ID番号 | : | 90010 |
事件名 | : | 退職金請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 小田急電鉄(退職金請求)事件 |
争点 | : | 度重なる痴漢行為による懲戒解雇とこれに伴い退職金を支給しなかったことの適否が争われた事案 |
事案概要 | : | (1) 痴漢撲滅運動に取り組んでいる鉄道会社Yは、勤務態度も真面目で昇任試験などにも合格していた職員Xが、痴漢行為により逮捕拘留された後に略式起訴された後にも再び痴漢行為に及んで逮捕され、正式起訴され執行猶予付き判決を受けた上、余罪も自白したことから、就業規則の懲戒条項に基づき懲戒解雇するとともに、退職金規程の不支給条項により、退職金を支払わなかったところ、Xは、ⅰ)解雇は手続きに瑕疵があり、処分内容も重すぎて無効、ⅱ)勤続20年間の功労を消し去るほどの不信行為には当たらないとして、退職金を全額支払うよう求めて提訴した。
(2) 東京地裁は、電車内での痴漢行為により逮捕・勾留・起訴されたことを理由とする懲戒解雇は有効であるとし、退職金の不支給も、Xの行為はそれまでの勤続の功を抹消するほどの不信行為に当たり適法であるとしたが、東京高裁は、懲戒解雇は有効とするも、退職金は、Xの行為に相当程度の背信性があったとはいえないことから、全額不支給ではなく、3割を支給すべきであるとした。 |
参照法条 | : | 民法623条 労働契約法15条 労働基準法11条 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/有罪判決
賃金(民事)/退職金/懲戒等の際の支給制限 |
裁判年月日 | : | 2003年12月11日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成14年(ネ)6224号 |
裁判結果 | : | 一部認容(原判決変更)、一部棄却(上告) |
出典 | : | 判例時報1853号145頁
労働判例867号5頁 |
審級関係 | : | 第一審 東京地裁/H14.11.15/平成14年(ワ)2003号 |
評釈論文 | : | 労政時報3623号72~73頁2004年3月5日
蓮井俊治・平成16年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1184〕286~287頁2005年9月 遠藤隆久・労働判例百選<第8版>〔別冊ジュリスト197〕78~79頁2009年10月 棗一郎・実務に効く 労働判例精選〔ジュリスト増刊〕94~99頁2014年3月 |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/有罪判決〕
〔賃金(民事)/退職金/懲戒等の際の支給制限〕 (2) 本件懲戒解雇の効力について ア 本件懲戒解雇がその手続に瑕疵がなく、また、処分の内容としても相当な範囲を逸脱したものといえず、有効なものであることは、原判決事実及び理由欄(略)記載のとおりである。(中略)Xは、そのような電車内における乗客の迷惑や被害を防止すべき電鉄会社の社員であり、その従事する職務に伴う倫理規範として、そのような行為を決して行ってはならない立場にある。しかも、Xは、本件行為のわずか半年前に、同種の痴漢行為で罰金刑に処せられ、昇給停止及び降職の処分を受け、今後、このような不祥事を発生させた場合には、いかなる処分にも従うので、寛大な処分をお願いしたいとの始末書を提出しながら、再び同種の犯罪行為で検挙されたものである。このような事情からすれば、本件行為が報道等の形で公になるか否かを問わず、その社内における処分が懲戒解雇という最も厳しいものとなったとしても、それはやむを得ないものというべきである。(中略) (3) 本件退職金の不支給について 退職金の支給制限規定は、一方で、退職金が功労報償的な性格を有することに由来するものである。しかし、他方、退職金は、賃金の後払い的な性格を有し、従業員の退職後の生活保障という意味合いをも有するものである。ことに、本件のように、退職金支給規則に基づき、給与及び勤続年数を基準として、支給条件が明確に規定されている場合には、その退職金は、賃金の後払い的な意味合いが強い。 そして、その場合、従業員は、そのような退職金の受給を見込んで、それを前提にローンによる住宅の取得等の生活設計を立てている場合も多いと考えられる。それは必ずしも不合理な期待とはいえないのであるから、そのような期待を剥奪するには、相当の合理的理由が必要とされる。そのような事情がない場合には、懲戒解雇の場合であっても、本件条項は全面的に適用されないというべきである。(中略)本来支給されるべき退職金のうち、一定割合での支給が認められるべきである。 その具体的割合については、上述のような本件行為の性格、内容や、本件懲戒解雇に至った経緯、また、Xの過去の勤務態度等の諸事情に加え、とりわけ、過去のYにおける割合的な支給事例等をも考慮すれば、本来の退職金の支給額の3割である276万2535円であるとするのが相当である。 |