| ID番号 | : | 09623 |
| 事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
| いわゆる事件名 | : | 慶應義塾(無期転換)事件 |
| 争点 | : | 非常勤講師に対する雇止めと任期法の適用の有無 |
| 事案概要 | : | (1)本件は、被告(慶應義塾大学(以下「本件大学」という。)等の学校を設置している学校法人)との間で契約期間を1年とする有期労働契約を締結し、非常勤講師として、本件大学薬学部(以下、単に「薬学部」という。)において、第二外国語のフランス語の授業を担当し、有期労働契約を更新し令和3年度末で通算期間8年となった原告が、令和3年度をもって雇止された(以下「本件雇止め」という。)。このため、原告は被告に対し、〈1〉主位的に、原告と被告間の労働契約は、労働契約法(以下「労契法」という。)18条に基づく無期転換申込権の行使によって、期間の定めのない労働契約に転換しているとして、期間の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め、〈2〉予備的に、被告による雇止めの意思表示は労契法19条2号に基づいて無効となり、原告と被告間の労働契約は更新されているとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、労働契約の賃金請求権に基づき、令和4年4月から本判決確定の日まで賃金等の支払を求める事案である。 (2)判決は、原告の主張をいずれも棄却した。 |
| 参照法条 | : | 労働契約法18条 労働契約法19条 大学の教員等の任期に関する法律4条 大学の教員等の任期に関する法律5条 大学の教員等の任期に関する法律7条 |
| 体系項目 | : | 解雇 (民事)/ 14 短期労働契約の更新拒否 (雇止め) |
| 裁判年月日 | : | 令和6年3月12日 |
| 裁判所名 | : | 横浜地裁 |
| 裁判形式 | : | 判決 |
| 事件番号 | : | 令和4年(ワ)1830号 |
| 裁判結果 | : | 棄却 |
| 出典 | : | 労働判例1317号5頁 労働経済判例速報2550号13頁 |
| 審級関係 | : | 控訴 |
| 評釈論文 | : | 別城尚人・経営法曹 224号54~63頁2025年6月 |
| 判決理由 | : | 〔解雇 (民事)/ 14 短期労働契約の更新拒否 (雇止め)〕 (1)大学の教員等の任期に関する法律(以下「任期法」という。)7条1項が適用されるか否か ア 任期法の改正を受けて平成27年2月に制定された「慶應義塾教員の任期に関する規程」(以下「本件規程」という。)は、非常勤講師を任期を定めて雇用する教員とするとしており、制定時に、非常勤講師らにも告知されていた。そして、本件労働契約は本件規程制定後に更新されており、非常勤講師らには、各年度の12月又は1月に、「大学の講師(非常勤)は任期法の規定に則り、任期を定めて雇用される教員と定義されており、これにより、本件大学の非常勤講師は、労契法18条の特例対象者となっている」などと記載した書面も送付されているから、原告が同年4月以降に更新したことにより被告との間で再び有期労働契約を締結した後は、本件労働契約の期間は、任期法に基づき定められたといえる。 任期法5条2項は、同条1項により任期を定めようとするときは、あらかじめ、当該大学に係る教員の任期に関する規則を定めておかなければならないとしている。 任期法7条1項は、同法5条1項の規定による任期の定めのある労働契約を締結した教員等について、労契法18条が定める無期転換権の発生期間を5年から10年に伸長しており、大学と有期労働契約を締結した教員等を一律に任期法7条1項の特例の対象者とはしていない。そのため、同法5条2項は、労働契約を締結するに当たり、当該大学において、労契法18条の特例が適用される対象を明示するよう求めたものであると解され、同条項の文言を踏まえると、「あらかじめ」(任期法5条2項)とは、同条1項により「教員との労働契約において任期を定め」るときよりも前の時点において、「当該大学に係る教員の任期に関する規則を定めておかなければならない」ことを意味するものと解される。 これを本件についてみると、本件規程は、任期法5条2項に基づいて定めるとされているから、同項の「任期に関する規則」に当たると認められる。そして、被告は平成27年2月6日に本件規程を制定しているから、原告が同年4月以降に更新により被告との間で再び有期労働契約を締結した時点においては、前もって、すなわち、「あらかじめ」、本件大学に係る「教員の任期に関する規則」が定められていたといえる。 イ 有期契約労働者の雇用の安定という労契法18条の趣旨の重要性に鑑みると、任期法7条1項の適用の前提となる同法4条1項各号の該当性は、慎重に判断されるべきであり、原告が主張するとおり、個々の教員の職務の内容に着目して同号の該当性を検討すべきであるともいえる。他方、同項2号が「助教の職に就けるとき」、同項3号が「教育研究を行う職に就けるとき」としているのに対し、同項1号は、「教育研究組織の職に就けるとき」と「組織」に主眼を置いている文言となっていることからすると、被告が主張するように、本件大学又は薬学部が「多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織」に該当すれば、原告は同号に該当するという考え方もあり得るところである。そして、かかる考え方に立つと、本件大学には10学部があり、そのうちの薬学部についてみても、創薬、臨床開発、環境・生命科学などの幅広い分野と関連した研究が行われることから、本件大学又は薬学部は「多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織」に該当し、原告は同号に該当し、労契法18条の特例が適用されることになる。 ウ 原告は、本件大学を所属研究機関とすることにより、科学研究費(以下「科研費」という。)を支給され、これを書籍購入、各学会の入会費、参加費、年会費、出張等の経費に充て、その額は、令和元年度が約82万円、令和2年度が約31万円、令和3年度が約78万円に及んでおり、自宅において使用しているとはいえ、設置場所を本件大学とすることにより、パソコンの支給を受けるなどしている。このように、科研費の支給を通じて得られる利益は、本件大学を研究機関として研究活動に従事することによって享受していたものとみることができ、かかる点において、原告は、本件大学において、職務として、研究活動に従事しているとみることができる。 エ 講師は、学校教育法上、常勤・非常勤を問わず、教授又は准教授に準ずる職に従事する職として位置付けられており(学校教育法92条参照)、非常勤講師が大学設置基準15条1号に該当しないということはできない上、任期法7条1項の適用対象である「教員」には、常勤・非常勤の別にかかわらず、講師を含むものと解されているため(任期法2条2号)、非常勤講師であるから任期法7条1項が適用されないと解することはできない。 オ 以上によれば、本件労働契約については、任期法7条1項が適用され、原告が被告に対して無期転換申込みを行うためには通算契約期間が10年を超えていることが必要となるところ、無期転換申込みの時点で本件労働契約の通算契約期間は10年に満たないから、被告が同申込みを承諾したものとみなされることはない。 したがって、原告が被告に対して期間の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める主位的請求及びかかる地位を前提とする賃金支払請求は、いずれも理由がない。 (2)契約更新の合理的期待の有無 原告が担当した授業は、原告が所属する薬学部においては選択科目である上、令和4年度以降は廃止されたことからすれば、薬学部において恒常的なものであったとは認められない。本件労働契約は、原告が薬学部に所属し、薬学部での授業を委嘱されることを前提として締結されたものであるから、他学部等においてフランス語の授業が実施されていたとしても、原告が担当する授業が恒常的なものであったと認めることはできない。 契約更新の手続が形骸化していたとは認められないし、更新を繰り返すことが常態化していたとはいえない。 諸事情に鑑みれば、原告において、本件労働契約の契約期間満了時に同契約が令和4年4月以降にも更新されるものと期待することに合理的な理由があったと認めることはできない。 (3)契約を更新しないことの合理性の有無 薬学部において、第二外国語は選択科目であり、令和4年度以降、第二外国語の履修について、入学前の事前希望調査を行わないことによって履修希望者の減少が見込まれ、その中でもフランス語及びスペイン語は履修者が少なかったことから、これらの授業が開講されないこととされた。被告は、その裁量に基づいてカリキュラムを編成することができるところ、本件雇止めの理由は、カリキュラム編成上、フランス語を開講しないこととしたという事情によるものである。かかる事情からフランス語だけでなく、スペイン語の授業も開講しないこととされ、スペイン語を担当する非常勤講師との間の有期労働契約も終了とする取扱いがされており、フランス語を担当する原告を狙い撃ちして本件雇止めをしたとは認められない。 学生とのトラブルの内容、授業評価アンケートの結果に鑑みると、原告について、他学部による委嘱が困難であるとの判断に至ったことはやむを得ないというべきであり、被告において、薬学部運営委員会での検討や団体交渉の前後での検討の他に、原告が外国語教育研究センターでの授業を担当する余地があるかなど、原告を雇用する可能性を更に検討しなかったとしても、雇止めを回避する可能性に関する検討を怠ったとはいえない。 以上によれば、本件雇止めは、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」(労契法19条柱書)に当たらない。 |