| ID番号 | : | 09608 |
| 事件名 | : | 損害賠償等(本訴)、損害賠償(反訴)請求控訴事件 |
| いわゆる事件名 | : | 協同組合グローブ事件 |
| 争点 | : | 事業場外みなし労働時間制の適用の有無 |
| 事案概要 | : | (1)本件は、〈1〉1審被告協同組合グローブ(以下「1審被告グローブ」という。)は広島県福山市に本部を置く事業協同組合であり、熊本、福岡、北九州及び鹿児島に支所を有するほか、各地に出張所を有し、一般監理事業の許可を受け、主に外国人技能実習制度における監理団体となって、組合員のためにする実習生を受け入れる事業を行っており、1審被告グローブに勤務していた1審原告(フィリピンで生まれで帰化して日本国籍を取得し、1審被告グローブZ1支所(以下、単に「Z1支所」という。)に所属して、外国人技能実習生(以下「実習生」という。)の指導員(キャリア職員)として、フィリピンからの実習生と実習実施者である日本企業との間に入って、通訳、実習生の生活相談、指導などを行っていた。)が、①1審被告グローブに対し、1審原告には事業場外労働のみなし制の適用はない、移動時間は労働時間に当たるなどのため賃金の未払があるなどと主張して、労働契約に基づき、未払賃金82万7948円等の支払を求めるとともに、②1審被告らに対し、1審原告の上司であった1審被告Y2及び1審被告Y3(1審被告グローブの理事、Z1支所の支所長)等からパワーハラスメントを受けたなどと主張して、1審被告Y2(フィリピン出身者であり、1審原告の上司)及び1審被告Y3については民法709条、1審被告グローブについては民法715条に基づき、連帯して損害金110万円等の支払を求める(本訴) 一方で、〈2〉1審被告グローブが、1審原告に対し、1審原告が本件訴え(本訴)を提起した日に行った記者会見において1審被告グローブの名誉又は信用を毀損する行為をしたなどと主張して、民法709条及び710条に基づき、損害金550万円等の支払を求めた(反訴)事案である。 (2)原判決は、1審原告の1審被告グローブに対する未払賃金請求は、労働契約に基づき賃金29万6080円等の支払及び1審原告の1審被告に対するパワーハラスメントに係る損害賠償11万円等の支払を認容し、その余の請求は理由がないとし棄却するとともに、1審被告グローブの反訴請求は、1審原告に対し、33万円等の支払を求める限度で理由があるとして認容し、その余は理由がないとして棄却した。 これに対し、1審原告、1審被告グローブ及び1審被告Y1が、それぞれ原判決を不服として、控訴を提起した。 (3)判決は、本訴について、1審原告の請求は、1審被告グローブに対し未払割増賃金29万6080円等の支払を求める限度で理由があるものの、その余の割増賃金の請求及びパワーハラスメントを理由とする損害賠償請求はいずれも理由がないとして棄却し、反訴について、1審被告グローブの請求は理由がないとし棄却した。 |
| 参照法条 | : | 民法709条 民法710条 労働基準法32条 労働基準法37条 労働基準法38条の2 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律 30条の2 |
| 体系項目 | : | 労働時間 (民事)/ 6 事業場外労働 |
| 裁判年月日 | : | 令和4年11月10日 |
| 裁判所名 | : | 福岡高裁 |
| 裁判形式 | : | 判決 |
| 事件番号 | : | 令和4年(ネ)595号 |
| 裁判結果 | : | 原判決一部取消、控訴一部棄却 |
| 出典 | : | 労働判例1309号23頁 労働経済判例速報2550号6頁 D1-Law.com判例体系 |
| 審級関係 | : | 上告受理申立て |
| 評釈論文 | : | |
| 判決理由 | : | 〔労働時間 (民事)/ 6 事業場外労働〕 (1)事業場外労働のみなし制の適用 1審被告グローブは、1審原告の業務は業務自体から業務に要する時間を把握することが困難であるところ、労働者から提出されるキャリア業務日報における報告内容が簡易で、その正確性にも疑問があることなどからすると、本件は、労働基準法38条の2第1項の「労働時間を算定し難いとき」に該当する旨主張する。 しかし、まず、1審原告の業務内容については、具体的な巡回・訪問先やスケジュールなどがキャリア職員の判断に委ねられていたものの、キャリア職員が担当する実習実施者等は決まっており、巡回・訪問の頻度等もある程度定まっていたことなどに照らすと、キャリア職員の選択し得る幅には一定の限界があったといえる。また、1審被告グローブは、業務終了後に、キャリア業務日報の提出を求めていたところ、キャリア業務日報には具体的な始業時間及び終業時間、行き先や面談者等が記載されていること、その記載内容について、1審被告グローブの支所長が審査しており、その内容の正確性について実習実施者等に確認することも可能であったことは、補正の上で引用した原判決が認定したとおりである。加えて、1審被告グローブは、1審原告に対して、携帯電話を貸与してこれを携帯させていたところ、随時、携帯電話を利用して、業務の指示や報告等が行われていたわけではないものの、必要に応じて、業務の指示を出したり、報告を受けたりすることができる態勢がとられていたといえる。以上の事実を総合考慮すると、1審被告グローブの指摘する諸事情を踏まえても、1審原告の業務について、その勤務の状況を具体的に把握することが困難であったとは認め難く、「労働時間を算定し難いとき」に当たるとは認められない。 したがって、1審被告グローブの上記主張は採用できない。 (2)移動時間の労働時間該当性等 1審被告グローブにおいて、1審原告に対し、実習実施者を訪問する場合に直行直帰するように指示したとも、作業日報を自宅で作成するように指示したとも認めることはできず、この点に関する1審原告の主張はその前提を欠いている。また、1審被告グローブが直行直帰の場合における1審原告の行動に制限を加えていたと認められない以上、直行直帰の場合における通勤時間について、1審原告は自由に利用することができるのであり、1審被告グローブの指揮命令下に置かれていたとはいえない。もとより、具体的なケースにおいて直行直帰が相当でない場合はあり得るが、この点は、直行直帰の場合の移動時間の労働時間該当性とは別の問題というべきである。 (3)固定残業代の支払 1審原告の入社時に1審被告グローブが交付した労働条件通知書には、基本給として月給16万円、相談対応手当として2万円が賃金として支給される旨が記載されており、相談対応手当が割増賃金の趣旨で支払われる旨の記載はなく、1審原告に対し、相談対応手当が割増賃金の趣旨である旨の説明がされたこともうかがわれない。そうすると、1審原告と1審被告グローブの労働契約において、相談対応手当が割増賃金の趣旨で支払われることが合意されていたと認めることはできない。また、平成28年12月1日改訂前の1審被告グローブの就業規則にも、相談対応手当が割増賃金の趣旨である旨の定めはなかった。 以上によれば、1審原告に対して相談対応手当が時間外労働等に対する対価として支払われたとは認められず、1審被告グローブの固定残業代に係る主張は採用することができない。 なお、平成28年12月1日改訂後の本件就業規則56条3項においては、相談対応手当の全額を超過勤務手当として取り扱うものと規定されているものの、本件において、相談対応手当が超過勤務手当として取り扱われることになれば、1審原告に与える影響が大きいと考えられること、それにもかかわらず、1審被告グローブから、1審原告に対して、相談対応手当の性質が変わることや、相談対応手当が何時間分の時間外労働に対応するものであるかといった点について具体的な説明がされたことを認めるに足りる的確な証拠はないことなどに照らすと、本件就業規則の上記定めは、上記結論を左右するものとはいえない。 (4)パワーハラスメント行為等の有無 確かに、1審被告Y1が、1審原告の同僚らが参加するグループチャット上で、原判決別紙「メッセージ一覧表」1及び2記載のとおりメッセージを送信したことが認められ、1審原告と1審被告らとの間で訳文に差異はあるものの、1審原告の訳文によれば、その内容は、「日本人に付いて行くのが上手だよね」、「マジ嫌いあの人」、「何でも知っているふりして自分一番みたいで本当ムカつく」、「マジ頭にきたから昨日殴ってやろうかなと思ったよ」、「喋ってるのを見てるだけでイライラする」などと1審原告に対する誹謗中傷を含むものである。そして、当時、数名しかいない熊本支所におけるキャリア職員のうち、1審被告Y1を含む4名のキャリア職員によるグループチャット上で、1審原告の上司であった1審被告Y1が、上記のメッセージを送信したことは不適切な行為であったといわざるを得ない。 しかし、上記メッセージは、平成30年1月26日午前0時42分から同日午前8時8分までの間に、短文で、10回送信されたものにすぎないこと、その内容は、1審被告Y1が、日頃から抱いていた1審原告に対する不満や愚痴を述べたものであり、1審被告Y1の職場における優越的な地位を背景としたものであるとはいえないことなどの事情に鑑みると、上記メッセージの送信が、直ちに1審原告に対する違法なパワーハラスメントに該当するとまでは認められない。 したがって、1審被告Y1は、1審原告に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負わない。 (5)1審被告グローブの1審原告に対する損害賠償請求(反訴請求関係) 記者会見等の内容に基づき、民事訴訟が提起された旨の報道に接した一般国民の中には、民事訴訟において原告側の主張する内容が事実であると考える者が一定数存在すると考えられることを踏まえると、1審被告グローブが残業代を支払わなかったこと及びパワーハラスメントを理由として民事訴訟が提起された旨の報道に接した一般国民に対して、1審被告グローブにおいて1審原告に対して不当に残業代を支払わず、また、1審原告がパワーハラスメントを受けたと考えるような事実があったのではないかとの印象を与えるものであり、1審被告グローブの社会的評価を低下させるものであるといえる。 記者会見における本件各発言及び配布した訴状の写しの記載による摘示事実について、1審原告において、真実であるか、真実と信ずるについて相当の理由があったと認めるのが相当であり不法行為が成立するとは認められないため、1審被告グローブの1審原告に対する損害賠償請求(反訴請求関係)は理由がない。 |