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ID番号 10546
事件名 労働者災害補償保険法違反被告事件
いわゆる事件名 日本土地山林事件
争点
事案概要  使用者が労災保険法に基づく報告事項について虚偽の報告をしたとして起訴された事例。
参照法条 労働者災害補償保険法54条
労働基準法12条
体系項目 罰則(刑事) / 両罰規定
賃金(刑事) / 平均賃金
裁判年月日 1954年5月31日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 昭和28年 (う) 18 
裁判結果 破棄・一部無罪・一部有罪(罰金1,000円)
出典 高裁刑集7巻5号735頁/法曹新聞89号6頁
審級関係 一審/豊岡簡/   .  ./不明
評釈論文
判決理由 〔罰則-両罰規定〕
 同法第五十四条の規定により、従業者が業務に関しなした違反行為に基き罪責を負担するのは、該従業者を使用する法人又は人であつて、その他の者に及ばないことは規定自身よりして、明らかなところである。
 然るに本件公訴事実は前示の通りで、被告人Y1はA株式会社の新井事務所長として同事務所の一切の業務を担当していた者ではあるが法人そのものではないし、又同被告人自身が違反行為をしたものというのでもないから、同被告人が労働者災害補償保険法施行規則第二条により事業主より代理人に選任されていると否とにかかわらず、相被告人Y2がした右違反行為に基きこれを処罰することはできない。
〔賃金-平均賃金〕
 労働基準法第十二条第一項は「この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払はれた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。但………」と規定している。その趣旨は一時的な給与の伸縮や労働日数の多寡等による賃金の高低のあるものにつき妥当な平均値を求めんとしたもので、そのためには労働の全期間を平均するが最も望ましいかも知れぬが、それでは計算その他に於て複雑であり、又甚しく短期間では時により妥当を欠く場合のあることを考慮し、先ず事由発生の過去三箇月分の実績を基準にして平均値を求むるのが平衡を得たものとする規定であつて、この基準期間を三箇月とすることを原則としているのである。しかし賃金締切日があるとき事由の発生が締切期間の中途にあつた場合には、その期間の賃金は未整理等のこともあるから、これを除外し直前の締切日以前三箇月の賃金総額を基準にすることにしたのが同条第二項で、この第二項は中途にある締切期間の部分を除外するもその前三箇月の期間のある場合の規定である。これ平均賃金は三箇月間の賃金を基準とする第一項の原則よりして当然の結果である。若しそれ雇入後三箇月の期間のない場合には、三箇月分を平均することが不可能であるから、三箇月に最も近い雇入後の全期間の総賃金を基準にすることにしたのが同条第六項の規定である。そこで第六項の規定の適用ある場合は第二項の適用を排除するものといはなければならない。
 判示Bは前示の通り雇入後負傷までの期間が三箇月に満たないものであるから、同条第六項を適用すべきもので、同条第二項を適用すべきものではない。
 そこで同条第六項に基き雇入後負傷前日までの総賃金六千三百九十八円をその間の総日数二十九で除すときは二百二十円六十二銭となり、この金額は同条第一項但書第一号により右総賃金をその労働日数二十三で除した金額の百分の六十より多額であるから、この二百二十円六十二銭を以て、Bの平均賃金と認定すべきである。被告人Y2はこの計算方法によりて、平均賃金を算出しその旨証明告知したのであるから、何等虚偽の報告をしたものとはいえない。よつて本公訴事実は罪とならないものといはなければならない。然るに原判決は前記法条の解釈を誤り事実を誤認した違法があつて本論旨は理由あり。