全 情 報

ID番号 09600
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 国立大学法人佐賀大学事件
争点 契約期間中の解雇と雇止めの有効性
事案概要 (1)本件は、Y大学医学部附属病院(以下「附属病院」という。)を設置、運営している国立大学法人である被告に平成29年9月1日に採用され、任期を令和4年8月31日までの5年間として、Y大学教授医学部医学科胸部・心臓血管外科学講座(以下「本件教授職」という。)に任命され就労していた医師である原告が、被告から同契約(以下「本件雇用契約」という。)の期間中の平成30年9月30日付けで解雇予告手当を支払われた上で解雇(以下「本件解雇」という。)されたことが無効であり、同契約の期間満了時に雇止め(以下「本件雇止め」という。)されたことも無効である旨主張して、被告との間で同契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、同契約に基づき、被告に対し、平成30年11月から本判決確定日まで本件解雇後の月例賃金等の支払を求めた事案である。
(2)判決は、雇止めは有効であるが、契約期間途中での解雇は無効であるとして、解雇後雇止めまでの期間の賃金等の支払を命じた。
参照法条 労働契約法17条1項
労働契約法19条2号
体系項目 解雇 (民事)/ 14 短期労働契約の更新拒否 (雇止め)
解雇 (民事)/ 13 解雇権の濫用
裁判年月日 令和5年12月12日
裁判所名 福岡地裁
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(ワ)3611号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 D1-Law.com判例体系
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇 (民事)/ 14 短期労働契約の更新拒否 (雇止め) 〕
(1)本件雇用契約の内容は、原告が本件教授職と本件診療科長職を兼任し、附属病院心臓血管外科で手術に従事するというものであるところ、本件鑑定の結果によれば、原告は、心臓外科の専門医として標準的なレベルの手術手技を行える能力を有していたと評価されており、その能力が著しく低かったとまではいえないことに加え、附属病院心臓血管外科の手術件数、診療報酬の減少の責任が全て原告にあるということはできないこと、手続的相当性その他の事情を併せ考慮すると、G院長の陳述及び附属病院循環器内科のac准教授の陳述によれば原告が本件診療科長職に就いて以降附属病院に心臓血管外科と循環器内科の連携不全その他の業務上の支障が生じていたことが認められることを踏まえても、原告について本件雇用契約の期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような特別の重大な事由があったとは評価できない(本件解雇事由とされた就業規則19条1号の勤務成績又は業務能率が著しく不良と認められる場合及び同条4号その他前三号に準ずる客観的かつ合理的な事由があるときに該当するともいえない。)。したがって、本件解雇は労働契約法17条1項の「やむを得ない事由がある場合」に該当せず、無効である。
〔解雇 (民事)/ 3 解雇権の濫用〕
(2)確かに、本件雇用契約には、更新回数について特段の定めがない一方、定年制の適用がある旨の規定が設けられていることに加え、本件教授職が従事すべき業務には、大学における研究、教育(授業)その他の恒常的な業務が一次的に含まれていることからすると、原告は本件雇用契約について基本的に長期にわたる雇用の継続を期待していたことが窺われる。
 しかし、被告は、任期付教育職員再任規程2条において、有期雇用契約による教育職員の任期の上限を5年と定め、任期が5年に達した教育職員については期間満了時の業務量、勤務成績・態度、能力、被告の経営状況等を基準として再任審査を行い、その審査をクリアした場合無期雇用契約に転換させる運用をしており、被告に本件教授職として雇用された原告が当該運用の対象となる(5年を超える有期雇用契約の更新が所与のものとされていない)ことは明らかであるし、大学の教員の雇用については一般に専門性・流動性のあることが想定されていることからすれば、就業規則に定年制の適用があるとの規定が設けられているとしても、それは再任審査をクリアして無期雇用契約への転換が認められた場合に適用される規定であると解されるのであって、当然に定年までの雇用継続が予定されていることを意味する規定であるとは解されない。このように、本件雇用契約の契約期間が上限の5年間と定められ、それ以上の有期雇用契約としての更新は予定されていない以上、原告において本件雇用契約が有期雇用契約として更新される旨の期待を有していたとしても、そのことについて合理的な理由があるとまでは認められない。
(3)本件雇用契約については、契約期間満了時に被告が原告の業務量、勤務成績・態度、能力、被告の経営状況等を基準として再任審査を行い、その審査をクリアした場合に限り無期雇用契約への転換が認められている。そして、有期雇用契約から無期雇用契約への転換は使用者にとって重大な効果をもたらすことに照らすと、使用者である被告には再任審査において上記基準を検討する際に一定範囲の裁量が留保されているものと解される。
(4)したがって、原告には労働契約法19条2号に該当する事由が認められないし、本件雇用契約が無期雇用契約に転換したとも認められないから(なお、本件雇用契約は、原告と被告との間で締結された最初の労働契約であり、原告と被告との間に「二以上の有期雇用契約」は存在しないから、同法18条1項の適用もない。)、本件雇止めは有効であり、本件雇用契約は、契約期間満了をもって終了したというべきである。
(5)原告は、本件解雇がされた平成30年9月30日から本件雇用契約(有期雇用契約)の期間が満了した令和4年8月31日までの間、被告の責めに帰すべき事由により就労不能の状態にあったというべきであり、当該期間中の賃金支払請求権を失わない(民法536条2項本文)。そして、原告が支払を受けるべき未払賃金の額は、本件解雇がされなかったならば当該期間中に本件雇用契約に基づき確実に支払を受けることのできた賃金の合計額であると認めるのが相当である。