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ID番号 90016
事件名 損害賠償請求上告事件
いわゆる事件名 茨城石炭商事事件
争点 業務中の従業員が起こした自動車事故により被った損害額を、どの程度、当該従業員に請求できるかが争われた事案
事案概要 (1) 石油等輸送会社Yに主に小型貨物自動車の運転手として雇用された従業員Xが、入社半年後の昭和45年1月、重油を満載したタンクローリーの運転を臨時的に命じられ、渋滞し始めた国道を走行中、急停止した先行車両に追突した。このため、Yは損害賠償金約40万円を相手に支払う一方、Xにその全額を賠償するよう提訴した。なお、Yは、経費節減のためタンクローリーは対人賠償責任保険にのみ加入し、対物賠償責任保険・車両保険には加入していなかった。また、Xの給料は、45,000円であり、勤務成績は普通以上であった。
(2) 水戸地裁、東京高裁ともに、自動車による危険な事業活動を行う企業は、事故の発生に備えて任意保険にも加入しておくことは当然であり、また、Xの仕事の内容、勤務態度や給与、事故の態様、Xの過失の内容などからして、YがXに請求できるのは、信義則上、損害額の4分の1が¥妥当であるとし、最高裁も、この判断は正当であるとした。  
参照法条 民法1条
民法709条
民法715条
体系項目 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/労働者の損害賠償義務
裁判年月日 1976年7月8日
裁判所名 最高一小
裁判形式 判決
事件番号 昭和49年(オ)1073号 
裁判結果 上告棄却(確定)
出典 最高裁判所民事判例集30巻7号689頁
最高裁判所裁判集民事118号241頁
判例時報827号52頁
判例タイムズ340号157頁
金融・商事判例508号19頁
交通事故民事裁判例集9巻4号925頁
審級関係 控訴審 東京高裁/S49.7.30/昭和48年(ネ)720号/昭和48年(ネ)819号
第一審 水戸地裁/S48.3.27/昭和47年(ワ)105号
評釈論文 古賀哲夫・判例評論217号18頁1977年3月
国井和郎・民商法雑誌77巻6号862頁1978年3月
島田礼介・ジュリスト626号76頁1976年12月
川井健・金融・商事判例515号2頁1977年3月
田上富信・ジュリスト増刊〔基本判例解説シリーズ〕4号188頁1979年2月
田邨正義・ジュリスト645号137頁1977年8月
神田孝夫・ジュリスト642号79頁1977年6月
能見善久・法学協会雑誌95巻3号147頁1978年3月
金沢理・判例タイムズ348号104~110頁1977年8月15日
香城敏麿・法曹時報29巻10号155頁1977年10月
浅野直人・判例演習民法〔4〕――債権各論<新版>307~320頁1984年8月
田上富信・不法行為法〔法学セミナー増刊〕115頁1985年1月
土田哲也・新交通事故判例百選〔別冊ジュリスト94〕152~153頁1987年9月
田上富信・民法判例百選〔2〕――債権<第3版>〔別冊ジュリスト105〕174~175頁1989年10月
田上富信・民法判例百選〔2〕――債権<第4版>〔別冊ジュリスト137〕176~177頁1996年3月
土田哲也・交通事故判例百選<第4版>〔別冊ジュリスト152〕176~177頁1999年9月
田上富信・民法判例百選〔2〕――債権<第5版>〔別冊ジュリスト160〕176~177頁2001年10月
林和彦・労働判例百選<第7版>〔別冊ジュリスト165〕48~49頁2002年11月
田上富信・民法判例百選〔2〕――債権<第5版 新法対応補正版>〔別冊ジュリスト176〕176~177頁2005年4月
細谷越史・労働判例百選<第8版>〔別冊ジュリスト197〕62~63頁2009年10月
判決理由 〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/労働者の損害賠償義務〕
使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被つた場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。
 原審の適法に確定したところによると、(一)Yは、石炭、石油、プロパンガス等の輸送及び販売を業とする資本金八〇〇万円の株式会社であつて、従業員約五〇名を擁し、タンクローリー、小型貨物自動車等の業務用車両を二〇台近く保有していたが、経費節減のため、右車両につき対人賠償責任保険にのみ加人し、対物賠償責任保険及び車両保険には加入していなかつた、(二)Xは、主として小型貨物自動車の運転業務に従事し、タンクローリーには特命により臨時的に乗務するにすぎず、本件事故当時、Xは、重油をほぼ満載したタンクローリーを運転して交通の渋滞しはじめた国道上を進行中、車間距離不保持及び前方注視不十分等の過失により、急停車した先行車に追突したものである、(三)本件事故当時、Xは月額約四万五〇〇〇円の給与を支給され、その勤務成績は普通以上であつた、というのであり、右事実関係のもとにおいては、Yがその直接被つた損害及び被害者に対する損害賠償義務の履行により被つた損害のうちXに対して賠償及び求償を請求しうる範囲は、信義則上右損害額の四分の一を限度とすべきであり、したがつてその他のXらについてもこれと同額である旨の原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、右と異なる見解を主張して原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。