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ID番号 09631
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 みずほ銀行事件
争点 長期間の自宅待機命令の違法性
事案概要 (1)本件は、都市銀行である被告と労働契約(以下「本件労働契約」という。)を締結し被告において銀行員としてコンサルティング業務等を中心とした営業業務に従事していた原告が、被告に対し、〈1〉被告から令和3年5月28日付けで解雇(以下「本件解雇」という。)されたことについて、本件解雇が無効である旨主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認(請求第1項)、〈2〉原告が令和3年2月に受けた出勤停止処分及び本件解雇が無効である旨主張して、賞与を含めた賃金等の支払(請求第2,3項)、〈3〉被告が原告に対してした退職強要、自宅待機命令、厳重注意、懲戒処分(譴責、出勤停止)及び本件解雇がいずれも違法である旨主張して、不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求として慰謝料1500万円と逸失利益1500万円と弁護士費用相当額300万円の合計3300万円等の支払(請求第4項)を求めた事案である。
(2)判決は、原告の懲戒解雇は有効であるとして請求第1、2,3項は棄却し、請求第4項の慰謝料の一部を認容し、その他は棄却した。
参照法条 民法415条
民法536条
民法709条
民法724条
労働契約法15条
労働契約法16条
体系項目 懲戒・懲戒解雇/ 3 懲戒権の濫用
裁判年月日 令和6年4月24日
裁判所名 東京地裁
裁判形式 判決
事件番号 令和3年(ワ)23445号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 判例時報2620号102頁
判例タイムズ1534号157頁
金融・商事判例1701号34頁
労働経済判例速報2567号9頁
審級関係 控訴(令和7年2月12日東京高判:控訴棄却、附帯控訴棄却、拡張請求棄却)
評釈論文 河津博史・銀行法務21 68巻14号71頁2024年12月
笹山尚人・季刊労働者の権利 358号106~109頁2024年10月
岡正俊・労働経済判例速報 2567号8頁2025年1月10日
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇/ 3 懲戒権の濫用〕
(1)原告は、被告から就労を継続する意思の有無及び原告の健康状態(就労可能性)について回答すること、出社を命じられるとともに出社できない場合にはその理由について回答することを業務命令として再三にわたり求められたものの、被告に対し回答せず出社しなかった。また、原告は、本件厳重注意、本件譴責処分及び本件出勤停止処分を受けても対応に変わりはなく、本件出勤停止処分後も3回にわたり被告から就労を継続する意思の有無及び原告の健康状態(就労可能性)について回答するように求められたものの、被告に対し回答しなかった。
 これらの事実によれば、原告は、被告の業務命令に従わず、かつ欠勤を繰り返していたということができるから、業務命令違反及び欠勤について正当な理由がない限りは、懲戒事由について定めた被告の就業規則70条1号(「法令に違反し、またはこの規則その他の諸規程あるいは業務上の命令に正当な理由なく従わないとき」)及び11号(「正当な理由なく、遅刻、早退、離席または欠勤を繰り返す等、勤務状況、勤務態度が不良であるとき」)に該当するといえる。
(2)後記説示のとおり、本件自宅待機命令は社会通念上許容される限度を超えた退職勧奨として部分的に違法であるものの、被告が先行して違法な行為をすれば、原告は、以後、被告の業務命令に従わなくてよいということにならないのは当然であるし、本件自宅待機命令によって、原告が被告に対し不信感及び恐怖心を抱いた可能性はあるものの、上記のとおり本件業務命令の内容等に照らせば、このことによって、原告の業務命令違反及び欠勤について正当な理由があるということはできない。
(3)原告は、正当な理由なく被告の業務命令に違反し欠勤を繰り返しており、その回数及び期間に鑑みても、原告の違反の程度は重大で企業秩序に与える程度も大きく、被告としては、こうした労働者を放置していては企業秩序を維持することは不可能であったといえる。
 また、被告は、本件解雇に先立ち、原告に対し、本件厳重注意、本件譴責処分及び本件出勤停止処分をしており、段階を踏み改善の機会を与えているし、原告は、本件厳重注意、本件譴責処分及び本件出勤停止処分を受けても対応に変わりはなく、被告から本件出勤停止処分後も3回にわたり就労を継続する意思の有無及び原告の健康状態(就労可能性)について回答するように求められたものの、被告に対し回答しなかったことが認められるから、被告の業務命令に従わない意思を確定的かつ終局的に示しているといえ、改善の可能性もなかったといえる。
 そして、上記の経緯に鑑みれば、本件解雇につきその効力を左右するような手続上の問題も見当たらない(被告の就業規則上解雇の手続については特段の定めがない。)。
 したがって、本件解雇は、懲戒解雇として客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合に該当せず、有効である。
 以上によれば、本件解雇は懲戒解雇として有効である。
(4)原告は、被告から他の従業員に対する厳しい言動や、上司に対する反抗的な態度から問題のある社員であると認識され改善指導を受けており、最後のチャンスとしてE本部F部PB室に異動したものの、当該部署においても多くの関係者と衝突するなどしていたことから、退職勧奨を受けるに至ったといえる。原告は、平成28年3月25日及び同年4月7日、被告のG参事役及びH参事役から退職勧奨を受け、さらに、同月8日以降被告から本件自宅待機命令を受けている。その後、同年5月12日、同月25日、同年6月9日、同月20日に行われた面談において、原告は、G参事役又はH参事役から、進退について判断するよう告げられ、また、原告の上司や同僚とのコミュニケーションに係る問題点やその改善方法についての認識が不十分であるとして、その認識を深めるよう求められた。そして、同年8月9日の面談において、原告が職場復帰を希望する旨述べたところ、G参事役は、原告の反省を求めるということについては終了したという認識を示した上で、ポストが用意できないため退職してもらったほうがよいと考えている旨伝えるなどした。その後、被告は復帰先について提示することなく、令和2年10月15日付け「ご連絡」と題する書面(甲115)及び同日付け「厳重注意」と題する書面(甲116)によって、被告から出社を命じるまでの約4年半もの長期間、明示的に出社を求めたり、自宅待機命令を終了する旨伝えたりすることはなかった。
 このような長期間の自宅待機命令は、通常想定し難い異常な事態というべきであり、退職勧奨に引き続いて自宅待機命令を受け、その間ポストを用意することが困難であるとして退職することを勧める発言がされつつ、復帰先も提示されないまま、長期間にわたり自宅待機の状態が続けられたことからすれば、原告については、実質的にみて退職勧奨が継続していたというべきである。退職勧奨は任意のものでなければならず強制にわたることは許されないというべきであるところ、原告の勤務状況に問題があったことが被告の退職勧奨のきっかけとなったこと、その後原告が復帰先について希望どおりにならない場合であっても構わないか否かといった被告の問いに対し明言を避けたことが長期化の一因となった面が否定できないことを踏まえても、G参事役が原告の反省を求めることについて終了したとの認識を示し、原告が復帰を明確に求めた平成28年8月9日の面談以降は、原告に退職の意思はないものとして原告の復帰先についての具体的調整を開始すべきといえる。そして、被告は、同月には原告の職場復帰に関する調整を始めなければならない以上、原告に対し同年10月頃までには具体的な復帰先を提示すべきであったといえ、同月以降の本件自宅待機命令は、実質的にみて、原告に対し退職以外の選択肢を与えない状態を続けたものといえ、社会通念上許容される限度を超えた違法な退職勧奨であったといわざるを得ない。さらに、被告は、その後、原告に対し、復帰先について特段の連絡をしていないばかりか、復帰先について検討したことを裏付けるに足りる客観的証拠もなく、原告を今後どのように処遇しようとしていたかすら不明であり、原告が本件自宅待機命令についてI次長に抗議したり内部通報をしたりしても、これに直ちに対応せず結果的に本件自宅待機命令が約4年半もの長期間に及んでおり、その対応は不誠実であるといわざるを得ない。
 したがって、本件自宅待機命令は、平成28年10月頃以降前記のとおり令和2年10月15日に終了するまでの部分については、社会通念上許容される限度を超えた違法な退職勧奨として不法行為が成立する。なお、原告には業務命令違反が認められるのであり、これを理由とする被告の原告に対する本件厳重注意及び懲戒処分(本件譴責処分、本件出勤停止処分、本件解雇)は有効であるから、この点について不法行為は成立しない。
(5)原告が精神障害を発病し希死念慮が生じたこと(原告本人)も含めた本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、原告の精神的苦痛に対する慰謝料は300万円と認めるのが相当である。
 原告の勤務状況には問題があり、その結果退職勧奨に至ったといえるから、本件自宅待機命令がなくても被告から従前と同様の人事考課を受け、千数百万円の年収を得ていた蓋然性が高いと認めることはできない。したがって、原告には逸失利益は認められない。