全 情 報

ID番号 10094
事件名 公務執行妨害事件/建造物侵入事件
いわゆる事件名 国鉄荒尾駅事件
争点
事案概要  公務執行妨害につき、助役に対する閉塞器操作の駅長命令は労基法違反であり、同助役の職務執行は違法として、したがって公務執行妨害は成立しないとの弁護人の主張がなされた事例。
参照法条 労働基準法36条
労働基準法41条2号
刑法95条1項
体系項目 労働時間(刑事) / 時間外・休日労働 / 時間外・休日労働の要件
労働時間(刑事) / 法41条の適用除外 / 管理監督者
裁判年月日 1961年11月15日
裁判所名 熊本地
裁判形式 判決
事件番号 昭和31年 (わ) 615 
裁判結果 有罪(懲役10か月,8か月・執行猶予5年)
出典 下級刑集3巻11・12合併号1096頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働時間-時間外・休日労働-時間外・休日労働の要件〕
〔労働時間-法41条の適用除外-管理監督者〕
 ところで先ず駅長の同助役に対する右業務命令の適法性につき、検察官は、同助役は労働基準法第四十一条第二号所定の「監督若しくは管理の地位にある者」に外ならず労働時間等に関する同法上の規定の拘束を受けないと主張するのに対し、弁護人らはこれを争い同助役の就労は同法第三十六条所定の協定に基かない限り違法である旨抗争するので考えるに、同法第四十一条第二号の「監督若しくは管理の地位にある者」とは労務管理上経営者側の利益を重視し、経営者と一体的な立場に立つて労働者に対する各種労働条件を決定施行し、且つその職務の性質上労働時間等の規定を厳格に適用するのが適当でない労働者を指称し、その範囲は、公共企業体等労働関係法施行令第一条の別表掲記の非組合員の範囲と比較して、後者が公共企業体の公益的特殊性に鑑み専ら企業主体の立場から巾広く規定されているのに反して、労働基準法の精神に則りそれより遥かに狭く解釈さるべきは当然であるが、所詮は個々の労働者の職務内容を実体的に観察して決定する外はないと解すべきところ、一件記録に明らかなとおり、A助役の出退社は時間的に一応拘束され、時間外労働に対しては同法所定の超過賃金が支払われ、いわゆる管理職手当の支給も受けてないことその他国鉄荒尾駅の規模、助役の数と職務内容等諸般の事情を総合勘案すれば、A助役は労働基準法第四十一条第二号所定の「監督若しくは管理の地位にある者」に該当するとは解せられず、同法第三十六条所定の協定についても証人B、同Cの各証言によれば当時国鉄当局と国鉄労働組合間の同条協定は破棄された状態にあつたことが明らかである。してみれば同助役の本件閉塞器の操作は同法第三十二条所定の法定時間を超えてなされた就労行為に外ならず、それを命じた駅長の業務命令は右考察の限りにおいては労働基準法に違反するものといわなければならない。
 しかしながら労働基準法に違反する業務命令を受けてなされたA助役の就労行為がそれなるが故に直ちに刑法上公務執行妨害罪として保護さるべき適法性を失つたか否かについては亦自ら観点を異にすべき問題というべきである。