全 情 報

ID番号 09595
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 医療法人社団健医会ほか事件
争点 コロナ禍における検温表未提出の歯科衛生士の解雇の有効性
事案概要 (1)歯科医院を営む被告法人(医療法人社団健医会)に雇用されていた歯科衛生士の原告は、原告の検温表の不提出を主な理由として解雇された。このため原告は、〈1〉被告法人の原告に対する解雇は無効であるとして、被告法人に対し、雇用契約上の地位の確認並びに未払い分の賃金の請求、〈2〉被告法人代表者である被告Yの原告に対する発言及び解雇は社会通念上許容し得る範囲を超えたものであって不法行為に当たるとして、被告Yに対しては不法行為に基づく損害賠償請求として、被告法人に対しては使用者責任に基づき、連帯して、損害賠償を請求する事案である。
(2)判決は、本件解雇は解雇権を濫用したものではない、被告Yの本件発言から本件解雇に至るまでの一連の行為が不法行為であるとは認められないとして、原告の請求をいずれも棄却した。
参照法条 労働契約法16条
体系項目 解雇 (民事)/ 3 解雇権の濫用
裁判年月日 令和5年8月24日
裁判所名 東京地裁立川支部
裁判形式 判決
事件番号 令和4年(ワ)733号
裁判結果 棄却
出典 労働判例1310号92頁
審級関係 控訴(後、和解)
評釈論文
判決理由 〔解雇 (民事)/ 3 解雇権の濫用〕
(1)令和2年ころから新型コロナウイルス感染症によりさまざまな業種において業務継続のための対策を工夫してきていたところ、同年5月には感染リスクが最も高い職種は歯科衛生士であると指摘されるなど、歯科医院においては一層感染防止対策が必要と認識され、同年8月には、公益社団法人日本歯科医師会が感染防止対策として歯科医療従事者が毎日欠かさず体温を計りそれを報告するシステムが有効であると指摘するなど、体温計測が有効な対策の一つであると一般に認識されており、令和3年12月にも同様に認識されていた。
(2)令和3年12月1日に至っては、被告Yの検温表提出の促しに対し、原告は、パワハラを理由に直接の対話を拒み、被告法人が原告に対して指導の継続をすることすら難しくなった。
 原告のこのような頑固なまでの長期にわたる検温表提出に協力せず是正を拒む態度は、本件歯科医院を含む歯科医院の新型コロナウイルス感染症対策における職員に対する検温の重要性にかんがみると、本件歯科医院の存続を危ぶませかねないほどに悪質であるから、本件解雇には客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる。本件解雇につき、被告法人がその権利を濫用したものであるとはいえない。
(3)本件歯科医院においては、歯科衛生士が業務量を理由に早退できるのは歯科医師の最終判断に委ねられていたところ、原告は、一旦被告Yから早退してはいけないと断言されたにもかかわらず、執拗に理由を求め、原告の問いかけは、何度被告Yが答えても、被告Yが診察室から消毒室へ、再度診察室へと移動した後も、あたかも被告Yの怒りをあえて惹起させるかのように継続されたのであるから、その会話の中で、被告Yの語気が「何でじゃねえんだよ。」と多少強くなったとしても、社会通念上不相当とはいえない。被告Yの発言は、原告に対する不法行為とはいえない。