| ID番号 | : | 09604 |
| 事件名 | : | 損害賠償等請求事件 |
| いわゆる事件名 | : | 社会福祉法人滋賀県社会福祉協議会事件 |
| 争点 | : | 職務限定契約における配転の有効性 |
| 事案概要 | : | (1)本件は、被告(社会福祉法人滋賀県社会福祉協議会)との間の労働契約に基づき、被告の本件福祉用具センターにおいて主任技師として勤務してきた原告が、 〈1〉被告が、安全性に重大な問題のある福祉用具について、寸法を変更し安全を確保する必要があるとの提案を繰り返した原告に対し、その製作を繰り返し命じ、服務拒否理由書の提出を求め、業務命令拒否などを理由に本件訓戒書を交付し、繰り返し撤回を求められても本件訓戒書を撤回しなかったことなどにより、原告が精神疾患を発病して病気休職に至り、約2年1か月間にわたり通院加療を要することになったとして、労働契約上の安全配慮義務違反の債務不履行による損害賠償請求権に基づき、被告に対し、通院慰謝料相当額等の支払、 〈2〉被告が、原告の復職後、本件福祉用具センターの所長や管理職の発言・態度等について、パワーハラスメントに該当するとして被告の内部相談窓口に通報した原告に対し、詳細な検討を行うことなく、パワーハラスメントに該当しないとの回答を繰り返し、18年間勤務してきた福祉用具センターの技術職から総務課の施設管理担当に配転する内容の違法な本件配転命令を強行し、また、被告の職員給与規程を改正したことを受けた新たな人事評価制度に基づく人事評価において、原告を5段階評価のうちの最低ランクに位置づけ、原告の基本給を月額3000円減額するという本件不利益変更を行ったことにより、原告が精神疾患を再発して、現在も被告に勤務できない状況が続いており、通院加療を続けているとして、労働契約上の安全配慮義務違反の債務不履行又は不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告に対し、通院慰謝料相当額等の支払、 〈3〉本件配転命令は、原告と被告との間の職種限定合意に反するものであり違法であるか、又は、業務上の必要性、合理性が全く認められず、かつ、原告に甘受できない不利益があるとともに、被告に不当目的が認められるので権利濫用であるかのいずれかであるところ、これにより原告が精神的苦痛を被ったとして、配転法理に照らした労働契約違反による債務不履行又は不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告に対し、慰謝料100万円及び弁護士費用10万円の合計110万円等の支払、 〈4〉本件不利益変更は、違法な本件配転命令と同時期に原告の人事評価を最低ランクに位置づけて行われたものであり、原告が福祉用具の安全性について正当な意見を述べ続けることに対して不当な評価が行われた結果によるものであるから、人事権の濫用に当たり、違法・無効であるところ、これにより原告の令和元年6月度分賃金が9000円の未払となり、同年7月度分賃金が3000円の未払になるとして、労働契約による賃金請求権に基づき、被告に対し、未払賃金等の支払 を求めるものである。 (2)判決は、原告の(1)〈4〉の請求を認容し、他の請求を棄却した。 |
| 参照法条 | : | 労働契約法3条5項 |
| 体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣/ 3 配転命令権の濫用 |
| 裁判年月日 | : | 令和4年4月27日 |
| 裁判所名 | : | 京都地裁 |
| 裁判形式 | : | 判決 |
| 事件番号 | : | 令和1年(ワ)3532号 |
| 裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
| 出典 | : | 労働判例1308号20頁 労働経済判例速報2552号13頁 労働法律旬報2059号50頁 裁判所ウェブサイト掲載判例 D1-Law.com判例体系 |
| 審級関係 | : | 控訴 |
| 評釈論文 | : | |
| 判決理由 | : | 〔配転・出向・転籍・派遣/ 3 配転命令権の濫用〕 (1)18年間の間、原告は、本件福祉用具センターにおいて溶接のできる唯一の技術者であったことからすれば、原告を機械技術者以外の職種に就かせることは被告も想定していなかったはずであるから、原告と被告との間には、被告が原告を福祉用具の改造・製作、技術開発を行わせる技術者として就労させるとの黙示の職種限定合意があったものと認めるのが相当である。 (2)被告は、平成30年頃には、本件福祉用具センターにおける福祉用具の改造・製作をやめることも視野に入れ始めており、本件配転命令の頃には、改造・製作をやめることに決めていたものと認めるのが相当である。そして、福祉用具のセミオーダー化により、既存の福祉用具を改造する需要が年間数件までに激減していることからすれば、その程度の改造需要のために、月収約35万円の原告を専属として配置することに経営上の合理性はないとの判断に至るのもやむを得ないということができるから、被告において福祉用具の改造・製作をやめたことをもって不当ということはできない。また、本件配転命令当時、本件福祉用具センターにおいては、総務担当者が病気により急遽退職し、総務課が欠員状態となったことから、総務担当者を補填する必要があった。そうすると、原告と被告との間に黙示の職種限定合意は認められるものの、福祉用具の改造・製作をやめたことに伴って原告を解雇するという事態を回避するためには、原告を総務課の施設管理担当に配転することにも、業務上の必要性があるというべきであって、それが甘受すべき程度を超える不利益を原告にもたらすものでなければ、権利濫用ということまではできないものと考える。 以上によれば、本件配転命令をもって権利の濫用ということはできず、本件配転命令が違法・無効ということもできないから、この点に関する原告の請求には理由がない。 (3)原告には業務命令に従って平成21年5月依頼品の製作をする義務があったということができるから、繰り返し命じられたにもかかわらず、当該業務命令に従わない原告に対し、被告が本件服務拒否理由書の提出を求めたことをもって違法ということはできない。 本件訓戒書には真実が書かれているのであって、被告が原告に対して本件訓戒書を交付したことも、繰り返し撤回を求められても撤回しなかったことも、違法ということはできない。 (4)原告は、被告の量的実績について、考課者評価が「1」になる根拠はないと主張するので、この点について検討する。原告の平成30年度の改造・製作の実績が2件であったこと、そのほかに原告が改造・製作、開発に該当する業務に従事したのは本件スロープの製作のみであったことが認められ、原告の実績はかなり低かったということができる。 もっとも、本件福祉用具センターにおける改造・製作の実施件数が年間数件にまで下落していることからすれば、そもそも原告が従事することのできる業務が少なかったのであって、しかも、使用者である被告は、原告がどのような業務に従事しているのかを把握しておらず、具体的な業務の指示を与えていたわけでもないのであるから、原告の業績を2件のみとして原告の実績を判断するのは不当というべきである。 以上によれば、本件不利益変更は人事権の濫用により違法・無効であるから、この点に関する原告の主張には理由がある。 本件不利益変更が人事権の濫用で違法・無効となると、原告は、未払賃金請求権に基づき、平成31年4月度から令和元年6月度までの減額分合計9000円及び同年7月度分の減額分3000円を請求することができる。 (5)本件不利益変更が人事権の濫用により違法・無効であることは判示のとおりであるところ、これのみをもって原告の精神疾患が再発したことを認めるに足りる証拠はない。そして、本件不利益変更の際に、被告において、不当な目的を有していたなどの事情が見当たらないことからすれば、本件不利益変更により原告が被った精神的苦痛は、未払賃金の給付により慰謝されるものと認めるのが相当である。よって、この点に関する原告の請求には理由がない。 |