ID番号 | : | 90023 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 三佳テック事件 |
争点 | : | 競業避止義務特約がないまま退職した従業員が、別会社を立ち上げて、元の会社の取引先から仕事を受注した行為が、不法行為又は信義則上の競業避止義務違反にあたるかが争われた事案 |
事案概要 | : | (1) 工業機械部品等製造会社Y社を競業避止義務特約がないまま退職した従業員X1、X2が、別会社を立ち上げて、Yの取引先から仕事を受注した行為について、Y社がXらに損害を被ったとして、不法行為又は信義則上の競業避止義務違反に基づく損害賠償を請求したもの。
(2) 名古屋地裁は、①Xらは退職前に事業資金を借り入れるといった準備行為はあったものの、在職中の競業行為は認められず、また就業規則または個別に退職後の競業避止が合意されていたとは認められないため債務不履行にあたらず、また、②退職後に専らY社の取引先から受注することを企図して開業したとは認められないし、積極的に取引を働きかけたり、在職中に得た知識を利用して有利な条件で取引を持ちかけたりといったことがないことから不法行為にも当たらないとして、Y社の請求を棄却した。 一方、名古屋高裁は、Xらの競業行為は、自由競争の範囲を逸脱した違法な態様で、顧客を奪取した不法行為であるとして損害賠償を命じた。 しかし最高裁は、Xらが取引先の営業担当であった人間関係等を利用することを超えてY社の営業秘密に係る情報を用いたり、信用をおとしめたりするなど不当な方法をとったわけではなく、自由競争の範囲内であり不法行為にあたらないとして損害賠償を棄却した。 |
参照法条 | : | 民法709条 労働契約法 |
体系項目 | : | 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/競業避止義務
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/労働者の損害賠償義務 |
裁判年月日 | : | 2010年3月25日 |
裁判所名 | : | 最高一小 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成21年(受)1168号 |
裁判結果 | : | 破棄自判(確定) |
出典 | : | 最高裁判所民事判例集64巻2号562頁
裁判所時報1504号3頁 判例時報2084号11頁 判例タイムズ1327号71頁 金融・商事判例1351号54頁 労働判例1005号5頁 労働経済判例速報2073号3頁 |
審級関係 | : | <控訴審>H21.3.5/名古屋高裁/判決/平成20年(ネ)886号
<第一審>H20.8.28/名古屋地裁一宮支部/判決/平成19年(ワ)296号・平成19年(ワ)793号 |
評釈論文 | : | 小林宏司・Law & Technology49号79~85頁2010年10月
小林宏司・ジュリスト1416号78~80頁2011年2月15日 中村肇・金融・商事判例1364号8~12頁2011年4月15日 石田信平・知財管理61巻5号661~667頁2011年5月 山口成樹・民商法雑誌144巻1号84~97頁2011年4月 坂井岳夫・労働法律旬報1749号40~45頁2011年8月10日 石橋洋・季刊労働法232号101~109頁2011年3月 砂田太士・私法判例リマークス〔43〕<2011〔下〕〔平成22年度判例評論〕>〔法律時報別冊〕90~93頁2011年7月 山口成樹・平成22年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1420〕106~107頁2011年4月 手嶋豊・速報判例解説〔8〕〔法学セミナー増刊〕107~110頁2011年4月 加藤貴仁・判例セレクト2010〔1〕〔月刊法学教室365別冊付録〕21頁2011年2月 平澤卓人・新世代法政策学研究〔北海道大学〕19号269~331頁2013年1月 小林宏司・法曹時報65巻7号233~253頁2013年7月 小林宏司・最高裁判所判例解説――民事篇<平成22年度>〔上〕〔1月~6月分〕224~244頁2014年2月 |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則(民事)-均等待遇〕
(中略)Xは、退職のあいさつの際などに本件取引先の一部に対して独立後の受注希望を伝える程度のことはしているものの、本件取引先の営業担当であったことに基づく人的関係等を利用することを超えて、Yの営業秘密に係る情報を用いたり、Yの信用をおとしめたりするなどの不当な方法で営業活動を行ったことは認められない。また、本件取引先のうち3社との取引は退職から5か月ほど経過した後に始まったものであるし、退職直後から取引が始まったAについては、Yが営業に消極的な面もあったものであり、Yと本件取引先との自由な取引が本件競業行為によって阻害されたという事情はうかがわれず、Xらにおいて、Xらの退職直後にYの営業が弱体化した状況を殊更利用したともいい難い。さらに、代表取締役就任等の登記手続の時期が遅くなったことをもって、隠ぺい工作ということは困難であるばかりでなく、退職者は競業行為を行うことについて元の勤務先に開示する義務を当然に負うものではないから、Xらが本件競業行為をY側に告げなかったからといって、本件競業行為を違法と評価すべき事由ということはできない。Xらが、他に不正な手段を講じたとまで評価し得るような事情があるともうかがわれない。 (中略)本件競業行為は、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法なものということはできず、Yに対する不法行為に当たらないというべきである。なお、Xらに信義則上の競業避止義務違反があるともいえない。 (中略)Yの請求を一部認容した原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決のうちXら敗訴部分は破棄を免れない。そして、以上説示したところによれば、上記部分に関するYの請求は理由がなく、これを棄却した第1審判決は正当であるから、上記部分に係るYの控訴を棄却すべきである。 |