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ID番号 09607
事件名 損害賠償等請求事件(本訴)(396号)、損害賠償請求反訴事件(反訴)(482号)
いわゆる事件名 協同組合グローブ事件
争点 事業場外みなし労働時間制の適用の有無
事案概要 (1)本件は、
〈1〉被告協同組合グローブ(以下「被告グローブ」という。)は広島県福山市に本部を置く事業協同組合であり、熊本、福岡、北九州及び鹿児島に支所を有するほか、各地に出張所を有し、一般監理事業の許可を受け、主に外国人技能実習制度における監理団体となって、組合員のためにする実習生を受け入れる事業を行っており、被告グローブに勤務していた原告(フィリピンで生まれで帰化して日本国籍を取得し、被告グローブZ1支所(以下、単に「Z1支所」という。)に所属して、外国人技能実習生(以下「実習生」という。)の指導員(キャリア職員)として、フィリピンからの実習生と実習実施者である日本企業との間に入って、通訳、実習生の生活相談、指導などを行っていた。)が、①被告グローブに対し、原告には事業場外労働のみなし制の適用はない、移動時間は労働時間に当たるなどのため賃金の未払があるなどと主張して、労働契約に基づき、未払賃金82万7948円等の支払を求めるとともに、②被告らに対し、原告の上司であった被告Y2及び被告Y3(被告グローブの理事、Z1支所の支所長)等からパワーハラスメントを受けたなどと主張して、被告Y2(フィリピン出身者であり、原告の上司)及び被告Y3については民法709条、被告グローブについては民法715条に基づき、連帯して損害金110万円等の支払を求める(本訴)
 一方で、〈2〉被告グローブが、原告に対し、原告が本件訴え(本訴)を提起した日に行った記者会見において被告グローブの名誉又は信用を毀損する行為をしたなどと主張して、民法709条及び710条に基づき、損害金550万円等の支払を求めた(反訴)事案である。
(2)判決は、原告の被告グローブに対する未払賃金請求は、労働契約に基づき賃金29万6080円等の支払及び原告の被告に対するパワーハラスメントに係る損害賠償11万円等の支払を認容し、その余の請求は理由がないとし棄却するとともに、被告グローブの反訴請求は、原告に対し、33万円等の支払を求める限度で理由があるとして認容し、その余は理由がないとして棄却した。
参照法条 民法709条
民法710条
労働基準法32条
労働基準法37条
労働基準法38条の2
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律30条の2
体系項目 労働時間 (民事)/ 6 事業場外労働
裁判年月日 令和4年5月17日
裁判所名 熊本地裁
裁判形式 判決
事件番号 令和2年(ワ)482号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1309号30頁
労働経済判例速報2495号9頁
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 〔労働時間 (民事)/ 6 事業場外労働〕
(1)事業場外労働のみなし制の適用
 Z1支所では、平成30年5月頃までの間、ホワイトボードの月間予定表に、キャリア職員ごとに訪問・巡回先の予定を記入していたことが認められるが、ホワイトボードには時間が記入されておらず、これをもって具体的な時間を把握することはできない。
 Z1支所では、平成29年2月頃から同年5月頃までの間、被告Y3並びに原告及び被告Y2を含むキャリア職員のグループラインにおいて、予定のやり取りや、訪問・巡回先の入退出の際に「イン」「アウト」などのメッセージを送信するやり取りをしていたことが認められるものの、一時的な取組にとどまり、原告が請求している平成29年7月以降にはこのような取組がされていたことは認められない。また、かかるグループラインのメッセージのやり取りをもって、被告グローブにおいて、原告の労働時間を把握していたとは認め難い。
 被告グローブでは、業務後の報告として、訪問先への直行の有無、始業時間、終業時間、休憩時間のほか、行き先、面談者及び内容とともにそれぞれの業務時間を記載したキャリア業務日報を業務時間内に日々作成させ、毎月月末までに所属長に提出することとされていたことが認められる(本件就業規則33条4項ただし書)。そして、被告グローブが提出を求めていたキャリア業務日報には、単に業務内容を記載するだけでなく、具体的な行き先や面談者等とともに具体的な業務時間を記載することとされており、被告グローブは、業務の遂行の状況等につき比較的詳細な報告を受けているものというべきである。使用者である被告グローブにおいて、全ての行き先や面談者に対して業務状況を逐一確認することは困難であると考えられるが、原告の事業外労働では実習実施者や実習生などの第三者と接触する業務がほとんどであり、虚偽の記載をした場合にはそれが発覚する可能性が高く、実際に支所長が審査しており、業務の遂行等に疑問をもった場合、原告のほか、実習実施者や実習生などに確認することも可能であることなどからすると、同業務日報の記載についてある程度の正確性が担保されているものと評価することができる。
 そして、労働時間の一部につき事業場外労働みなし制が適用される場合には、事業場外の労働について労働基準法38条の2第1項ただし書の「業務の遂行に通常必要とされる時間」を把握して労働時間を算定する必要がある。しかるに、被告グローブでは、支給明細書上の残業時間の記載のほか、被告グローブの支払済み手当の残業時間等の計算を併せ見ると、被告グローブは、労働時間の一部が事業場外労働である場合には、キャリア業務日報に基づいて労働時間を把握した上で残業時間を算出していたことが認められる。そうすると、被告グローブ自身、キャリア業務日報に基づいて具体的な事業場外労働時間を把握していたものと評価せざるを得ない。
 以上からすると、原告が事業場外において従事していた業務については、これに従事する原告の勤務の状況を具体的に把握することが困難であったとは認め難く、労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないと解するのが相当である。これに反する被告グローブの主張は採用できない。
 ただし、海外出張業務(平成29年9月7日から同月10日まで、同年10月23日から同月26日まで、平成30年1月23日から同月26日まで)については、キャリア業務日報上も具体的な内容が一切記載されておらず、同項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるものと解するのが相当である。
(2)移動時間の労働時間該当性等
 Z1支所と実習実施者との間や実習実施者相互の間を移動する場合には、その時間が通常の移動に要する時間程度である限り、当該時間の自由利用は労働者に保障されていないことから、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、労働基準法32条の労働時間に該当するものと解される。
 直行直帰により自宅と実習実施者との往復に要する移動時間については、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することはできず、労働基準法32条の労働時間には該当しないものと解するのが相当である。
(3)固定残業代の支払
 相談対応手当はその全額を超過勤務手当として取り扱うものと規定されているにもかかわらず、その一方で、支給明細書上残業時間に基づいて算定した残業手当から相談対応手当が控除されている旨の記載はない。証人P5は、相談対応手当2万円は、事業場外労働のみなし制による労働時間の13時間分である旨証言するが、本件就業規則や労働条件通知書等にはその旨明記されていない上、相談対応手当が支給されるための要件と事業場外労働みなし制が適用されるための要件とは必ずしも一致しないことからすると、上記証言を採用することはできない。そうすると、相談対応手当は、本件就業規則56条3項の規定(実習生等の母国語等で、実習生等、その実習実施者及び受入企業からの要望を受けて相談対応を行うアルバイト・パートタイマーを除く職員等に支給するものとされるものであり、月額2万円とし、その全額を超過勤務手当として取り扱うものと規定されている。)にかかわらず、実態として見て、時間外労働等に対する対価として支払われているものと認めることはできない。
(4)パワーハラスメント行為等の有無
 被告Y2は、原告の同僚らが参加するLINEグループチャット上で、メッセージ(原告と被告らとの間で訳文に差異はあるものの、被告らの訳文に従ったとしても、被告Y2が上記LINEグループチャット上で、「日本人に対してゴマするのが本当にうまい」、「原告に対して本当に腹が立つよ」、「主役になりたくて、知ったかぶりしやがって」、「偉そうに」、「この主人公様は見たくない感じね」、「またアピールしているのを見るとストレスになる」など)を送信したことが認められ、原告に対する不満を述べて原告を誹謗ないし中傷したものと評価することができる。
 被告Y3は上記LINEグループチャットのグループ内のメンバーではなく、被告Y2が被告Y3の了解の下でメッセージを送信したと認めるに足りる証拠もない。
 したがって、被告Y2は、原告に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負う一方、被告Y3及び被告グローブは、原告に対し、不法行為ないし使用者責任に基づく損害賠償責任を負わない。
(5)被告グローブの原告に対する損害賠償請求(反訴請求関係)
〈1〉名誉毀損・信用毀損行為の有無
 原告が複数の報道機関に対して本件記者会見を行ったとしても、報道機関において報道するかどうか、どのような内容の報道をするか等は各報道機関に委ねられているものである。しかし、原告は、あえて本件記者会見を開いた以上、少なくとも本件記者会見における原告の発言及び本件配布資料の内容について、報道機関において報道されることを想定しているものである。そして、本件記者会見後、本件各報道がされたものであることが認められ、本件記者会見における原告の発言及び本件配布資料の配布と、本件各報道により被告グローブの社会的評価が低下したこととの間には、相当因果関係が認められるというべきである。
 したがって、原告が行った本件記者会見により、被告グローブの名誉ないし信用が毀損されたものと認められる。
(6)真実性の抗弁
 本件訴え(本訴請求)の内容は、外国人技能実習制度における監理団体に勤務する外国出身のキャリア職員について、実習先までの移動時間の労働時間該当性や、パワーハラスメント等の不法行為の成否等が問われている事件であって、実際に本件各報道がされていることから見ても、社会の正当な関心が寄せられる事件である。そして、このような事件について、提訴した事実及びその内容は公共の利害に関する事実に係るものということができ、報道機関に対して記者会見を開いて提訴した事実及びその内容を説明する行為自体は、専ら公益を図る目的に出たものと認められる。
 原告の発言〈2〉(「月に30時間以上の残業時間が3、4時間に減りました。」との発言)は、従前、月に30時間以上の残業時間が認められていたものが、3、4時間になった事実を摘示するものであるが、訴状には「おおむね毎月20時間を超える残業時間や深夜時間が認められて一定の支給がなされていた。」などと記載されていたにとどまり、訴状の請求原因事実に記載された事実と合致しない。そこで、原告の発言〈2〉の内容に係る事実が真実であるかどうかを検討するに、原告が受領していた支給明細書上、被告グローブから認められていた残業時間(深夜残業分及び休日出勤分を含む。)は、平成29年7月分までで最高でも27時間30分にとどまっており、上記事実が真実であるとは認められないし、真実と信ずるについて相当の理由があるとも認められない。したがって、原告の発言〈2〉による名誉ないし信用毀損については、違法性ないし故意過失が阻却されない。
 原告の発言〈2〉による名誉ないし信用毀損については免責されず、不法行為が成立するものというべきである一方、他の原告の発言及び本件配布資料の記載による名誉ないし信用毀損については違法性が阻却され、不法行為は成立しないというべきである。