全 情 報

ID番号 09615
事件名 賃金請求控訴事件
いわゆる事件名 中日新聞社(錬成費不支給)事件
争点 60年以上支給されていた錬成費の労働契約上の位置付け
事案概要 (1)本件は、被控訴人(日刊紙の発行等を業とする株式会社)の従業員でありA労組執行委員長の地位にある控訴人が、被控訴人が、令和2年3月25日の給与支給日に錬成費(注)を支給しなかった。このため、控訴人は、被控訴人に対し、毎年従業員に支給していた錬成費の支給は、労使慣行(又は黙示の合意)として労働契約の内容となっていると主張して、労働契約に基づき、〈1〉令和2年分の錬成費及び遅延損害金の支払、〈2〉令和3年から毎年3月25日限り、錬成費及び遅延損害金の支払を求める事案である。
(注)被控訴人が、昭和30年代に、C株式会社(現在のD株式会社。以下「本件保険会社」という。)との間で、団体定期保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結し、本件保険契約に基づき、1年ごとに毎年3月に1年満了給付金が被控訴人に還付された還付金を得られたことを契機として、還付金を従業員に還元するため、錬成費の支給が始まった。
(2)原審判決は、錬成費の支給が使用者と労働者の双方を拘束する法的効力を有する労使慣行が成立していたとは認められず、黙示の合意があったとも認められないとして、控訴人の請求を棄却した。このため、これを不服とする控訴人が本件控訴を提起した。
(3)判決は、控訴人の請求を棄却した。
参照法条 民法92条
労働契約法
労働基準法24条
体系項目 賃金(民事)/ 賃金の範囲
裁判年月日 令和6年3月13日
裁判所名 東京高裁
裁判形式 判決
事件番号 令和5年(ネ)4656号
裁判結果 控訴棄却
出典 労働判例1321号5頁
審級関係 上告、上告受理申立て(最三小決 令和6年9月18日 棄却、不受理)
評釈論文
判決理由 〔賃金(民事)/ 賃金の範囲〕
(1)錬成費は、被控訴人が加入する本件保険契約の還付金を原資として、これを従業員に対し還元する趣旨で支給を開始したものであり、支給開始に際して労使間で協議がされた形跡はなく、支給に関する賃金規程上の定めも存しない。そして、支給方法についても、所属部署ごとに支払われて懇親会費に充てられる実情が存したものの、その後、個人を対象者として支給する方法に変容し、給与振込の形で支給されるようになった際には、支給日が変更され、さらにそれが課税所得扱いとなったのであり、支給対象者についても、学生アルバイトを支給対象者から除外するなど徐々に縮小されたのであるが、その過程で、労使間で錬成費支給の在り方に関する協議がされた形跡は存しないし、控訴人個人と被控訴人との間で個別の契約交渉等がされた形跡もない。
(2)このように、錬成費の支給が開始されてから、支給方法が変遷したり、支給対象者から非正規職員を除外して対象者が絞り込まれたりする経過において、控訴人(控訴人が所属する東京新聞労組を含む。)が被控訴人との間で、「錬成費」の支給の趣旨はもとより、支給額や支給方法、支給対象者等につき交渉ないし協議がされた形跡がなく、被控訴人が一方的にそれらの事項を決定してきた経緯に照らせば、毎年3月に3千円が「錬成費」の名目で支給される運用が、結果として、控訴人が入社する以前から長期にわたって継続した事実が存したとしても、そのような事実状態をもって、控訴人と被控訴人双方の規範意識に基づく「錬成費支給」に係る労使慣行が存したとはいえない。
 また、錬成費支給に係る労使間の明示の合意は存しないし、明示的な支給合意が成立したといえるほどの労使間のやり取りが重ねられた形跡がない以上、明示的な合意と同等の法的効果が付与されるべき黙示の合意(控訴人が主張立証すべき事項である。)が存するとも認められない。
 そうすると、被控訴人が「錬成費」の支給を取りやめたことをもって、労働契約違背の違法があるということはできない。