全 情 報

ID番号 10142
事件名 職業安定法違反被告事件/労働基準法違反被告事件
いわゆる事件名 料理店丸美事件
争点
事案概要  女中、接客婦又は芸妓として就職の斡旋をし、利益を得た件につき、職安法六三条二号の罪と労基法六条(中間搾取)の罪との関係について、観念的競合とした事例。
参照法条 労働基準法6条
労働基準法118条1項
刑法54条
体系項目 労基法総則(刑事) / 中間搾取
裁判年月日 1956年1月23日
裁判所名 神戸家姫路支
裁判形式 判決
事件番号
裁判結果
出典 家裁月報8巻4号85頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法総則-中間搾取〕
 検察官の控訴趣意第一点について。
 訴訟記録を精査するに、原審が所論摘録のような事実を認定した上、これに対する法律の適用に関し所論摘録の如く説示し、以て原判示第一の事実を目し労働基準法第一一八条、第六条に違反する包括一罪であるとなし、又、これと原判示第二の事実中別表のうち三、四、六及び八乃至一三に掲げる職業安定法第六三条第二号に違反する部分とが刑法第五四条第一項前段にいわゆる一箇の行為にして数箇の罪名に触れる場合に該当するものと判断したことは、原判決に徴して明らかである。而して、右労働基準法違反の罪がいわゆる業態犯に属し、その意味において、これと職業安定法違反の罪とが自ら各その犯罪行為の態様を異にするものであることは、検察官所論のとおりであるけれども、それなるが故に両者は純然たる併合罪であるとなす検察官の所論につき、当裁判所としてはこれに左袒し難いところである。刑法第五四条第一項の適用上、犯罪の箇数を定める標準に関し、各種の学説が区々として存するところであるが、この点に関し、当裁判所としては単なる犯罪行為或いは被害法益の箇数のみを以て標準となすべきものではなく、数箇の罪名に該当する犯罪行為全体を通じて認識することができる犯意を包括的に観察し、これを目して単一の犯意に出でたものであると断じ得るか否を以て右標準となすべきものであると解する。然らば、本件のような職業安定法違反の行為が、同時に本件労働基準法違反の罪にも該るということは原則としてあり得ないとの検察官の所論は、当然にはこれを是認することができない。右労働基準法違反の罪がいわゆる業態犯に属し、原則として業としてなされたものと認めることができる程度に反覆されることが予想されて居り、その意味において、これと右職業安定法違反の罪とが自ら各その犯罪行為の態様を異にするものであることは、前叙のとおりであるが、それは一に犯罪構成要件の各一部分を異にする当然の結果であつて、本来、犯罪行為それ自体は、いずれの罪名に該当する場合においても、単なる一箇の行為として評価すべきものであつて、この点に関する原審の判断は、まことに相当であるというべきである。又、いわゆる公訴不可分の原則或いは一事不再理の原則の適用上、検察官が所論において掲げるような不都合な結果が生ずることは、容易にこれを想像することができるけれども、これは自ら別個の事柄に属する。原判決には、検察官が所論においていうが如き違法の廉があるということはできないから、論旨は採用の限りでない。