全 情 報

ID番号 10588
事件名 業務上過失致死被告事件
いわゆる事件名
争点
事案概要  ブルドーザーの後退作業に当たり、後退準備に協力した助力者を死亡させた事故につき、助力者はブルドーザーの操作方法、危険性を熟知していた者であり、本件でとられた安全確認義務を超えて被告人に特別の注意義務を求めるべき特段の事情はないとして、過失責任を否定し、これを有罪とした原審を破棄し、無罪とされた事例。
参照法条 労働安全衛生法20条
労働安全衛生規則158条1項
刑法211条前段
体系項目 労働安全衛生法 / 危険健康障害防止 / 危険防止
労働安全衛生法 / 罰則 / 刑法の業務上過失致死傷罪
裁判年月日 1976年12月21日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (う) 594 
裁判結果 無罪(確定)
出典 時報859号107頁/タイムズ354号324頁/刑裁月報8巻11・12号486頁
審級関係 一審/洲本簡/昭51. 4.28/昭和50年(ろ)11号
評釈論文
判決理由 〔労働安全衛生法-危険健康障害防止-危険防止〕
〔労働安全衛生法-罰則-刑法の業務上過失致死傷罪〕
 被害者Aは、ブルドーザーの排土板の右側前方一ないし一・五メートルの地点に立つていたものでありしかもその場所はわずかに土砂が盛られた平坦で地盤は固く足場の安定した場所でしかも事故時は被告人運転のブルドーザーが後退操作を始めた当初の位置より数一〇センチメートル後退し、ブルドーザーとAの佇立位置との間隔がそれだけ広がつた状況下にあつたことからして右地点に佇立していたAがブルドーザー運転の際の振動や足場の不安定により躓づき、踏み外し、その他の原因により竹崎が身体の重心を失ない平衡を崩し、ブルドーザーに接触して本件事故になつたとは認めがたく本件事故は、結局Aがブルドーザーを見つめていて、その後退がよりスムーズにゆくように何らかの助力をしようと思い、とつさに衝動的に、ブルドーザーに近接してゆき、運転しつつあるブルドーザーに接触し、何らかの経過でラジエーターとユーフレームの間に入つたと考えるよりほかに考えようがない事故である。
 とすれば、ブルドーザーの運転者は、その後退操作にあたり、これを容易にするための準備行為に協力した助力者が老人、子供ではなく、ブルドーザー等の運動性、危険性等につき一応通じているような者であるときは、ブルドーザーの運転者において労働安全衛生規則一五八条一項の趣旨に則り危いから退避するように申し向けたうえ、運転台に立ち右助力者がブルドーザーの最前面にある排土板の前方一ないし一・五メートルの安全な距離に退避し、排土板に向つて佇立するのを確認した以上は、特段の事情のない限り、その後助力者はブルドーザーの後退操作を見守り無断でブルドーザーに近寄らないであろうことを信頼して後退操作を続ければ足り、助力者があえて危険な後退操作中のブルドーザーに何の前触れもせずいきなり接近してきてこれに接触し、ブルドーザーの排土板等を越えて内側に入り込みユーフレームとラジエーターの間に挾圧されるなどすることのありうることまでも予想して、後退操作中ブルドーザーの前方に佇立する助力者の動静に終始注意して事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務はないものと解するのが相当であり、先に認定した通り当時助力者Aは四五歳の健康なダンプカー運転手で重機の運転技能講習も受けブルドーザーの操作方法、危険性を熟知していた者であり、またその佇立する足場が安定したところであつた本件の場合前記の安全確認義務を越えて被告人に特別の注意義務を求めるべき特段の事情は認められない。
 してみれば、被告人に前掲のとおり本件事故の業務上の過失責任を認定した原判決は、事実を誤認し、ひいて法律の解釈適用を誤つたものであつてこの違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、破棄を免れない。