| ID番号 | : | 09633 |
| 事件名 | : | 労働契約上の地位確認請求事件 |
| いわゆる事件名 | : | 大津漁業協同組合事件 |
| 争点 | : | 内部告発、精神障害を理由とする普通解雇の有効性 |
| 事案概要 | : | (1)本件は、被告が、被告が雇用していた原告Aに対し、令和4年1月23日、〈1〉①原告Aが、週刊誌記者に、被告が茨城県作成の「しらす試験操業に係る漁獲物等の放射性物質分析結果について」と題する書面の記載を改ざんしたとして、上記書面に書き込みをした書面(以下「本件書面」という。)を提供し、その旨を週刊誌(令和3年3月18日号)に掲載させたこと、②原告Aが、被告の書庫内の書類を無断撮影の上、これを証拠として、かねてから妬みを持っていた上司らに刑事処分を受けさせる目的で、茨城県警察に対し、被告が「がんばる漁業復興支援事業の事務補助金」(以下「本件補助金」という。)を不正に受給したとの虚偽の告発をしたことを理由に、同年2月22日限りで解雇するとの意思表示をした(本件解雇1) 〈2〉被告は、被告が雇用していた原告Bに対し、令和4年1月23日、原告Bが抑うつ状態により業務に耐えられない状態にあることを理由に、同年2月22日限りで解雇するとの意思表示をした(本件解雇2)。このため、原告A及びB(以下「原告ら」という。)が以下の請求をした事案である。 ア 原告Aが、被告に対し、本件解雇1は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものであって、権利を濫用したものとして無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める(請求1(1))とともに、未払賃金等の支払(請求1(2))、並びに、労働契約に基づき、本件解雇1以前の令和3年の冬季賞与98万6000円等の支払(請求1(3))を求めたもの。 イ 原告Bが、被告に対し、本件解雇2は、原告Bが業務上の疾病にかかり療養するために休業する期間内になされたものであるから労働基準法(以下「労基法」という。)19条1項に反し、又は、権利を濫用したものとして無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める(請求2(1))とともに、未払賃金等の支払(請求2(2))、並びに、労働契約に基づき、本件解雇2以前の令和3年の冬季賞与等の支払(請求2(3))を求めたもの。 (2)判決は、原告らの解雇は無効とし請求1(1)請求2(1)を認容した上で、請求1(2)を認容し、請求1(3)、請求2(1)(2)の一部を認容し、その他の請求を棄却した。 |
| 参照法条 | : | 民法536条 労働基準法19条 労働契約法16条 |
| 体系項目 | : | 解雇 (民事)/ 3 解雇権の濫用 |
| 裁判年月日 | : | 令和6年4月26日 |
| 裁判所名 | : | 水戸地裁 |
| 裁判形式 | : | 判決 |
| 事件番号 | : | 令和4年(ワ)89号 |
| 裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
| 出典 | : | 労働判例1319号87頁 労働経済判例速報2556号3頁 裁判所ウェブサイト掲載判例 D1-Law.com判例体系 |
| 審級関係 | : | 控訴 |
| 評釈論文 | : | 田中勇気・労働経済判例速報 2556号2頁2024年9月10日 大浦綾子・労働判例 1319号210~211頁2025年1月1日 別城尚人・経営法曹 224号95~100頁2025年6月 |
| 判決理由 | : | 〔解雇 (民事)/ 3 解雇権の濫用〕 (1)〈1〉虚偽情報のリーク 原告Aが、週刊誌記者からの取材に対して、本件書面及び本件会議の録音音声を提供し、実際の放射性物質分析結果とは異なる数値が公表された可能性があるとの認識を回答していたとしても、それが、故意に虚偽の情報を提供したものであったということはできず、およそ合理的な理由なく被告の信用を毀損する行為であったということもできない。 以上に説示したところによれば、原告Aが取材に応じたことは、不合理に被告の信用を低下させるものであったとは認められず、解雇の有効性を基礎付ける客観的合理的な理由たり得ないというべきである。 〈2〉虚偽の告発 原告Aの認識していた事情を基礎とすれば、被告が本件補助金を不正に受給しているのではないかと疑問を抱くことがおよそ不合理であったとまでいえるものではなく、原告Aの告発が全く根拠を欠く不当なものであったとは認められない。また、原告Aが、本件補助金の不正受給の事実はないと認識していたにもかかわらず、捜査機関に対して虚偽の告発をしたとも認められない。 〈3〉原告Aによる告発が、上司に対する私憤を晴らすという個人的な目的によるものであったとはいえない。そして、原告Aによる告発がおよそ合理性を欠いていたということはできず、その内容においても公益通報としての側面を有していたことを併せ考慮すれば、原告Aによる告発が、解雇の有効性を基礎付ける客観的合理的な理由たり得ないというべきである。したがって、本件解雇1は、客観的に合理的な理由を欠き、権利を濫用したものであるから、無効である。 (2)本件解雇2が、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないものであった場合、本件解雇2は、原告Bの疾病が労基法19条1項に規定する業務上の疾病に当たるかを検討するまでもなく、権利を濫用したものとして無効となる。 原告Bは、令和3年2月6日に医師の診察を受けた際、本件アンケートやC参事からの叱責のほか、仕事の負荷を以前から感じていたことや、原告Aの休職処分により被告への不信感が増したことなどを述べ、医師は職場でのストレスが強く抑うつ状態にあると診断したことが認められる。かかる事実に照らせば、原告Bの抑うつ状態は、少なくとも被告での業務と無関係に生じたものであったということはできない。 そうすると、被告としては、原告Bの解雇を検討するに当たり、原告Bの病状の詳細を把握し、その状態に応じて配置可能な業務の有無も含め、原告Bの職場復帰の可能性を慎重に検討することが求められるというべきである。しかしながら、被告は、令和3年3月17日に原告Bに対して欠勤理由の説明を求め、同月30日に原告Bに対してD専務又はC参事に病状等を報告するよう求めたものの、上記のほかに、被告が原告Bに対して病状の報告や診断書の提出を求めたことはなかったことが認められる。そして、原告Bは、同月31日、労働組合に加入し、被告に対して、団体交渉を申し入れ、その後原告らと被告との間で本件解雇2までに3回の団体交渉が行われており、被告としては、上記同日以降、原告Bの病状や復帰見込みについて、労働組合を通じて確認することは可能であったといえる。それにもかかわらず、被告は、同月30日を最後に、原告Bが労働組合に加入して以降、病状等の報告を一切求めることなく、原告Bが精神の障害により業務に耐えられないとして解雇しており、 その判断は早急に過ぎるものといわざるを得ない。 以上によれば、原告Bが精神の障害により業務に耐えられない状態にあったか否かにかかわらず、本件解雇2は、社会通念上相当性を欠くものと解するのが相当である。 抑うつ状態にある原告Bに対して、自発的な病状の報告等を求めることは酷な面もあり、被告としても労働組合を通じるなどして病状等の報告を求めることも可能であった以上、原告Bが自発的に報告等をしなかったことをもって、直ちに本件解雇2の相当性が基礎付けられるものではなく、このことは上記判断を左右しない。 したがって、本件解雇2は、社会通念上相当であるとは認められないものであり、権利を濫用したものとして無効である。 (3)原告Aの請求は、〈1〉労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位の確認を求め、〈2〉本件解雇1の日の属する月の翌月である令和4年3月から本判決確定の日までの未払賃金等の支払を求め、〈3〉労働契約に基づき、令和3年の冬季賞与13万7000円等の支払を求める限度で理由があり、 原告Bの請求は、〈1〉労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位の確認を求め、〈2〉本件解雇2の日の属する月の翌月である令和4年3月から本判決確定の日までの未払賃金等の支払を求める限度で理由があるから、その限りにおいてこれらを認容し、原告らのその余の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却する。 |