全 情 報

ID番号 10230
事件名
いわゆる事件名 小崎吉次郎人身売買事件
争点
事案概要  カフェー営業店の店を借りそこにおいて自ら遊客と自由に契約を結んで売淫営業を行う特殊カフェーの給仕婦の「労働者」性が争われたケース(肯定)。
参照法条 労働基準法6条
労働基準法9条
体系項目 労基法総則(刑事) / 中間搾取
労基法総則(刑事) / 労働者
裁判年月日 1950年5月8日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号
裁判結果
出典
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法総則-労働者〕
 証人Aの当公廷に於ける供述、証人Bに対する当裁判所の証人尋問調書中同人の供述記載を綜合すれば、現在に於ける特殊カフェーに於ける給仕婦は旧制度下に於ける娼妓とはその趣を異にし、前借金を以て束縛し、或は年期を定めて雇入れられるのではなく、カフェー営業者の部屋を借り其処に於て自ら遊客と自由に契約を結んで売淫営業を為すものであつて、特殊カフェー経営者から一定の賃金の支払を受けているものではないことが認められるが、右証人の各供述並Cに対する労働基準監督官作成の供述調書中同人の供述記載等を綜合すれば、給仕婦は特殊カフェー営業者の店に住込み、其処に於て客を取り其の報酬は一応特殊カフェー営業者がこれを保管し其の中から給仕婦四分、特殊カフェー経営者六分の割合にて利益を分配し、特殊カフェー経営者は右六分の収益金を以て給仕婦の食費(但し横浜市に於ては給仕婦が自己の収益金の中から一定の食費を特殊カフェー経営者の方に支払う)寄寓費、衛生費、組合費、席料等に充当する事が認められる。然らば特殊カフェー営業者と給仕婦との関係は恰も保険外交員や物品販売の外交員が契約高に応じて使用者から歩合として報酬を受けるのと何等異る処はないと謂わなければならない。又特殊カフェー営業者は単なる貸席業ではなく其の営業上必ず給仕婦を自己の店舗に属せしめ、之をして客を取らしめて其の営業を為すものであることは公知の事実である。然らば現行法上特殊カフェー営業者と給仕婦の関係は民法上の雇傭契約ではないにしても、特殊カフェー営業者が其の営業の為に給仕婦を使用し、其の報酬は給仕婦の稼高に応じて歩合を以て支払つているものと謂つて何等妨げないものと解する。従つて給仕婦は労働基準法第九条所定の労働者と解するを相当と思料する。
〔労基法総則-中間搾取〕
 労働基準法第六条は「他人の就業に介入して」と規定しており、特に其の「他人」を「労働者」に限定していないから同法第六条は労働者たると否とを問わず他人の就業に介入して利益を受ける行為を取締る趣意と解されないこともない。然らば、特殊カフェーの給仕婦が労働者なりや否やは之は論ぜずとして、被告人等の所為を同法第六条違反行為として認定する事は何等妨げないようにも思われるのであるが、又一面労働基準法は労働者保護の為めに労働者と使用者との関係につき規定した法律であるから同法第六条に所謂「他人」とは同法第九条所定の労働者を意味するものとも解せられないこともない。そうすれば被告人等の所為が同法第六条に違反するや否やを確定する為めには、先ず特殊カフェーの給仕婦が、同法第九条所定の労働者なりや否やを決定せねばならない。