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ID番号 90026
事件名 地位確認請求上告事件
いわゆる事件名 国鉄札幌駅事件(国鉄札幌運転区(国労札幌支部)事件)
争点 国鉄の職員詰所に設置されている職員用ロッカーに、組合の要求ビラを貼付したことを理由とする戒告処分の有効性(ビラの貼付が正当な組合活動の範囲内にあるか)が争われた事案
事案概要 (1) K組合札幌駅分会青年部に所属するXら4人は、昭和44年春闘に際し、賃上げ要求と減員反対を目的としたビラを貼付するというK組合本部からの指令を札幌地本・札幌支部・札幌駅分会経由で受けて、昼の休憩時に各自、組合員が日常的に使用するロッカーに、白紙のビラ用紙に各自が要求事項を記入し、札幌駅の小荷物事務室備付けのロッカー合計199個に約400枚のビラを貼り、札幌駅の輸送本部操車連結詰所備付けロッカー合計55個に約100枚のビラを貼り、札幌運転区検修詰所備付けロッカー合計56個に56枚のビラを貼ることとした。
 K社は、K組合を含め管理施設に許可なく文書等を掲示することを禁じていたので、札幌駅助役は貼付を中止するよう命じたが、Xらはこれに従わなかったため、Y社はXらを、就業規則の懲戒規定により戒告処分に付した。
(2) 札幌地裁は、本件ビラ貼りは組合活動として相当性の範囲を逸脱して違法であるとして本件懲戒処分を有効であるとしたが、札幌高裁は、本件ビラ貼付行為は、正当な組合活動として許容されるべき行為であるとして、本件懲戒処分は無効であるとしたため、Y社が上告した。
最高裁は、労働組合法7条又は憲法28条の解釈を誤った理由不備、審理不尽の違法があるとして、高裁判決を破棄し、懲戒処分は有効であるとした。
参照法条 憲法28条
労働契約法15条
労働組合法7条
体系項目 懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1979年10月30日
裁判所名 最高三小
裁判形式 判決
事件番号 昭和49年(オ)1188号 
裁判結果 破棄自判、確定
出典 最高裁判所民事判例集33巻6号647頁
最高裁判所裁判集民事128号25頁
裁判所時報777号1頁
判例時報944号3頁
判例タイムズ400号138頁
労働判例329号12頁
労働経済判例速報1030号3頁
裁判所ウェブサイト掲載判例
審級関係 <控訴審>札幌高裁/S49年8月28日/昭和47年(ネ)354号
<第一審>札幌地裁/S47年12月22日/昭和44年(ワ)1421号
評釈論文 中山和久・労働判例百選<第4版>〔別冊ジュリスト73〕198~199頁1981年8月
判例研究会・警察時報35巻5号105頁1980年5月
平山優・地方公務員月報198号58頁1980年1月
平山優・地方自治387号51頁1980年2月
水野秋一・法律のひろば33巻3号73頁1980年3月
河上和雄・法律のひろば33巻1号41頁1980年1月
窪田隼人・民商法雑誌82巻6号828頁1980年9月
西谷敏・ジュリスト718号268頁1980年6月
角田邦重・判例評論259号179頁1980年9月
高島良一・独協法学14号75頁1980年3月
小山香・立教大学大学院法学研究3号92~102頁1982年3月
安枝英訷・労働判例403号21~31頁1983年5月1日
時岡泰・法曹時報35巻5号112~136頁1983年5月
中山和久・労働判例百選<第5版>(別冊ジュリスト101)246~247頁1989年3月
青野覚・労働判例百選<第6版>(別冊ジュリスト134)186~187頁1995年5月
瀧川誠男・最高裁労働判例〔3〕――問題点とその解説344~369頁1982年6月
大沼邦博・労働判例百選<第7版>(別冊ジュリスト165)204~205頁2002年11月
大内伸哉・月刊法学教室352号63~72頁2010年1月 奥山明良・労働判例百選<第8版>(別冊ジュリスト197)186~187頁2009年10月
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/違法争議行為・組合活動〕
企業は、その存立を維持し目的たる事業の円滑な運営を図るため、それを構成する人的要素及びその所有し管理する物的施設の両者を総合し合理的・合目的的に配備組織して企業秩序を定立し、この企業秩序のもとにその活動を行うものであって、企業は、その構成員に対してこれに服することを求めうべく、その一環として、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するため、その物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を、一般的に規則をもって定め、又は具体的に指示、命令することができ、これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示、命令を発し、又は規則に定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができる。
労働組合による企業の物的施設の利用は、本来、使用者との団体交渉等による合意に基づいて行われるべきものであることは既に述べたところから明らかであつて、利用の必要性が大きいことのゆえに、労働組合又はその組合員において企業の物的施設を組合活動のために利用しうる権限を取得し、また、使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業の物的施設の利用を受忍しなければならない義務を負うとすべき理由はない。
労働組合又はその組合員が使用者の所有し管理する物的施設であって定立された企業秩序のもとに事業の運営の用に供されているものを使用者の許諾を得ることなく組合活動のために利用することは許されないものというべきであるから、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで叙上のような企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保しうるように当該物的施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであって、正当な組合活動として許容されるところであるということはできない。
Xらの本件ビラ貼付行為は、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保しうるように当該施設を管理利用する使用者の権限を侵し、Yの企業秩序を乱すものとして、正当な組合活動であるとすることはできず、これに対しXらの上司が(中略)その中止等を命じたことを不法不当なものとすることはできない。
Yの総裁のした本件各戒告処分は無効であるとはいえず、Xらの各請求は、いずれも理由がないから、棄却を免れないものであり、これと同旨の第一審判決は相当であって、Xらの控訴は、棄却されるべきものである。