全 情 報

ID番号 10576
事件名 労働基準法違反被告事件
いわゆる事件名
争点
事案概要  労働基準法(旧)四二条、労働安全衛生規則六三条一項により使用者が講ずべき危害防止の措置は、当該物件の所有管理が何人に帰属するかを問わず、広く労働者をして右のような危険な設備に接近して作業をさせる場合の使用者に対しても、これを要求されると解され、罰金五〇〇〇円が科された事例。
参照法条 労働基準法42条
労働基準法45条
労働安全衛生規則63条1項
体系項目 労働安全衛生法 / 危険健康障害防止 / 危険防止
裁判年月日 1971年3月30日
裁判所名 名古屋高金沢支
裁判形式 判決
事件番号 昭和45年 (う) 39 
裁判結果 有罪(罰金5,000円)
出典 時報634号92頁/刑裁月報3巻3号405頁
審級関係 上告審/10578/三小/昭47. 6. 6/昭和46年(あ)989号
評釈論文
判決理由 〔労働安全衛生法-危険健康障害防止-危険防止〕
 労働基準法(以下、単に法と略記する)〔中略〕四二条は、「使用者は、機械、器具その他の設備、原材料若しくは材料又はガス、蒸気、粉じん等による危害を防止するために必要な措置を講じなければならない。」と規定し使用者がいかなる危害防止措置を講ずべきかについては、法四五条がこれを命令で定めるとし、これを受けて、規則がその第二編において、いかなる設備等にいかなる危害防止措置を講ずべきかを具体的に定めているものであるが、法及び規則は、規則一〇九条の二の一項六号、一二七条の八、一六三条の七等明文をもつて定めている特殊な場合を除けば、右危害の発生する危険のある設備およびこれに対する使用者、労働者の関係については一般的に何等明らかにしていない。確かに、法、規則を通観するとき、使用者が講ずべき危害防止の措置の対象とされるものは、原則として労働者が、当該使用者の所有或は使用、管理する工場、事業場等の作業場において直接取扱い、または接触する危険のある機械、器具その他の設備であり、従つて当該機械、器具その他の設備を所有或は管理する使用者に対して危害防止の措置を命じているものと解される余地がないではないが、法及び規則制定の趣旨は、使用者が、その使用する労働者を作業上の危害から防護するために講ずべき措置を設け、使用者はその遵守を命ずることによつて、労働者の作業上より生ずる危害の発生を最少限度にとどめようとすることにあり、規則一〇九条の二の一項六号、一二七条の八、一六三条の七等が、当該危険な設備を所有管理する者のみを対象として設けられたものではなく、労働者をして右のような危険な設備に接近して作業をさせる場合の使用者に対しても、その設備等による危害防止のために講ずべき措置の基準を定めていると解されること等に徴すれば、法四二条、規則六三条一項により使用者が講ずべき危害防止の措置は、当該動力伝導装置の所有或は管理する使用者が、その労働者をしてその作業場において直接これを取扱わせている場合に限定されるものではなく、また、当該物件の所有管理が何人に帰属するかを問わず、広く労働者をして右のような危険な設備に接近して作業をさせる場合の使用者に対しても、これを要求されるものと解するのが相当である。
 従つて、右の見解と異り、当該危険設備の所有或は使用、管理者でない被告人に、法四二条、四五条、規則六三条一項の違反は成立しないとして無罪の言渡をした原判決は、右法令の解釈適用を誤つたものであるといわざるを得ず、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから破棄を免れない。諭旨は理由がある。