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ID番号 09613
事件名 地位確認等、損害賠償等反訴請求控訴事件
いわゆる事件名 東京税理士会神田支部ほか事件
争点 性的加害行為の存否ならびに不法行為の成否等
事案概要 (1)本件は、東京税理士会Y支部(以下「一審被告支部」という。)との間で雇用契約を締結し、事務局職員として稼働していた一審原告が、本訴請求として以下の〈1〉から〈3〉のとおりの請求を行い、これに対し一審被告Bが〈4〉の反訴請求を行った事案である。
〈1〉本訴請求①は、一審原告が、総務部長である一審被告Bから令和元年8月21日に性的暴行(一審原告と一審被告Bは、一審被告Bの事務所においてキスをし、一審被告Bは、一審原告の乳首や陰部を触ったりした後、ズボンを脱いで下半身を露出して、一審原告に対し、陰茎を舐めるよう求めたが、一審原告は、これを拒否した事実。以下「本件性的暴行」という。)を受け心的外傷後ストレス障害(以下「PTSD」という。)を発症し、休職せざるを得なくなったと主張して、一審被告B及び一審被告支部に対し、一審被告Bについては不法行為に基づき、一審被告支部については使用者責任又は安全配慮義務違反に基づき、連帯して休業損害等及び遅延損害金の支払を求めるものである。
〈2〉本訴請求②ないし④は、原告が、本件性的暴行を原因として休職したものであり、被告支部による解雇は解雇権の濫用に当たり無効であるなどと主張して、被告支部に対し、労働契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、未払いの賃金、賞与等の支払を求めるものである。
〈3〉本訴請求⑤は、一審原告が、本件性的暴行後の一審被告支部の対応不備等(本件性的暴行につき申告を受けた後の対応に係る債務不履行(安全配慮義務違反)、復職に向けて行われた面談(以下「本件面談」という。)における支部役員の言動に係る不法行為)により精神的苦痛を受けたと主張して、一審被告支部に対し、不法行為及び安全配慮義務違反に基づき、慰謝料等の支払を求めるものである。
〈4〉反訴請求は、一審被告Bが、一審原告が本訴請求の提訴前に記者会見を開き、一審被告Bから性被害にあったため損害賠償請求をするなどと説明したことが名誉毀損に当たると主張して、不法行為に基づく慰謝料等及び謝罪広告の掲載を求めた事案である。
(2)判決は、一審原告の本訴請求及び一審被告Bの反訴請求はいずれも理由がないとして、本訴請求、反訴請求のいずれも棄却した。これに対し、一審原告、一審被告Bが控訴した。
(3)判決は、一審原告の本訴請求は、〈1〉一審被告Bに対し、不法行為に基づき、本件性的暴行に係る損害賠償金357万5400円及び遅延損害金、〈2〉一審被告支部に対し、不法行為に基づき、本件面談における支部役員の言動に係る損害賠償金50万円及び遅延損害金を認容し、その余の本訴請求及び一審被告Bの反訴請求はいずれも理由がないとして棄却した。
参照法条 民法709条
民法715条
体系項目 労基法の基本原則 (民事)/ 均等待遇/ (11) セクシャル・ハラスメント アカデミック・ハラスメント
裁判年月日 令和6年2月22日
裁判所名 東京高裁
裁判形式 判決
事件番号 令和5年(ネ)2945号
裁判結果 原判決一部変更、控訴一部棄却
出典 労働判例1314号48頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 上告、上告受理申立て
評釈論文 長谷川悠美・季刊労働者の権利 356号108~113頁2024年7月
判決理由 〔労基法の基本原則 (民事)/ 均等待遇/ (11) セクシャル・ハラスメント アカデミック・ハラスメント〕
(1)一審被告Bの供述によれば、一審被告Bとしては、一般に性的行為に同意があるか否かはそのときの雰囲気でしか分かり得ないものであり、嫌だと言いながら実はやりたい人も世の中にはおり、一連の流れで最初に許可があれば拒否されない限り行為を続けるという考えであり、令和元年8月21日には、一審原告から陰茎をなめることはできないと拒否されるまでは、改めて同意を確認するまでもなく性交に進むつもりでいたところ、一審原告から陰茎をなめることを拒否されたのでそれ以上の行為を止めにしたというのであるから、この時点での一審原告の拒絶は、一審原告が供述するように、大声で泣き叫ぶといった相当強いものであったことが推認される。そうすると、その直前までの行為について、一審被告Bが供述するように一審原告が自発的に胸を出して乳首を見せたり、陰部を触られることに抵抗を示さず、むしろ快感を覚えているようであったというのは不自然であって、明確な拒否に至るまでの一連の行為については一審原告の同意又は同意があると受け取られるような自発的な対応があったとする一審被告Bの供述は、直ちに信用し難い。
 一方、一審原告は、令和元年8月21日に一審被告Bの事務所からの帰宅中に偶々電話連絡をしてきたD研修部長に対し、同夜のうちに面会して、一審被告Bから性的暴行を受けた旨を話し、同年9月17日には、E前支部長にも同旨の話をしており、その際、一審原告は、一審被告Bから受けた行為として「下着に手を入れられたこと、一審被告Bがズボンとパンツを脱いで局部を露出していたこと、上に乗るよう強要されたこと、局部を口に含むよう言われたこと、言うことを聞かないので殴られたこと」などを述べている。また、同月20日には、一審原告の主治医から診察時に様子がおかしいとして事情を問われたのに対し、強姦未遂されたことを職場の上司に伝えたと述べ、執行部の重要な部長に恫喝された上、食事の後に無理やり事務所に戻され、そこで叩かれ、下着に手を突っ込まれ、泣き叫んで辞めてもらったと説明している。このように、一審原告は、早い段階から一貫して、一審被告Bによる性的行為が一方的に強制されたものである旨を述べている。そして、一審原告は、その後PTSDと診断されて休職するに至っており、この出来事で一審原告が受けた精神的衝撃は相当大きなものであったことが推察される。
 他方、一審被告Bは、令和元年8月22日に一審原告が有給休暇を取得していたと知ると、翌23日に「俺が悪戯したから?」と記載したメッセージを一審原告に送り、その後これを削除しており、一審被告Bにおいては、一審原告が同月21日の出来事をどのように受け止めているかに懸念を抱いていたことがうかがわれる。
 そもそも、一審原告と一審被告Bの間には、令和元年5月17日にFの連絡先を交換するまでは、個人的な接触は一切なく、その後、一審原告が一審被告Bに対して業務に関する連絡をした際に、気の合う方々と一緒に飲みに行きたい、ワインについて教えてほしいなどと記載したメッセージを送ったのに対し、一審被告Bが二人での会食を提案し、一審原告が体調を理由に断る趣旨のメッセージを送付しても、なお一審被告Bが酒を飲まなくても美味しいものを食べに行こうと誘ったことから、同年8月21日に二人で会食をすることになったものであり、その間の双方のやり取りその他本件全証拠に照らして、一審原告が一審被告Bに対して敬意を払って接していたことは認められるものの、異性として関心を抱いていたとは認められない。
 これらの事実によれば、令和元年8月21日に一審被告Bの事務所内で行われた一連の性的行為は、一審原告においては、支部役員である税理士と支部事務局の職員という関係を意識して、一審被告Bの言動に対してあからさまに拒絶的な態度をとることを当初控えていたものの、一審被告Bと性的行為に及ぶことを期待も受容もしていなかったのに、一審被告Bにおいて、一審原告に対し性的関心を抱き、性交まで進む意図の下に、徐々に性的行為をエスカレートさせていく形で、一方的に行ったものであると推認され、全体として、同意のない性的行為であったとの評価を免れない。これに反する一審被告Bの供述は、信用性を欠き採用することができない。また、一審原告の供述中に、居酒屋での滞在時間や、事務所内での双方の位置関係、移動状況等に関する点で事実と整合しない部分やあいまいな部分があることは、上記認定を妨げる事情とはいえない。
 したがって、一審被告Bは同意のない性的行為(本件性的暴行)により一審原告の人格権を侵害したことについて、不法行為責任を負う。
(2)本件性的暴行は、一審原告と一審被告Bが、一審被告支部の業務とは無関係に、私的に飲食を共にする目的で、業務時間外に二人で居酒屋において会食をした後に、引き続き二人で一審被告Bの事務所で過ごす間に起きた出来事であって、一審被告支部の事業の執行について行われたものであるとは認められないし、一審被告支部が安全配慮義務を負うべき場面において行われたものであるとも認められない。
 したがって、一審被告支部は、一審被告Bによる本件性的暴行について、使用者責任又は債務不履行(安全配慮義務違反)により連帯責任を負うとはいえない。
(3)本件性的暴行は、一審原告と一審被告Bが、一審被告支部の業務とは無関係に、私的に飲食を共にする目的で、業務時間外に二人で居酒屋において会食をした後に、引き続き二人で一審被告Bの事務所で過ごす間に起きた出来事であって、一審被告支部の事業の執行について行われたものであるとは認められないし、一審被告支部が安全配慮義務を負うべき場面において行われたものであるとも認められない。
 したがって、一審被告支部は、一審被告Bによる本件性的暴行について、使用者責任又は債務不履行(安全配慮義務違反)により連帯責任を負うとはいえない。
(4)一審被告支部において、一審被告支部側の出席者8名が、復職の可否判断に必要な事実確認を行うという本来の目的からは逸脱して、一審原告に対する否定的な感情をこもごも吐露し、それ自体ハラスメントに当たるといわざるを得ない言動(支部役員らにおいては一審原告のために尽力してきたのに弁護士が介入して損害賠償請求をされたことを心外に思っていることや、そのような経緯があった後に復職して一緒に働いてもらうことができるのか疑問に思っていることなど、否定的感情を率直に吐露する展開となり、その中では、こんな酷いことを言われても大丈夫だという診断書をもらって来てほしいといった発言や、一審原告は魅力的だからまた誘われてしまうことがあるかもしれないといった発言など)をしたことは、一審原告に対する人格権侵害に当たるというべきである。