| ID番号 | : | 09622 |
| 事件名 | : | 各損害賠償請求控訴、同附帯控訴事件 |
| いわゆる事件名 | : | 東海旅客鉄道事件/JR東海(年休)事件 |
| 争点 | : | 年休取得申請に対する時季変更権行使の違法性 |
| 事案概要 | : | (1)本件は、東海道新幹線を運行する東海旅客鉄道株式会社(以下「一審被告」という。)との間で労働契約を締結し、東海道新幹線の乗務員として勤務していた一審原告らが、平成27年4月1日から平成29年3月31日までの期間(以下「本件期間」という。)において、労働基準法(以下「労基法」という。)39条所定の有給休暇(年次有給休暇。以下単に「年休」という。)を申請したのに対して一審被告から同条5項ただし書所定の時季変更権を行使されて就労を命じられたことにつき、一審被告の時季変更権の行使は労働契約に反するものであり、これにより年休を取得できず、精神的苦痛を被ったと主張し、一審被告に対し、労働契約の債務不履行に基づく損害賠償請求として、それぞれ慰謝料等の支払を求める事案である。 (2)原審判決は、一審被告には、一審原告らの年休の取得に関して債務不履行が認められ、これにより一審原告らに対し、慰謝料等の支払義務を負うものと認めるのが相当であるとし、一審原告の請求の一部を認容した。これに対し、一審被告が控訴を提起し、一審原告らが附帯控訴を提起した。 (3)判決は、原判決のうち一審原告らの請求を認容した部分を取り消し、上記取消し部分に係る一審原告らの請求をいずれも棄却し、一審原告らの本件各附帯控訴をいずれも棄却した。 |
| 参照法条 | : | 民法415条 民法623条 労働契約法 労働基準法39条 |
| 体系項目 | : | 年休 (民事)/ 4 時季変更権 |
| 裁判年月日 | : | 令和6年2月28日 |
| 裁判所名 | : | 東京高裁 |
| 裁判形式 | : | 判決 |
| 事件番号 | : | 令和5年(ネ)2385号 /令和5年(ネ)4233号 |
| 裁判結果 | : | 原判決一部取消自判、附帯控訴棄却 |
| 出典 | : | 判例時報2616号60頁 判例タイムズ1529号110頁 労働判例1311号5頁 労働経済判例速報2553号3頁 D1-Law.com判例体系 |
| 審級関係 | : | 上告、上告受理申立て |
| 評釈論文 | : | 橋本陽子・ジュリスト 1598号4~5頁2024年6月 白石浩亮・経営法曹 220号119~125頁2024年6月 伊藤隆史・労働経済判例速報 2553号2頁2024年8月10日 |
| 判決理由 | : | 〔年休 (民事)/ 4 時季変更権〕 (1)年休申込簿の記入・届出をもって年休の時季指定の効果が発生するか 一審原告らは、労働者は、あらかじめ免除されていない限り、就労義務を負っているから、先の時期に予定を入れるため、早期に時季指定を行うことは保護されるべき権利であり、このような場合にも可能な限り年休の付与に努めることが使用者の責務であるから、労働者は時季指定をすることによって使用者に対し当該日に就労義務を課さないよう求めることができるとして、具体的な就労義務の内容が決まる前にした時季指定によって時季指定権行使の効力が発生する旨主張する。 しかし、就労義務の消滅という時季指定権行使による法律効果は、年休使用日につき就労義務があることを前提とするものであるから、勤務指定表の発表によって当該年休使用日につき就労義務があることが確定して初めて発生すると解するのが相当である。また、一審原告らの主張を前提とすれば、一審被告は年休使用日に公休又は特休を指定することはできないこととなるが、一審被告は一定期間に一定日数の公休及び特休を付与する必要があったこと並びに公休及び特休の付与によって年休と同様に就労義務が免除されることを踏まえると、使用者が年休使用日に年休を付与するよう努める責務を負うとしても、それにより、公休又は特休の指定が制限されるものと解するのは相当ではない。 (2)一審被告による時季変更権の行使が不当に遅延してなされたものとして債務不履行を構成するか 一審原告らが従事していた事業(東海道新幹線の運行)の性格やその内容、一審原告らの業務(東海道新幹線の乗務員)の性質、時季変更権行使の必要性、一審原告らの被る不利益等を考慮すると、本件期間において、一審被告が勤務日の5日前に時季変更権を行使したことについては、事業の正常な運営を妨げる事由の存否を判断するのに必要な合理的期間を超えてされたものということはできない。 (3)一審被告の時季変更権の行使が一審原告らに対する配慮義務に違反したものとして債務不履行を構成するか 労働者が年休の時季指定をした場合、使用者ができるだけ労働者が指定した時季に年休を与えられるよう状況に応じた配慮をすべき一般的な労働契約上の義務を負っているとも、使用者が労働者による年休の時季指定に対し時季変更権を行使するに当たっては、労働者に年休を与えられるよう状況に応じた「使用者としての通常の配慮」をしたとしても年休を与えることが事業の正常な運営を妨げるときに限り時季変更権を行使する労働契約上の義務を負っているとも認めることはできず、また、本件期間における一審原告らの時季指定権の行使に対し、一審被告が通常の配慮をすれば代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状態にあったと認めることもできない。 (4)一審被告による時季変更権の行使が恒常的な要員不足に陥った状態のままされたものとして債務不履行を構成するか 年休権の保障の趣旨及び労基法39条5項の趣旨に加え、同項の文理に照らせば、使用者による時季変更権の行使は、他の時季に年休を与える可能性が存在していることが前提となっているものと解されることを踏まえると、使用者が恒常的な要員不足状態に陥っており、常時、代替要員の確保が困難な状況にある場合には、たとえ労働者が年休を取得することにより事業の運営に支障が生じるとしても、それは労基法39条5項ただし書にいう「事業の正常な運営を妨げる場合」に当たらず、そのような使用者による時季変更権の行使は許されないものと解するのが相当である。 これに対し、一審被告は、労基法39条5項ただし書は、使用者が恒常的な要員不足状態に陥っており、常時、代替要員の確保が困難な状況にある場合には、事業運営上の必要性が高くとも時季変更権の行使が一切許されないという事態を想定しているものではないと主張する。しかし、上記のような場合にも、使用者の労務指揮権が労働者の年休権の行使に優先することを許容するのでは、年休権の保障の趣旨に反すると考えられるから、一審被告の上記主張は採用することができない。 H運輸所及びI運輸所のいずれについても、配置人数が基準人員を5%以上下回る状態が継続した期間は2か月以下にとどまる上、H運輸所については少なくとも平成28年4月17日から10月14日までは配置人数がおおむね基準人員を5~19名上回る状態が継続しており、I運輸所についても平成28年4月1日から11月15日までは配置人数がおおむね基準人員を若干上回るか基準人員を3~6名下回るにとどまっており、少なくとも年度の前半には配置人数には比較的余裕があったものといえる。また、列車の運転本数は日ごとに異なることや、計画的な休日勤務指定が行われていた時期もあることを踏まえると、年休の取得のしやすさは配置人数のみによって決まるわけではない(例えば、I運輸所については平成29年1月31日には配置人数が基準人員を5%以上下回っているが、年休順位制度の対象となる年休の届出を行った乗務員30名のうち24名が年休を取得しているし、乗務員の年休の取得実績が平均15日余りにとどまったことも、直ちに要員不足の状態が恒常化していたことを裏付けるものとはいえない。さらに、一審被告は、平成27年度におけるのと同様の代替要員確保措置に加え、年度当初の予測以上の乗務員の減少を受け、年度当初の計画数を超える数の運転士資格を有している社員を運輸所に転入させるとの対応を講じており、特別の資格を要する乗務員の迅速・柔軟な補充が類型的に困難であり、休日勤務指定を増加させることも労働組合との関係で困難である中、できる限りの対応をとったものといえる。これらの事情を考慮すると、平成28年度のH運輸所及びI運輸所が恒常的な要員不足の状態に陥っていたものと認めることはできない。 (5)一審被告が一審原告Y4に対して平成29年2月20日に年休を取得させなかったことが債務不履行を構成するか 一審被告には、一審原告Y4との関係で債務不履行(一審原告Y4は、年休申込簿に希望する年休使用日を記載して適式に届け出て、年休順位制度によれば、同日には年休が付与されることになっていたところ、一審被告勤務作成担当者が過失により上記の届出がない(年休の時季指定がない)ものとして扱ったために同日について時季変更権が行使されて就労義務のある日とされたものといえるから、被告が一審原告Y4に対して年休を取得させなかった所為)があったことが認められる。 しかし、一審原告Y4が保有していた年休のうち失効したものは、平成26年度に付与された年休のうち平成28年3月31日の経過をもって失効した3日のみであるところ、上記債務不履行があったために上記年休を失効させたものということができず、一審原告Y4が債務不履行に係る年休使用日の予定を同日が勤務日とされたことを受けてキャンセルしたなどの事情を認めるに足りる証拠もない。 以上を考慮すると、一審原告Y4に金銭の支払をもって慰謝すべき損害が発生しているとは認められない。 |