全 情 報

ID番号 90005
事件名 未払賃金等請求事件
いわゆる事件名 アクティリンク事件
争点 実行手当は業務委託料か、営業手当が月30時間分の定額割増賃金と解せるか、管理監督者に当たるかなどが争われた事案。
事案概要 (1) 投資用マンション販売仲介事業者Y社で、売買事業部内のグループ長として、テレアポオペレータの管理・指導、顧客面談への同行・指導等のほか時には自らテレアポ業務に従事していたX1、X2は、基本給、役職手当・営業手当・住宅手当・班長手当、通勤手当・家族手当のほか、実績を挙げたグループの構成員にその役割に応じて支給される実行手当を支給されていたが、退職した後にそれぞれの勤務期間中の時間外労働割増賃金の支払いを求めて提訴した。なお、営業手当は、賃金規程中に月30時間分の割増賃金として支払う旨が定められていた。
(2) 東京地裁は、ⅰ)実行手当は、Y社の指揮命令下でのマンションの仲介販売実績に応じてY社がその配分額を決めているなどしていたことなどからすると業務委託ではなく、雇用契約関係を前提としている、ⅱ)住宅手当は、所有の有無や賃貸借の有無にかかわらず、年齢、地位、生活スタイル等に応じて1~5万円が支給されていたこと等からすると、住宅に要する費用に応じて支給される手当ではなく、除外賃金には当たらない、ⅲ)営業手当は、営業活動に伴う経費の補充または売買事業部従業員へのインセンティブとして支給されていたものとみるのが相当であり、時間外労働の対価としての性格を有していると認めることはできないし、本件請求期間内のほとんどの月で残業時間数は30時間を超えているのに、超えた時間分の割増賃金を清算していないことなどからすると、賃金規程の規定のみをもって定額残業代とみなすことはできず、算定基礎賃金に含めるべきもの、ⅳ)班長手当は、賃金規程にも定めがなく支給されなかった月も存在するが、管理者手当に相当するものと解され、支給しなかった理由を一切主張立証しないことから、支給されたものとして算定基礎賃金に含めるべきもの、ⅴ)Xらは、課長または班長であったが、Y社の経営に参画し、自らの部下らに対する労務管理上の決定権を有していたわけではなく、少なくとも業務開始時刻は、タイムカードによる出退勤管理を受けていたことからすると管理監督者には当たらない、ⅵ)営業手当は、定額残業代の支払とみることはできず、30時間分の残業代を支払ったものとは言えない、ⅵ)一切の事情を考慮し、Y社はXらに付加金を支払えと判示した。  
参照法条
体系項目 労基法の基本原則(民事)/労働者/委任・請負と労働契約
労働時間(民事)/労働時間の概念/労働時間・休日・休憩の適用除外/管理監督者
賃金(民事)/割増賃金/割増賃金の算定基礎・各種手当、算定方法
裁判年月日 2012年8月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成23年(ワ)1954号 
裁判結果 一部容認、一部棄却(控訴)
出典 労働判例1058号5頁
審級関係
評釈論文
判決理由 労基法の基本原則(民事)/労働者/委任・請負と労働契約
労働時間(民事)/労働時間の概念/労働時間・休日・休憩の適用除外/管理監督者
1 (前略)実行手当は、顧客と直接面談する個々の担当者(担当及びヘルプ)のみならず、その担当者が所属するグループの構成員に対しても支給されているところ、(中略)実行手当の配分は、その内容に関してXら従業員が意見を述べる機会はあるものの、最終的にはYが定めていたこと、実行手当は、Yの指揮命令下で行う投資マンション販売業務の成果に応じて支払われていたこと、Yは、売買事業部におけるグループ(部あるいは課)の規模、構成等を一方的に決定し、変更していたこと等の事実を認めることができる。これらの事実にかんがみれば、実行手当は、Yとの間で使用従属関係にある従業員個人とその従業員が属するグループ全体の成果に対して支払われることが予定されているものであるといえ、委任者の指揮命令下にない個人または任意に形成されたグループの成果や働きに応じて支払われる業務委託料とは性質が異なるというほかない。実行手当が平成18年ころまでは給与の一部として支払われていた事実(X甲野本人、〈証拠略〉)、Yが「実行手当=インセンティブ」として主張する中には、賞与名目のものが含まれている事実等からも、実行手当が雇用契約関係を前提としていることがうかがわれる。
 したがって、実行手当を業務委託料と解することはできず、他にXらとYとの間に業務委託契約が締結されていることを認めるに足りる証拠はない。

〔賃金(民事)/割増賃金/割増賃金の算定基礎・各種手当〕
〔賃金(民事)/割増賃金 /割増賃金の算定方法〕
 通勤費及び家族手当が割増賃金の算定の基礎となるべき賃金から除外される賃金(以下「除外賃金」という。)であることについては当事者間に争いがない。そこで、その他の手当のうち、ⅰ)除外賃金か否か争いがある住宅手当、ⅱ)いわゆる定額残業代であるか否か争いがある営業手当及びⅲ)支給されていない月がある班長手当について検討する。
ア 住宅手当
 (前略)Yでは、住宅所有の有無や、賃貸借の事実の有無にかかわらず、年齢、地位、生活スタイル等に応じて1万円から5万円の範囲で住宅手当が支給されていたこと、Xらは、本件請求にかかる期間中、家賃等住宅にかかる費用についてYに申告したこともないこと等の事実を認めることができる。これらの事実にかんがみれば、本件における住宅手当は、実質的にみて、住宅に要する費用に応じて支給される手当ということはできない。(後略)
 イ 営業手当
 (前略)営業手当は、本件賃金規程13条において、月30時間分に相当する時間外労働割増賃金として支給されることとされていることからすれば、いわゆる定額残業代の支払として認められるかのようにもみえる。
 しかし、このような他の手当を名目としたいわゆる定額残業代の支払が許されるためには、〈1〉実質的に見て、当該手当が時間外労働の対価としての性格を有していること(条件〈1〉)は勿論、〈2〉支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示され、定額残業代によってまかなわれる残業時間数を超えて残業が行われた場合には別途清算する旨の合意が存在するか、少なくともそうした取扱いが確立していること(条件〈2〉)が必要不可欠であるというべきである。
(イ) これを本件についてみるに、証拠(〈証拠略〉、Xら本人、Y代表者本人)によれば、営業手当は、売買事業部の従業員が顧客と面談する際にかかる諸経費をまかなう趣旨を含んでいたこと、Yでは業務部の従業員も時間外労働に従事しているにもかかわらず、業務部の従業員に営業手当は支払われておらず、これと同趣旨の別の手当が支払われているわけでもないこと等の事実を認めることができる。これらの事実にかんがみれば、営業手当は、営業活動に伴う経費の補充または売買事業部の従業員に対する一種のインセンティブとして支給されていたものとみるのが相当であり、実質的な時間外労働の対価としての性格を有していると認めることはできない。(中略)
(エ) 以上によれば、本件における営業手当は、上記条件〈1〉及び〈2〉のいずれも満たさないことが明らかであるから、本件賃金規程13条の存在のみによってこれを定額残業代とみなすことはできない。したがって、営業手当は、営業活動に伴う経費の補充または売買事業部の従業員に対する一種のインセンティブとして、労基法37条1項にいう「通常の労働時間又は労働日の賃金」に該当するというべきである。
ウ 班長手当
 本件賃金規程上、「班長手当」という名称の手当は存在しないが、Xらが営業職で営業グループ長であったことは当事者間に争いがなく、Xらの給与明細(〈証拠略〉)に「管理者手当」の費目がないことからすれば、「班長手当」は、本件賃金規程11条の「管理者手当」に相当するものと認めることができる。
Xらは、いずれも、班長手当の支給を受けなかった時期(中略)があるが、Yは、賃金減額を根拠づける事実(中略)について一切主張立証をしない。したがって、班長手当が支給されなかった月についても、直前の月と同額の班長手当が支給されたものとして、本件基礎賃金を認定すべきである。
(16日から月末まで)は午後9時15分を原則的な終業時刻と認めることが相当である。
労働時間(民事)/労働時間の概念/労働時間・休日・休憩の適用除外/管理監督者
 管理監督者とは、一般に「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」をいうものと解され、それに当たるか否かの判断は、職位等の名称にとらわれずに、職務内容、権限及び責任並びに職務態様等に関する実態を総合的に考慮して決すべきものと解される。
 この点、確かにXらは、課長または班長の地位にあったことが認められるが、反面、Yの経営に参画し、自らの部下らに対する労務管理上の決定権を有していたとまでは認めることができず、少なくとも業務開始時刻については、タイムカードによる出退勤管理を受けていたことが明らかである。
 したがって、Xらが「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」ということはできず、Xらは、労基法41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)には当たらないものというべきである。(後略)6 付加金について
 本件訴訟に表れた一切の事情を考慮すれば、Yに対し、X1には275万円、X2には190万円の付加金の支払いを命ずることが相当である。