全 情 報

ID番号 09621
事件名 地位確認及び損害賠償等請求事件
いわゆる事件名 任天堂ほか事件
争点 紹介予定派遣労働者に係る派遣元との労働契約の成立とパワーハラスメント
事案概要 (1)原告2名(以下「原告ら」という。)は、保健師の資格を有し、派遣会社であるプライマリー・アシスト株式会社(以下「プライマリー」という。)に雇用され、紹介予定派遣によって、ゲーム、映像及び音楽等のコンテンツの制作、製造及び販売等を目的とする株式会社である被告会社の人事部(以下、単に「人事部」ということがある。)で就労していたところ、派遣期間満了後、被告会社は原告らを雇用しなかった(ここでいう紹介予定派遣は、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)2条4号所定のものである。)。このような中で、原告らが以下のアからウの請求を行う事案である。
 ア 原告らは、以下の①~③を根拠として、原告らと被告会社との間に直接の労働契約が成立したと主張して、被告会社に対して、それぞれ労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び未払賃金等の支払を求めた。
①原告らにとって本来の雇用主である派遣会社ではなく、被告会社が原告らの採用決定を行っており、労働者派遣の枠組みを超えるため、原告らと派遣会社との派遣労働契約は無効であり、原告らと被告会社との間に労働契約が成立する(以下「原告主張1」という。)。
②派遣労働契約が有効であるとしても、被告会社による採用決定の時点で、派遣労働契約が成立するだけでなく、原告らと被告会社との間で、派遣期間満了後を始期とする就労始期付き・解約権留保付き労働契約が成立する(以下「原告主張2」という。)。
③原告らには派遣期間満了後に直接雇用されるとの合理的期待が認められることから、被告会社が直接雇用を拒否することは許されず、派遣期間満了時に被告会社との間で労働契約が成立する(以下「原告主張3」という。)。
 イ 原告らと被告会社との間の労働契約が成立したとは認められない場合の予備的請求として、原告らは、被告会社によって、被告会社に直接雇用されるとの合理的期待を侵害されたと主張して、被告会社に対して、不法行為に基づく損害賠償等の支払を求めた。
 ウ 原告らは、被告会社で就労中、被告会社の被用者であり被告会社の人事部において産業医として勤務していた被告Cからパワーハラスメントを受け、被告会社に苦情を申し出ても対処されなかったと主張して、被告Cに対しては不法行為に基づき、被告会社に対しては使用者責任又は安全配慮義務違反の不法行為に基づき、損害賠償(原告それぞれにつき100万円)等の連帯支払を求めた。
(2)判決は、パワーハラスメントについて被告C及び被告会社に対し連帯して原告ら各自につき10万円の損害賠償を認容し、そのたの請求を棄却した。
参照法条 労働者派遣法2条4号
体系項目 労働契約 (民事)/ 1 成立
裁判年月日 令和6年2月27日
裁判所名 京都地裁
裁判形式 判決
事件番号 令和2年(ワ)2664号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1313号5頁
裁判所ウェブサイト掲載判例
D1-Law.com判例体系
審級関係 控訴(令和6年10月18日大阪高判 控訴及び各附帯控訴はいずれも棄却)
評釈論文 大石玄・季刊労働法 288号224~225頁2025年3月
判決理由 〔労働契約 (民事)/ 1 成立〕
(1)原告らと被告会社との間の労働契約の成否
〈1〉原告主張1について
 通常の労働者派遣においては、派遣先が派遣元の派遣労働者の採用に関与しているような場合には、その他の事情も考慮した上で派遣労働契約が無効となり、派遣先と派遣労働者との間に黙示の雇用契約関係が成立すると解される事案もあり得るところではあるが(最高裁平成20年(受)第1240号同21年12月18日第二小法廷判決・民集63巻10号2754頁参照)、紹介予定派遣においては、特定行為の結果、派遣先に選考された派遣労働者の中から派遣元が派遣労働契約を締結することが行われ、選考の結果、対象となる派遣労働者が1名に絞られることもあり、派遣元がその1名と派遣労働契約を締結することも許容されているというべきである。そもそも、派遣元が派遣労働者と派遣労働契約を締結する趣旨は、雇用責任の明確化にあるのであり、派遣元が自らの責任で派遣労働者に対する雇用責任を負うことを決めて、派遣労働契約を締結している以上、派遣元は、独自の採用決定の判断をしているということができる。本件でも、プライマリーは、原告らに対し、労働時間を管理し、賃金を支払い、面談を実施して就業環境の確認を行うなど、雇用主としての責任を果たしていることが認められる。そうすると、派遣元に採用決定の判断が留保されていなければならないとする原告らの主張は前提を欠くものである。したがって、原告主張1は採用できない。
〈2〉原告主張2について
 紹介予定派遣において特定行為が許容されているのは、直接雇用の推進のためであるとされているものの、紹介予定派遣であるからといって、必ずしも直接雇用に至らない場合もあり、紹介予定派遣開始前の特定行為と、直接労働契約締結のための採用行為とは、別個の行為と認識されるものであって、特定行為をしたからといって、労働契約締結に向けての意思表示がされたと直ちに解することはできない。そもそも、原告らの主張する解釈は、試用期間を設けて採用するに等しく、紹介予定派遣という制度が設けられた趣旨を没却するものというべきである。
 そして、本件において、原告らについての特定行為によって、被告会社との間に直接労働契約が締結されたと認めるべき事情も認めるに足りない。したがって、原告主張2は採用できない。
〈3〉原告主張3について
 原告らは、労働者の合理的期待を根拠に、契約締結拒否を制限し、契約締結を認めることは、雇止めに関する判例法理上も認められていると主張する。しかしながら、雇止め法理は、既に有期労働契約が継続していたこと及び更新の可能性があることといった前提の下で認められてきたものであり、派遣先との間で未だ直接労働契約が締結されていない紹介予定派遣の場合とは適用場面が異なり、本件においても原告らの期待が雇止め法理と同様に保護に値するものとは認められない。したがって、原告主張3は採用できない。
(2)原告らの直接雇用に向けた期待は、法的保護に値する合理的期待であるとは認められないから、期待権侵害に関する原告らの主張は採用できず、不法行為の成立は認められない。
(3)原告らの主張する仕事外しのうち、パワーハラスメントに該当し得るものは、定例ミーティングの中止及び廃止である。被告Cは、健康相談室において原告らに対して業務指示をする立場にあり、 優越的地位を有するところ、一方的な定例ミーティングの中止及び廃止は、原告らとの会話を避けようとする不当な目的の下に、ミーティングの目的、すなわち、保健師と産業医との間で業務に関する認識の齟齬をなくし、共通認識を形成するという業務上の必要性を無視して行われたものであり、パワーハラスメントに該当する。この行為によって、原告らの就業環境が害され、精神的苦痛を与えたものと認められるから、不法行為に該当すると認められる。
 原告らの主張する無視等について、原告らは、被告Cの各行為では違法であるとはいえなくても、継続した一連の行為として扱うことで違法となる一体的行為として扱うべきであると主張する。この点、業務上必要のある声掛けへの無視並びに被告Cの退院後に、原告らに対してのみ他の従業員と比べて差別的な対応をとった点につき、被告Cの言動は、原告らとの接触を避けようとする不当な目的の下に、業務上の必要性の乏しい差別的な対応をとるものであって、一連のものとして扱うのが相当であり、これらの行為によって、原告らの就業環境が害され、精神的苦痛を与えたものと認められるから、不法行為に該当するといえる。
 したがって、被告Cの行為のうち、定例ミーティングの中止及び廃止、業務上必要のある声掛けへの無視並びに被告Cの退院後に、原告らに対してのみ他の従業員と比べて差別的な対応をとった点については、不法行為であると認められる。
(4)被告Cの事業の執行について行われた行為により、原告らに損害を加えたものといえるから、被告会社は、被告Cのパワーハラスメントについて、使用者責任を負う。