全 情 報

ID番号 09601
事件名 地位確認等請求事件(27187号)、損害賠償請求事件(12591号)
いわゆる事件名 FIRST DEVELOP事件
争点 採用内定辞退の有効性と不法行為
事案概要 (1)本件本訴事件は、原告(中華人民共和国籍で令和4年3月に日本の大学を卒業)が被告(IT関連システム開発、コンピュータソフトウェアの開発、製造及び販売業務等を目的とする株式会社)に対し、被告において原告が内定を辞退したと扱ったこと(以下「本件内定辞退扱い」という。)は違法無効であると主張して、労働契約に基づき、〈1〉労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、〈2〉令和4年4月1日から本判決確定の日までの賃金(月額20万円)等の支払を求めるとともに、〈3〉不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料200万円及び弁護士費用20万円等の支払を求める事案である。
 本件反訴事件は、被告が原告に対し、原告による恐喝及び詐欺行為があったとして、不法行為に基づき、慰謝料405万円等の支払を求める事案である。
(2)判決は、原告が労働契約上の権利を有する地位にあること、本件労働契約に基づく賃金請求権を失わないこと、被告の不法行為を認め原告に対する慰謝料30万円の支払を命じ、被告の請求を棄却した。
参照法条 労働契約法16条
民法536条2項
体系項目 労働契約 (民事) /採用内定/ (2) 取消し
裁判年月日 令和5年12月18日
裁判所名 東京地裁
裁判形式 判決
事件番号 令和4年(ワ)27187号/令和5年(ワ)12591号
裁判結果 一部認容、一部棄却(27187号)、棄却(12591号)
出典 D1-Law.com判例体系
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約 (民事) /採用内定/ (2) 取消し〕
(1)本件内定辞退扱いは、被告代表者が原告の研修内容等に不満を持ち、原告からの内定辞退の申出がないにもかかわらず、原告が採用内定を辞退したものと被告が取り扱ったものと認めるのが相当である。
 原告は、就労ビザを取得しないと帰国を余儀なくされる立場にあったところ、令和4年1月17日に被告から採用内定を取得したことを受け、同月18日に得ていた他社からの採用内定を断っており、就労可能な在留資格のためには同年4月1日から被告に入社する必要性が高かったといえること、原告は、被告の原告に対する内定辞退通知の送付などについての対応について東京都労働相談情報センターに相談に行っており、被告への入社実現に向けた行動をしていることなどが認められる。
 このような状況において、原告が被告の採用内定を辞退することは考え難く、被告代表者の供述を採用することはできない。本件内定辞退扱いは、被告による労働契約の一方的な解約の意思表示(採用内定の取消し)であるところ、客観的合理的理由を欠き、権利濫用に当たり無効である。したがって、原告は被告に対し、本件労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあると認められる。
(2)被告は、令和4年4月3日及び4日、原告に対し、被告に出勤するよう伝えたが、原告は被告に出社しなかったことが認められる。しかし、原告は、同年3月28日に本件内定辞退扱いを受けた後、本件内定辞退扱いをどう処理するのか被告との間で話合いはされておらず、また、被告から本件内定辞退扱いを撤回するなどの意思表示もないままに出勤するよう伝えられており、被告から原告に対し適法な出勤命令があったと認めることはできない。したがって、原告が被告に出勤せずに、就労していなかったことは認められるものの、それは使用者である被告の責めに帰すべき事由によるものといえる。したがって、原告は被告に対する本件労働契約に基づく賃金請求権を失わない(民法536条2項)。
(3)本件内定辞退扱いは無効であるところ、認定事実によると、原告は、被告の指示に従い入社前に事前研修を受けたが、その内容・進捗状況等について、被告から原告が不足する部分について具体的な指摘はなかったこと、採用内定辞退の申出をしていないにもかかわらず、被告から一方的に原告が辞退したという扱いをされたこと、本件内定辞退扱いの数日後には説明もなく出社を命じられるなどしたことなどが認められる。また、被告に対し、原告から、被告の対応について説明を求めても、原告からの連絡に応答しないなど原告からの連絡自体を拒絶されていたこと、原告は、被告に入社できなかったことにより、就労可能な在留資格を維持するため、3か月以内に新しい仕事を見つけられなければ帰国せざるを得ない状況に置かれたこと、このような状況に原告が精神的に追い詰められたことなども認められる。上記事実関係の下では、本件内定辞退扱いは、留学生であった原告の生活状況を著しく不安定な状態に陥れるものであり、著しく相当性を欠くといえ、原告に対する不法行為を構成するというべきである。
 そして、上記事情を総合的に考慮すれば、原告には、財産的損害を回復してもなお償えない精神的損害が存在すると認めるに足りる特段の事情があるというべきであり、その慰謝料は30万円と認めるのが相当である。
(4)原告の被告に対する不法行為が成立する旨主張は、いずれもその内容において、脅迫、強要、恐喝、詐欺行為のいずれにも当たらない。したがって、被告の上記主張を採用することはできず、原告の被告に対する不法行為は成立しない。