全 情 報

ID番号 10096
事件名 割増賃金違反被告事件
いわゆる事件名 三洋石炭事件
争点
事案概要  割増賃金の計算に際し、「臨時手当」なるものを計算基礎に算入しなかったことが、労基法三七条に違反するとして起訴された事例。
参照法条 労働基準法37条
労働基準法119条1号
体系項目 賃金(刑事) / 割増賃金の不払い
裁判年月日 1960年6月9日
裁判所名 広島高
裁判形式 判決
事件番号 昭和35年 (う) 54 
裁判結果 棄却
出典 労基判集2号923頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-割増賃金の不払い〕
 しかしながら、原判決挙示の各証拠によると、前記臨時手当なるものは、原判示会社の労働組合の賃上要求に基き支給することの決定せられたもので、当初会社側提案の支給名目は所論のとおりではあつたが、労使双方交渉の過程において変更せられ、原判決説示のとおり、従前の基本給はこれを増額しない代りに、実質上の賃上の一方法として、右基本給の額に比例して算出し、かつ毎月支給する約束の下に新設せられるに至つた生活補給金であること、また実際においても右のような方法により、昭和二九年以降同三二年一一月に至るまで数年の長きに亘り、毎月支給せられていたものであることが認められるのである。してみれば右臨時手当は、労働基準法第三七条第二項、同施行規則第二一条所定のいずれの手当または賃金にも該当せず、法上当然に割増賃金計算の基礎に算入せらるべきものとしなければならない。しかるに論旨は右臨時手当については、これを割増賃金計算の基礎から除外する趣旨の労使間の協定があつたと主張するのであるが、本件についてはそのような協定のあつたことを認め得る確証がないばかりでなく、仮りに一歩を譲って、所論のような協定があつたとしても、そのような協定は労働基準法第一三条により無効のものであるから、右協定のあることを理由として算入の不要を主張するわけにもゆかない。さらに論旨は本件行為そのものの違法性や、違法性の認識を云々して犯罪の不成立を主張するのであるが、所論のように所轄監督署が、被告人の本件行為を看過放任し、これを違反行為として早期に指摘し是正の勧告をしなかつたからと言つて、それを正当行為として承認したものとは解せられないばかりでなく、本件所為は労働基準監督官の承認や取扱例の如何によつて違法性の阻却を招来する事項ではない。しかしてその違法性の認識に関する論旨に至つては、いわゆる法律の不知を主張するものであるが、法律の不知は犯意の成立を阻却するものではないと解せられるので、論旨は採用することのできない非難である。
 以上を要するに原判決の事実認定や法令の解釈適用はいずれも正当であつて、所論のような違法はない。論旨はなお笠谷監督官の本件摘発前後の措置の不当を指摘論難するが、同指摘にかかる事実は未だ本件犯罪の成否やその法律的評価を左右する程のものではない。論旨はすべて理由がない。