全 情 報

ID番号 10589
事件名 労働安全衛生法違反被告事件
いわゆる事件名 三和重機事件
争点
事案概要  労働安全衛生法三三条二項にいう「機械等の貸与を受けた者」がブルドーザーによるカントリークラブ造成に際し、労働災害の防止に必要な措置をしなかったとして、会社及び代表取締役にそれぞれ三万円の罰金が科された事例。
参照法条 労働安全衛生法33条2項
労働安全衛生法119条1項
労働安全衛生法122条
労働安全衛生規則677条1号
労働安全衛生規則677条2号
体系項目 労働安全衛生法 / 危険健康障害防止 / 機械・建築物貸与者
労働安全衛生法 / 罰則 / 両罰規定
裁判年月日 1977年8月3日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号 昭和52年 (う) 114 
裁判結果 棄却(上告)
出典 時報896号110頁
審級関係 一審/長崎地/昭52. 1.11/昭和50年(わ)436号
評釈論文
判決理由 〔労働安全衛生法-危険健康障害防止-機械・建築物貸与者〕
〔労働安全衛生法-罰則-両罰規定〕
 そこで原審記録および当審における事実取調の結果を総合して考察するに、規則六六七条二号は、機械等の貸与を受けた者が、当該機械等を操作する運転手らとの関係で直接的な使用関係にないため、労働災害発生防止の見地から抽象的に必要と認められる事項をその運転手らに対し通知すべき旨を規定したものであって、その主体が事業者であると否とを問わないものと解されるから、原判決が、被告会社は機械等の受貸与者であると同時に事業者であることを前提とし、事業者につき規定した規則一五七条二項、一五九条により、本件現場において「誘導者の配置が義務づけられて」おり、「誘導者と運転手らとの間の合図の方法等を通知しなかった」と判示した点は相当でないと解される。しかしながら前掲証拠によれば、本件ブルドーザーの作業現場の状況は昭和四九年九月三日当時において、東西に伸びる谷地形の北側山腹部分を切り崩し、その土砂を南側谷方面に落してこれを埋め立てていたもので、谷側に面した傾斜部分は高さ約二〇メートル、傾斜角度約四〇度ないし九五度の断崖をなし、右傾斜面に近い埋立部分すなわち法際は地盤が軟弱であるため、重量のあるブルドーザーが崖近くに寄りすぎると転落等の危険が十分予想される状況にあったところ、被告会社としては誘導者とか見張人を配置することもなく、運転手が誘導者を希望する場合等の連絡、合図等の方法についても具体的な定めはなく、ただ日々の作業内容の指示のみであって、被告人Yとしては、ブルドーザーの運転手である以上、その操作方法に誤りがなければ事故発生はありえないと考え、労働災害防止のため特段の措置は講じてはいなかったこと、ところが同月三日A重機の本件ブルドーザーの運転手らの一人であるBは南側谷部分においてブルドーザー運転中転落して死亡したため、翌日労働基準監督官Cにおいて現場を実況見分したところ、右ブルドーザーは南側谷部分の法面に対しほぼ四五度の角度で進入し、法際に寄りすぎた結果、法際約五〇センチメートルの地盤が崩壊し転落したものであることが判明したことが認められる。右認定を左右するに足る証拠はない。
 これらの事実からすれば、被告人らは本件現場において労働災害防止の見地からして、受貸与者としては誘導者を配置することを義務づけられていたとはいえないまでも、法際の地盤軟弱の個所などブルドーザーの転落等危険の生ずるおそれある部分については見張人をおくとか、また赤旗をもって表示するとか、なんらかの明示方法を講じて本件運転手らに周知させるなど、労働災害の防止のため必要な「連絡、合図等の方法」を通知することを要したのに、かかる措置を怠った点において被告人らには規則六六七条二号の違反があったものと解するのが相当である。
 なお所論は被告人らは本件現場においてその危険性を全く認識予見できなかったのであるから、法一九九条に過失犯処罰の規定なき以上処罰さるべきではない旨主張するが、本件事故現場においてブルドーザーの転落等危険発生のおそれがあったことは前記のとおりであるから、被告人らにおいて主観的にその危険性を認識予見していなかったからといって、規則六六七条二号の通知義務違反をまぬかれるものではない。論旨はいずれも理由がない。