| ID番号 | : | 09612 |
| 事件名 | : | 地位確認等請求事件(本訴事件)(29001号)、損害賠償等請求事件(反訴請求)(15877号) |
| いわゆる事件名 | : | 東京税理士会神田支部ほか事件 |
| 争点 | : | 性的加害行為の存否ならびに不法行為の成否等 |
| 事案概要 | : | (1)本件は、東京税理士会Y支部(以下「被告支部」という。)との間で雇用契約を締結し、事務局職員として稼働していた原告が、本訴請求として以下の〈1〉から〈3〉のとおりの請求を行い、これに対し被告Bが〈4〉の反訴請求を行った事案である。 〈1〉本訴請求①は、原告が、総務部長である被告Bから令和元年8月21日に性的暴行(原告と被告Bは、被告Bの事務所においてキスをし、被告Bは、原告の乳首や陰部を触ったりした後、ズボンを脱いで下半身を露出して、原告に対し、陰茎を舐めるよう求めたが、原告は、これを拒否した事実。以下「本件性的暴行」という。)を受け心的外傷後ストレス障害(以下「PTSD」という。)を発症し、休職せざるを得なくなったと主張して、被告B及び被告支部に対し、被告Bについては不法行為に基づき、被告支部については使用者責任又は安全配慮義務違反に基づき、連帯して休業損害等の支払を求めるものである。 〈2〉本訴請求②ないし④は、原告が、本件性的暴行を原因として休職したものであり、被告支部による解雇は解雇権の濫用に当たり無効であるなどと主張して、被告支部に対し、労働契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、未払いの賃金、賞与等の支払を求めるものである。 〈3〉本訴請求⑤は、原告が、本件性的暴行後の被告支部の対応不備等により精神的苦痛を受けたと主張して、被告支部に対し、不法行為及び安全配慮義務違反に基づき、慰謝料等の支払を求めるものである。 〈4〉反訴請求は、被告Bが、原告が本訴請求の提訴前に記者会見を開き、被告Bから性被害にあったため損害賠償請求をするなどと説明したことが名誉毀損に当たると主張して、不法行為に基づく慰謝料等及び謝罪広告の掲載を求めた事案である。 (2)判決は、原告の本訴請求及び被告Bの反訴請求はいずれも理由がないとして、本訴請求、反訴請求のいずれも棄却した。 |
| 参照法条 | : | 民法709条 民法715条 |
| 体系項目 | : | 労基法の基本原則 (民事)/ 均等待遇/ (11) セクシャル・ハラスメント アカデミック・ハラスメント |
| 裁判年月日 | : | 令和5年3月27日 |
| 裁判所名 | : | 東京地裁 |
| 裁判形式 | : | 判決 |
| 事件番号 | : | 令和2年(ワ)29001号 /令和3年(ワ)15877号 |
| 裁判結果 | : | 棄却 |
| 出典 | : | 労働判例1314号61頁 D1-Law.com判例体系 |
| 審級関係 | : | 控訴 |
| 評釈論文 | : | |
| 判決理由 | : | 〔労基法の基本原則 (民事)/ 均等待遇/ (11) セクシャル・ハラスメント アカデミック・ハラスメント〕 (1)確かに、原告と被告Bは、被告支部の総務部長と事務局職員という立場にあり、総務部の懇親会などで同席する機会はあったものの、そのような関係を超えて、特段、親しかったというものではないこと、被告Bの供述によっても、原告は、途中から性的行為を拒否していること、原告が、被告Bとの性的行為について、その後、I研修部長やJ前支部長に相談をしたり、原告の主治医に、職場の上司に強姦未遂されたと述べたりしていることからすれば、原告が、被告Bが述べるように自ら進んで被告Bとの性的行為に及んだのかは疑問なしとせず、原告の内心においては、そのような行為の当初から、不本意ながら応じていた可能性は否定できない。 他方、被告Bについても、会員1500名を有する被告支部の総務部長を務めるような社会的地位を投げ打ってまで、特段、親しい関係でもなかった原告に対し、強姦未遂又は強制わいせつ罪に当たりうるような性的暴行をするとは俄かに考え難い。なお、被告Bは、本件会食の翌々日、原告に対し、「体調大丈夫?お酒飲んだから?それとも俺が悪戯したから?」とのLineを送付しており、本人尋問において、「悪戯」と表現した理由について、陰茎を舐めるよう依頼したところ断られたことを指してそのように表現した旨述べているところ、「悪戯」という表現には、一般的に、相手の意に反して相手の嫌がることをしたという意味が含まれるものの、深刻な侵害行為をしたことを意味するとまでは認められないから、同Lineのメッセージのみでは、原告主張の本件性的暴行が行われたことの証左であるとはいえない。 そうすると、原告と被告Bとの関係性に照らして、性的行為等の内容について、被告Bの供述ではなく、原告の供述を採用すべきであるとも認められない。 以上によれば、被告Bが、原告を抵抗できなくさせて無理やり被告Bの事務所に連れ込み、被告Bの事務所において無理やり原告と性的行為に及んだとの原告の供述は、被告Bの供述に比べて信用できるということはいえず、本件性的暴行があったとは未だ認められない。 (2)令和元年8月21日夜に、I研修部長に対し、被告Bとのトラブルについて、私的に相談をしたことがあったとしても、当該事実をもって、被告支部に直ちに調査義務が生じるものとは認められないところ、その後、被告支部が当該トラブルを把握した際には、被告支部は、被告Bに対する調査を実施している。被害拡大防止義務違反についても、被告支部としては、被告Bへの聞取り調査の結果、本件性的暴行がされたか否かについては確認ができなかったものの、原告が休職中の令和2年1月24日までには、原告と被告Bが接触しないように態勢を整えている。そうすると、被告支部は、原告から性的被害の訴えがされ、その事実確認ができるまでの暫定的な措置としては、適時適切に安全配慮義務を果たしているものと認められる。 その余の再発防止義務、被害回復義務、復職に関する配慮義務については、本件性的暴行があったと認められない以上、被告支部はいかなる義務も負うものではない。 (3)被告支部においては、原告と被告Bとの接触を回避する措置をとることを約束し、被告Bが来所する際には、事前に来所時刻を告知させ、来所中は、原告を離席させると約束しているのであるから、原告の席を復職前の位置に戻すとの要求は、被告Bとの接触を回避するための合理的な要求であるとは認められず、被告支部が原告の要求に従わないことをもって、被告支部に復職しないことは正当な理由には当たらないというべきであるから、原告代理人が本件復職命令に応じられない旨連絡をしたことをもって、無断欠勤にならないものではないし、本件復職命令が権利濫用とも認められないし、解雇権を濫用したものとも認められない。 そうすると、原告が本件復職命令にしたがって出社しなかったことは、「正当な理由なく無断欠勤が2週間以上に及び、出勤の督促に応じないとき。」(就業規則65条1項)に該当するというべきである。(就業規則55条1号)。 原告は、令和2年4月以降、原告の主治医から休息を促されたり、原告の主治医に対して同年6月1日から職場復帰できる状況にないと述べていることに照らすと、原告が、同日時点において、被告支部で就業することは困難な健康状態であったと認められ、「精神又は身体の障害により業務に堪えられないと認められるとき」(就業規則55条6号)に該当するというべきである。 よって、本件解雇は有効である。 (4)原告は、本件記者会見において、被告支部の事務局職員である原告が、被告支部の50代の総務部長の地位にあり上司に当たる税理士から、令和元年8月、食事のあとに事務所に連れ込まれて服を脱がされ触られるなどの性的被害を受けたとして、当該男性税理士に対して損害賠償を求める訴えを提訴したと述べたことが認められる。 本件記者会見における原告の説明は、被告Bの名誉を毀損したものと認められる。 本件摘示事実は、被告Bが原告に対して損害賠償請求を提訴したというものであって、性的暴行をしたとの事実ではない。そして、原告が、被告Bに対して本件性的暴行に基づく損害賠償請求訴訟を提起したことは真実であるから、本件記者会見による被告Bの名誉毀損については違法性が阻却され、不法行為は成立しないというべきである。 以上より、被告Bの反訴請求は理由がない。 |