全 情 報

ID番号 09606
事件名 損害賠償等請求事件
いわゆる事件名 社会福祉法人滋賀県社会福祉協議会事件
争点 職務限定契約における配転の有効性
事案概要 (1)本件は、被上告人(社会福祉法人滋賀県社会福祉協議会)との間の労働契約に基づき、被上告人の本件福祉用具センターにおいて主任技師として勤務してきた上告人が、
〈1〉被上告人が、安全性に重大な問題のある福祉用具について、寸法を変更し安全を確保する必要があるとの提案を繰り返した上告人に対し、その製作を繰り返し命じ、服務拒否理由書の提出を求め、業務命令拒否などを理由に本件訓戒書を交付し、繰り返し撤回を求められても本件訓戒書を撤回しなかったことなどにより、上告人が精神疾患を発病して病気休職に至り、約2年1か月間にわたり通院加療を要することになったとして、労働契約上の安全配慮義務違反の債務不履行による損害賠償請求権に基づき、被上告人に対し、通院慰謝料相当額等の支払、
〈2〉被上告人が、上告人の復職後、本件福祉用具センターの所長や管理職の発言・態度等について、パワーハラスメントに該当するとして被上告人の内部相談窓口に通報した上告人に対し、詳細な検討を行うことなく、パワーハラスメントに該当しないとの回答を繰り返し、18年間勤務してきた福祉用具センターの技術職から総務課の施設管理担当に配転する内容の違法な本件配転命令を強行し、また、被上告人の職員給与規程を改正したことを受けた新たな人事評価制度に基づく人事評価において、上告人を5段階評価のうちの最低ランクに位置づけ、上告人の基本給を月額3000円減額するという本件不利益変更を行ったことにより、上告人が精神疾患を再発して、現在も被上告人に勤務できない状況が続いており、通院加療を続けているとして、労働契約上の安全配慮義務違反の債務不履行又は不法行為による損害賠償請求権に基づき、被上告人に対し、通院慰謝料相当額等の支払、
〈3〉本件配転命令は、上告人と被上告人との間の職種限定合意に反するものであり違法であるか、又は、業務上の必要性、合理性が全く認められず、かつ、上告人に甘受できない不利益があるとともに、被上告人に不当目的が認められるので権利濫用であるかのいずれかであるところ、これにより上告人が精神的苦痛を被ったとして、配転法理に照らした労働契約違反による債務不履行又は不法行為による損害賠償請求権に基づき、被上告人に対し、慰謝料100万円及び弁護士費用10万円の合計110万円等の支払、
〈4〉本件不利益変更は、違法な本件配転命令と同時期に上告人の人事評価を最低ランクに位置づけて行われたものであり、上告人が福祉用具の安全性について正当な意見を述べ続けることに対して不当な評価が行われた結果によるものであるから、人事権の濫用に当たり、違法・無効であるところ、これにより上告人の令和元年6月度分賃金が9000円の未払となり、同年7月度分賃金が3000円の未払になるとして、労働契約による賃金請求権に基づき、被上告人に対し、未払賃金等の支払
を求めるものである。
(2)1審判決は、上告人の(1)〈4〉の請求を認容し、他の請求を棄却した。これに対し、上告人及び被上告人がこれを不服として控訴した。
(3)原審判決は、1審判決は相当であり、上告人及び被上告人の本件控訴はいずれも理由がないとして、いずれも棄却した。これに対し、上告人は、職種及び業務内容の変更を伴う配置転換命令は上告人の職種等を限定する旨の合意に反するなどとして、被上告人に対し、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求(以下「本件損害賠償請求」という。)等を求め上訴した。
(4)判決は、原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとして、原審判決の一部を破棄し、原審に差し戻した。
参照法条 労働契約法3条5項
労働契約法8条
体系項目 配転・出向・転籍・派遣/ 3 配転命令権の濫用
裁判年月日 令和6年4月26日
裁判所名 最高裁二小
裁判形式 判決
事件番号 令和5年(受)604号
裁判結果 一部破棄差戻し
出典 最高裁判所裁判集民事271号109頁
判例タイムズ1523号80頁
金融法務事情2245号69頁
労働判例1308号5頁
労働経済判例速報2552号7頁
労働法律旬報2059号43頁
裁判所ウェブサイト掲載判例
上訴等 差戻し
評釈論文 河津博史・銀行法務21 68巻7号70頁2024年6月
橋本陽子・ジュリスト 1600号4~5頁2024年8月
岡芹健夫・労働経済判例速報 2552号6頁2024年7月30日
西本良輔・労働判例 1310号174~175頁2024年8月1日
三笘裕/監修/伊藤環・ビジネス法務 24巻10号12頁2024年10月
淺野高宏(労働判例研究会)・法律時報 96巻12号119~122頁2024年11月
藤原宇基、豊岡啓人・金融法務事情 2245号36~43頁2024年11月10日
向井蘭・ビジネス法務 24巻11号51~55頁2024年11月
志水深雪(〓敏)・ジュリスト 1605号98~104頁2025年1月
竹内(奥野)寿(東京大学労働法研究会)・ジュリスト 1605号142~145頁2025年1月
旬刊経理情報 1730号60~62頁2024年12月20日
佐藤慶・銀行法務21 69巻1号36~42頁2025年1月
白石浩亮・経営法曹 222号26~31頁2024年12月
金井幸子・速報判例解説〔35〕――新・判例解説Watch〔2024年10月〕(法学セミナー増刊) 253~256頁2024年10月
土田道夫・季刊労働法 288号82~97頁2025年3月
志村由貴・法律のひろば 77巻5号80~84頁2024年10月
石井妙子・民事判例研究〔1〕――2024年上期(別冊NBL191) 170~173頁2025年1月
植村新・民商法雑誌 161巻3号156~164頁2025年8月
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣/ 3 配転命令権の濫用〕
(1)労働者と使用者との間に当該労働者の職種や業務内容を特定のものに限定する旨の合意がある場合には、使用者は、当該労働者に対し、その個別的同意なしに当該合意に反する配置転換を命ずる権限を有しないと解される。上記事実関係等によれば、上告人と被上告人との間には、上告人の職種及び業務内容を本件業務に係る技術職に限定する旨の本件合意があったというのであるから、被上告人は、上告人に対し、その同意を得ることなく総務課施設管理担当への配置転換を命ずる権限をそもそも有していなかったものというほかない。
 そうすると、被上告人が上告人に対してその同意を得ることなくした本件配転命令につき、被上告人が本件配転命令をする権限を有していたことを前提として、その濫用に当たらないとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 以上によれば、この点に関する論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決中、不服申立ての範囲である本判決主文第1項記載の部分(本件損害賠償請求に係る部分)は破棄を免れない。そして、本件配転命令について不法行為を構成すると認めるに足りる事情の有無や、被上告人が上告人の配置転換に関し上告人に対して負う雇用契約上の債務の内容及びその不履行の有無等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。