ID番号 | : | 10258 |
事件名 | : | 労働基準法違反事件 |
いわゆる事件名 | : | 北辰精密・北辰電機事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 賃金不払につき会社取締役および会社が起訴された事例(有罪)。 |
参照法条 | : | 労働基準法24条2項 |
体系項目 | : | 賃金(刑事) / 賃金の支払い方法 / 定期日払い 賃金(刑事) / 賃金の支払い方法 / 罪数 |
裁判年月日 | : | 1950年11月15日 |
裁判所名 | : | 東京簡 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | |
裁判結果 | : | 有罪(各罰金20,000円,各罰金5,000円) |
出典 | : | 裁判資料55号648頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金-賃金の支払い方法-定期日払い〕 労基法第二四条は、基準的労働条件の実現を期し、労働者の生活権を確保するため厳格の運用を必要とするが、単に賃金を支払わなかつたことを理由として処罰する精神でないことも、又Y1、Y2両被告人が、不払解消に相当苦心したことも率直にこれを認めるが、しかし売掛代金の回収結果も充分でなく、人員整理も後日に行われたのであり、それに会社債務の支払の順序方法や、個人金融その他の点においても、遺憾なかつたものとは思えないし、又犯意がなかつたという弁解も、単に被告会社の具体的事情下においては処罰を受けないであらうとの勝手の解釈をしていたに過ぎない。殊に賃金不払という重大問題につき、常務取締役たる被告人等が、社長にこれを報告せず、社長も又これを知ろうともせず無関心であつたということは、たとい如何なる事情あるにもせよ、会社の中樞主脳部として、非現実的であり、十分責任を解するものとは認めがたい。かかる重要問題については常務は当然社長に報告し、社長は又重大関心を以て、その卓越せる事業上の才能、経験、信用を傾注し、首脳部相協力して、慎重に事態収拾の途を講ずべきであつた。又若し弁護人のいう如く「実は不払については常務において報告もし、社長も知つていた」に違いないのであつたら、何故社長に迷惑をかけるからというような抽象的弁疏を必要とするか、どういう迷惑を及ぼすか本件解決の盲点たるこの間の経緯事情が明瞭でない限り、寧ろ、社長に報告して打つべき手を打たなかつたことの冥冥の告白のようにも取れるし、社長に報告しなかつたことが理由あるものとは認めがたい。 以上の認定により明白なる如く、本件違反は「賃金を支払わなかつたのではなく支払い得なかつたものである。」又「不可抗力に由るものである。」「止むことを得ざるに出でたるものである。」「企業の倒潰を防ぐ自救行為である。」「期待可能性なき行為である。」「違法の認識がない。」等の理由に由り、違法性を阻却せらるべきであるとの弁護人の主張は、これに該当しないので採用することができない。 〔賃金-賃金の支払い方法-罪数〕 一 竹内弁護人は本件の罪数について、本件は不作為犯であるから、行為の数は当然一個である。又法益の点から見ても、労基法第二四条第二項の法益は労働者個々の賃金請求権を法益とするものでなく、労働協約上の一般的労働権を法益とするもので私権でなく公共的福祉という抽象的権益であるから、法益も又一個でなり、従つて本件罪数は一個であると主張しているが、 (判断)労働協約で決つた支払期日に不払があれば、その不払行為は想像的競合に由る一罪として、各支払期日毎に別個の一罪が成立するものと見るべく、従つて本件の罪数は支払期日と同数の六個と解するのが相当である。弁護人主張の如く罪数は一個なりとする説及び労働者の数だけの罪数なりとする説には共に賛同しがたい。 |