| ID番号 | : | 09616 |
| 事件名 | : | 未払残業代等請求事件 |
| いわゆる事件名 | : | 大成事件 |
| 争点 | : | 休憩及び仮眠時間の労働時間該当性と変形労働時間の適用の有無 |
| 事案概要 | : | (1)本件は、被告(ビルメンテナンス、設備管理、警備などの業務を行っている株式会社)に雇用されて主に東京都F区に所在するGタワー(以下「本件タワー」という。)において、ビルの設備機器を運転操作し、点検・整備などの保守作業を行う設備員(エンジニアリングスタッフとも呼ばれる。以下「設備員」といい、うち当直勤務中の者を「当直設備員」という。)として勤務していた原告ら3名が、作業着への着替え時間、休憩時間、仮眠時間等が労働時間に該当すること、変形労働時間制が適用とならないことにより被告は労働基準法所定の割増賃金を支払っていないと主張して、被告に対し、それぞれ未払いの割増賃金及び付加金等の各支払を請求する事案である。 (2)判決は、仮眠時間は労働時間に該当し、変形労働時間制の適用はないことを認め、割増賃金請求の一部を認容し、同額の付加金の支払を命じた。 |
| 参照法条 | : | 労働基準法32条 労働基準法32条の2 |
| 体系項目 | : | 労働時間 (民事)/ 1 労働時間の概念/ (17) 仮眠時間 |
| 裁判年月日 | : | 令和5年4月14日 |
| 裁判所名 | : | 東京地裁 |
| 裁判形式 | : | 判決 |
| 事件番号 | : | 令和1年(ワ)21504号 |
| 裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
| 出典 | : | 労働判例1318号55頁 労働経済判例速報2549号24頁 D1-Law.com判例体系 |
| 審級関係 | : | 控訴 |
| 評釈論文 | : | |
| 判決理由 | : | 〔労働時間 (民事)/ 1 労働時間の概念/(17) 仮眠時間〕 (1)着替え時間について 原告らは、いずれも通勤時にはスーツを着用し、始業の際に本件タワーに到着した後、朝礼までにロッカー室で制服に着替えていたことが推認される。そこで、被告が、原告らに対し、以上の着替えを義務付けていたとすれば、その着替えに要する時間は、被告の指揮命令の下に置かれていたというべきこととなる。 しかし、通勤時の服装に関する指示はなく、被告が、原告らに対し、始業前は背広及び革靴を着用し、始業前に制服に着替えることを義務付けていたと認めることはできない。 したがって、原告らが勤務前後に着替えに要したと主張する時間については、被告の指揮命令の下でされていたものと認めることはできず、労働時間には当たらないこととなる。 (2)本件タワーにおける休憩及び仮眠時間の労働時間該当性 〈1〉昼休憩及び夜休憩時間 設備員らは、勤務表上、いずれかの昼休憩とされている時間帯に、複数名でトラブル等に対応することがあったということができるが、被告体制表のとおり、昼間は、当直設備員以外にも複数の被告の設備関係の人員がおり、時間をずらして各1時間程度の休憩を取ることは不可能ではなかったということができるから、上記「昼当番」をしていた者も含めて、被告の指揮命令の下で、1時間の昼休憩時間を取ることができずに労働に従事していたと認めることはできない。したがって、昼休憩の1時間は、原告らの労働時間には当たらないというべきである。 当直設備員らは、勤務表上、いずれかの夜休憩時間とされている時間帯に、複数名でトラブル等に対応することがあったということができるが、被告体制表からすれば、夜休憩前後の時間帯に、時間をずらして1時間程度の休憩を取ることは不可能ではなかったということができるから、被告の指揮命令の下で、各1時間の夜休憩時間を取ることができずに労働に従事していたと認めることはできない。したがって、夜休憩の1時間も、原告らの労働時間には当たらないというべきである。 〈2〉仮眠時間 仮眠時間中の設備員が労働から離れることができたかについては、被告以外の企業の人員を考慮に入れずに検討すべきであるところ、被告においては、夜間の仮眠時間中に生じた事態について、原則として1名で対応すべきことを指示したマニュアル等は見当たらず、かえって、住戸内緊急マニュアルには、住戸内で緊急発報があった場合、2名以上で現地に急行することとされ、夜間で不足の場合は仮眠者を起こすべきである旨の記載がある中で、被告において、どのような場合が緊急事態に当たるのかを明確にはしていないという状況にあった。 また、勤務の実態として、当直設備員2名のうちいずれかの仮眠時間に当たる時間帯(割増賃金請求における労働時間の立証責任が労働者にあることを踏まえて、午後10時から翌日午前7時までであったことを前提に検討する。)においても、当直設備員らは、トラブル等に複数名で対応していたもので、2名以上で対応した件数は、平成29年2月から令和元年8月までの2年6か月間に少なくとも46件、原告らが対応したものだけでも33件に上り、その頻度は、1か月間に1件を上回るものであった。 そして、本件業務日誌に記載された上記対応状況は、業務日誌転記ノートに貼り付けて被告に提出され、引継ぎの対象となっていたのであるから、被告が、上記のような対応状況を認識していたことは明らかである(なお、それにもかかわらず、原告らから申告があったものを除き、仮眠時間中の対応について被告から原告らに対して割増賃金が支払われた形跡はない。)。しかるに、被告の管理職は、2人以上で対応した旨記載された事例について、設備員に対し、1人で対応するように指導することはなかったもので、その少なくとも一要因として、業務に対応する上での能力・経験が乏しく管理手当を受け取っていない従業員が「宿〈2〉」シフトに入り、「宿〈1〉」の職員とペアで勤務することが多かったという組織的な要因があったことが推認される。また、以上の本件業務日誌及び業務日誌転記ノートの扱いを踏まえれば、設備員が、本件業務日誌ないしその記載が転記された管理日報における過去の対応をマニュアル代わりに使用していたのは、被告の指揮命令に基づくものであったと認めるのが相当である。 そうすると、先輩からトラブルが生じた際は、複数で対応するよう指導を受けていた旨の原告X1の供述は信用することができ、当直設備員らは、被告から仮眠時間中であっても、トラブル等が生じた際には仮眠者を起こして2名で対応することを義務付けられていたと認めることができる。 さらに、設備控室に内線電話、緊急呼出装置、インターフォンが設置されていたほか、設備員は、勤務中、休憩・仮眠の時間であっても館内PHSの携帯を義務付けられ、仮眠時間中であっても、防災センターから容易に連絡を取ることができる状況にあり、仮眠に入る際、寝間着等ではなく、洗濯後の別の制服に着替えていたことをも踏まえれば、仮眠時間中の設備員も労働から離れることはできていなかったと認めることができ、原告らは、本件仮眠時間中、労働契約に基づく義務として、設備控室における待機とトラブル等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられていたと認めることができる。 したがって、原告らは、本件タワーにおける仮眠時間中、不活動仮眠時間も含めて被告の指揮命令下に置かれているものであり、本件タワーでの仮眠時間は労基法上の労働時間に当たるというべきである。 (3)変形労働時間制の適用の有無 本件タワーでの勤務表における日勤勤務の始業時刻(午前9時)及び終業時刻(午後6時)並びに日直勤務の労働時間(休憩・仮眠を除き17時間。)は、そもそも就業規則の規定と一致していない。H現業所では、時期によって変わる、多数のシフトパターンの組み合わせにより勤務表が作成されており、就業規則とは全く一致していない。 また、被告就業規則において、本件タワー及びH現業所のいずれについても、勤務割に関して作成される書面の内容、作成時期や作成手続等について定めた規定は見当たらず、勤務表の作成によって、就業規則等による各週、各日の所定労働時間の特定がされていると評価することもできない。 さらに、原告らに係る平成29年及び平成30年の各勤務表には、完成時から、単位期間(1箇月)の労働時間が40時間を超えていた月が相当数あったことをも踏まえれば、原告らに対しては、変形労働時間制が適用されるということはできない。 (4)本件において、付加金の支払命令を控えなければならない事情があることは窺われず、原告らそれぞれについて割増賃金と同額の支払を命じるのが相当である。 |