第二運輸所が恒常的な要員不足であったかについて
 本件で基準人員の算定が合理性を欠くなどの事情があったと認めることはできず、平成27年度及び平成28年度の年休取得の実績が他の年度に比べて低いことを考慮しても、本件期間中、大阪第二運輸所が恒常的な要員不足の状態にあったと認めることはできない。
(4)被告の年休に関する運用は労基法39条5項に反するかについて
 大阪第二運輸所における勤務指定表の作成作業をはじめとする勤務割の作成過程によれば、被告は、業務の正常な運営ができる範囲を定量的に算出し、この範囲内か否かをもって事業の正常な運営に支障を生じるか否かを判断しているものであり、そのような運用が同項に反するものとはいえない。
(5)合理的期間内に時季変更権の行使がされていないかについて
 原告は、前月20日までに年休の時季指定をした場合には、年休の時季指定から時季変更権の行使(勤務日5日前)まで相当期間があることから、合理的期間内に時季変更権の行使がされなかった旨主張する。しかしながら、勤務指定表発表時(前月25日)には、連続休暇制度及び優先休暇制度の利用者の年休取得に加えて、年休順位制度の対象者のうち一部の年休取得を発表しており、原告が平成27年度に取得した年休19日のうち14日、平成28年度に取得した年休14日のうち7日については、勤務指定表発表時に発表されていた。このように、大阪第二運輸所では、年休の時季指定後の勤務割の策定過程において優先して割り当てるべき乗務員から年休が順次割り当られており、原告においては半数を超える年休が年休申込簿への記入期限から5日後までに発表されており、勤務指定表発表時に勤務割を確定することができたとはいい難いことからすると、時季変更権の行使が年休の時季指定から合理的期間を経過していたということができない。
(6)使用者としての通常の配慮をすれば、代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にあったかについて
 大阪第二運輸所では、年休の時季指定を踏まえた勤務割の作成がされていたところ、勤務日5日前に勤務割が確定した時点においては、他に代替勤務者を確保する方法を容易に見いだすことはできず、勤務割を変更して代替勤務者を確保することは困難であったから、本件期間における被告の年休の運用について、使用者としての通常の配慮をすれば代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にあったとまではいうことができない。
(7)本件各時季変更は、2暦日にわたる行路のうちの1日であるか原告の優先順位が低い日になされたものであり、いずれも労基法39条5項ただし書の「事業の正常な運営を妨げる場合」に当たるから、適法である。