全 情 報

ID番号 09617
事件名 労災給付不支給決定処分取消請求事件
いわゆる事件名 国・向島労働基準監督署長事件
争点 同僚からの暴行による負傷に基づく休業補償給付不支給処分の取消請求
事案概要 (1)原告及びその同僚であるAは、令和2年7月1日当時、いずれも、株式会社B(本件勤務先)で、トレーラー(このうち、動力部を持つ車両を「トレーラーヘッド」と、牽引される部分を「シャーシ」という。)の運転手として勤務していた。原告は、同月6日、医師から、「仕事中に他人に胸倉をつかまれ暴行を受け受傷」し、頸部、右上肢、胸部挫傷により、約2週間の経過観察を要する見込みとの診断を受けたために就労することができなかったとして、処分行政庁に対し、労働者災害補償保険法に基づく休業補償給付の支給を申請したが、処分行政庁は、当該暴行は原告の自招行為によるものであるから当該負傷と業務との間には相当因果関係がないとして、同給付を支給しない旨の処分(本件処分)をした。本件は、原告が本件処分の取消しを求める事案である。
(2)判決は、原告は、業務に起因する負傷のために令和2年7月9日から同年8月20日まで労働することができなかったとして、本件処分を取り消した。
参照法条 労働者災害補償保険法14条
体系項目 労災補償・労災保険/業務上・外認定/ (7) 暴行・傷害・殺害
裁判年月日 令和6年1月24日
裁判所名 東京地裁
裁判形式 判決
事件番号 令和4年(行ウ)442号
裁判結果 認容
出典 労働経済判例速報2561号33頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険/業務上・外認定/ (7) 暴行・傷害・殺害〕
(1)労働者が業務中に同僚からの暴行によって負傷した場合には、一般的に複数名が就労する職場内における対人関係に起因するトラブルが稀ではないことを考慮すれば、当該負傷は、通常、労働者の業務に内在又は随伴する危険が現実化したものと評価することができる。したがって、当該暴行が、行為者の私的怨恨に基づくものである場合や、自招行為によるものである場合等、明らかに業務に起因しないものである場合を除き、当該暴行による負傷は、業務に起因する負傷であると認めるのが相当である(厚生労働省労働基準局長の平成21年7月23日付通達(基発0723第12号)における取扱いは、同様の理解に基づくものと考えられる。)。
(2)本件負傷は、原告が自身の車両を駐車した直後に車両点検及び帰宅準備をしている中で生じた本件暴行によるものといえるから、本件負傷は、「業務中に同僚からの暴行」を受けたことによるものであるといえる。
(3)被告は、本件暴行は、原告が、〈1〉Aの車両が原告又は同人のバイクに接触する可能性はなかったにもかかわらず「コラー。」などと怒鳴りつけたり、〈2〉Aの車両が原告のバイクに衝突していないにもかかわらず「ぶつけ(て)んじゃねぇよ。」と嘘をついたりして因縁をつけたことによるものであるから、原告が自招したものであると主張する。
 〈1〉の点については、原告はAがトレーラーヘッドの駐車を開始した時点でA区画の前方付近にいたにもかかわらず、AはA区画の前方で切り返した後で、直ちにバックギアに入れ、後退を開始しようとした。原告はA車両の後方におり、そこはAにとって死角となる位置にあったと認めることができるから、原告においては、危険を回避するためにAに対して注意喚起する必要があったといえる。この点について、原告はAを「コラー。」と怒鳴りつけており、粗暴であって適切さを欠くものではあるが、少なくとも、当該状況において、暴行を自招するような行為であったと評価することはできない。
 〈2〉の点については、原告の発言は、「ぶつけんじゃねぇよ。」というものであり、A車両が原告のバイクに接触しかねないことを指摘するものであったと考えられる。そうすると、この点についても、原告の言い方は粗野であり、適切を欠くものであったとしても、少なくとも、Aの暴行を自招する行為であったと評価することはできない。
(4)以上の検討結果に加え、Aが本件暴行前及びその最中に当日の勤務中に待たされたことについての不満を表明していることを考え合わせれば、本件暴行は、当日の勤務中に長時間待たされたことに腹を立てていたAが、原告から駐車に関して指摘されたことに激高して行われた一連のものであり、まさに業務に関連するものというべきである。そうすると、本件暴行によって生じた本件負傷は業務に起因するものといえる。