全 情 報

ID番号 09619
事件名 退職金等請求事件
いわゆる事件名 学校法人東京医科大学事件
争点 入試不正にかかる退職金の不支給
事案概要 (1)本件は、被告の元教育職員かつ元役員である原告が、被告(学校法人東京医科大学)に対し、労働契約に基づき教育職員としての退職金1590万6000円及び役員としての退職金373万4000円(特別慰労金40万円を含む。)が支払われないことから、当該金額及びこれらに対する遅延損害金の支払を求める事案である。
 原告は、平成30年7月24日、本件贈収賄事件(平成29年度私立大学研究ブランディング事業に関し、本件大学が同事業の支援対象校に選定されるように有利かつ便宜な取り計らいを受けたい旨の請託に関する謝礼として、本件大学の平成30年度医学部医学科一般入試において当時の文部科学省の局長であったC氏の息子の点数を加算した上、合格者の地位を付与して賄賂を供与したとされる事件)に関し起訴され、令和4年7月20日、東京地方裁判所から懲役1年、執行猶予2年の有罪判決を受けた。
 なお、本件大学では、平成18年度入試から属性により点数を調整するシステムを入試用システムに導入し、同システムを用いることで一般入試、センター利用の2次試験科目の小論文試験の点数について、受験生の性別や高校卒業からの経過年数等の属性に応じて一部の受験生にだけ点数を加点すること(本件属性調整)及び理事長又は学長が学務課の職員に対し、一般入試又はセンター利用の1次試験及び2次試験の両方又は一方の点数の加点を指示し、元の点数データを書き換えさせること(本件個別調整)が行われていた。
(2)判決は、教育職員としての退職金1590万6000円及びこれに対する遅延損害金の支払を認容し、役員としての退職金の請求は棄却した。
参照法条 労働基準法24条
労働基準法115条
体系項目 賃金 (民事) /退職金/ (3) 懲戒等の際の支給制限
裁判年月日 令和6年1月29日
裁判所名 東京地裁
裁判形式 判決
事件番号 令和4年(ワ)14617号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働経済判例速報2559号7頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金 (民事) /退職金/ (3) 懲戒等の際の支給制限〕
(1)教職員退職金請求権の発生
 就業規則及び退職金規程には懲戒解雇の場合を除き職員が3年以上勤務し退職する場合には退職金を支給すること及びその支給額の算出方法が具体的に定められており、原告が被告に3年以上勤務し退職した者で、懲戒解雇されていないことは明らかであるから、退職金請求権が発生していると認められる。職員が役員を兼任していた場合に教職員退職金の発生が阻害されるような規定は見当たらない。加えて、退職金内規では、教育職員が満65歳に達した日以降の最初の3月31日(基準日)後も引き続き役員として在任する場合の教職員退職金は基準日に支給するとされており、被告自身教職員退職金が基準日に発生していることを認識していたといえる。
 以上によれば、原告の教職員退職金請求権は、原告が教育職員を退職した平成27年3月31日に発生したといえる。
 よって、原告が教育職員を定年退職した平成27年3月31日に教職員退職金請求権が発生したと認められる。
(2)退職金支給
 被告における教職員退職金は、本俸に勤続年数に応じた支給率を乗じて算出され、退職事由により支給率の差異が設けられ、勤続年数に応じて支給率が上昇するものであることからすれば、賃金の後払的性格と功労報酬的性格を有するものといえる。
 このように被告における教職員退職金が賃金の後払的性格を有することからすれば、仮に、懲戒に類する事由があり退職した教育職員に退職金規程7条(【懲戒等による解雇の場合の取扱い】学校法人東京医科大学職員任免規程又はその他懲戒に類する事由により解雇された職員には原則として退職金を支給しない。)を類推適用する余地があるとしても、その退職金を不支給とするには、それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの著しく信義に反する行為があることが必要であると解される。また、同条が類推適用される余地があるとしてもそれは職員任免規程が適用され、解雇の対象となる教育職員の行為に限られると解するのが相当である。
 教職員退職金の性格に加え、原告が18年間被告の教育職員として勤務し、かつその間に重要な役職を務め、教育職員としての非違行為はなかったこと、本件得点調整は学長の職務に関して行われたものであることからすれば、原告による本件得点調整が公正な入試を阻害し不適切な行為であることは間違いないものの、それが教育職員としての18年もの長期にわたる勤続の功を抹消してしまうほどの著しく信義に反する行為であるとは認められない。
 そうすると、退職金規程7条を類推適用して教職員退職金請求を拒むことはできない。
(3)権利の濫用
 原告が教育職員として勤務していた間に行った本件得点調整は平成27年度入試であり、平成28ないし30年度入試における本件得点調整は、教育職員を退職し教職員退職金請求権発生後の事情であること、原告は本件得点調整に関し謝礼を受領したと認められるものの、各年の具体的な金額は不明であること、本件得点調整が学長の職務に関して行われたものであること、被告に重大な損害等が生じているが、それが原告の行為のみによって生じたとはいえないこと等の事情を総合考慮すると、原告が教職員退職金を請求することが権利の濫用に当たるとまではいえない。
(4)時効による消滅
 原告と被告との間には、原告の教職員退職金は役員も退任をした後に役員退職金と一括して支払われる旨の黙示の合意が成立していたと認めるのが相当である。
 そうすると、原告は役員を退任するまで教職員退職金請求権を行使することが不可能であったといえ、同権利を行使することが可能となったのは学長を退任した平成30年7月6日である。そして、原告が本件訴訟を提起した令和4年6月14日の時点において時効期間である5年は経過しておらず、消滅時効は完成していない。
(5)役員退職金請求権の発生
 被告の寄附行為には役員退職金についての定めがなく、また原告に対し役員退職金を支給する旨の被告の理事会の決定はなく、むしろ支給しない旨理事会で決定されていることが認められる。そして、理事である学長として、本件得点調整に関わり、被告に重大な損害等が生じたことなどを考慮すれば、役員退職金を支払わないとした被告の判断も不合理なものではない。