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ID番号 90028
事件名 雇用関係存続確認等請求上告事件
いわゆる事件名 国鉄中国支社事件
争点 公務執行妨害罪で懲役6月執行猶予2年の判決を受けた者を懲戒解雇処分したことの効力。
事案概要 (1) 鉄道会社Y社の国労組合員Xは、文部省・山口県教育委員会が共催する中四国教育課程研究協議会の開催反対闘争の共同闘争委員会に参画した国労本部の指令を受けた国労広島地方本部の指示を受けて、昭和34年9月、反対運動に参加するため山口県湯田温泉に赴き、警備の警察官多数と国労組合員ら反対運動者多数との間に生じた混乱の最中、警察官Aの公務を妨害したことから逮捕・起訴され、懲役6月執行猶予2年の判決を受け、同判決は昭和42年2月14日確定した。
 右判決確定直後の昭和42年2月28日、Y社は、Xの所為は、Y社の懲戒規定の「著しく不都合な行いのあつたとき」に該当するとして、免職処分に付したので、Xは雇用関係の存続確認等を求め提訴した。
(2) 広島地裁は、本件処分は適法としてXの請求を棄却しが、広島高裁は、懲戒事由に該当するがさほど悪質なものとはいえず、他の処分歴が存することを考慮しても免職処分に付するのは相当とはいえず無効とした。
 しかし、最高裁は、高裁判決を破棄自判し、本件処分は適法とした。
参照法条 行政事件訴訟法3条
日本国有鉄道法31条
日本国有鉄道法31条の1
労働契約法16条
特定独立行政法人等の労働関係に関する法律2条
体系項目 懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/有罪判決
裁判年月日 1974年2月28日
裁判所名 最高一小
裁判形式 判決
事件番号 昭和45年(オ)1196号 
裁判結果 破棄自判、確定
出典 最高裁判所民事判例集28巻1号66頁
最高裁判所裁判集民事111号197頁
裁判所時報637号1頁
判例時報733号18頁
判例タイムズ307号182頁
裁判所ウェブサイト掲載判例
審級関係 <控訴審>広島高裁/S45年9月29日/昭和43年(ネ)22号
<第一審>広島地裁/S43年1月24日/昭和42年(ワ)518号
評釈論文 時の法令861号48頁1974年6月
成田頼明・行政判例百選〔1〕〔別冊ジュリスト61〕12~13頁1979年4月
片岡昇・民商法雑誌71巻6号171頁1975年3月
白井皓喜・別冊判例タイムズ2号240~241頁1976年8月
窪田隼人・判例評論187号36頁1974年9月
籾山錚吾・ジュリスト595号126頁1975年9月
警備判例研究会・警察公論30巻6号145頁1975年6月
鈴木康之・法曹時報29巻3号97頁1977年3月
鵜沢秀行・公企労研究19号65頁1974年7月
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/有罪判決〕
原審確定の本件所為は、職場外でされた職務遂行に関係のないものではあるが、公務執行中の警察官に対し暴行を加えたというものであって、著しく不都合なものと評価しうることは明らかであり、それがXの職員の所為として相応しくないもので、Yの前述(略)の社会的評価を低下毀損するおそれがあると客観的に認めることができるものであるから、国鉄法31条1項1号及びそれに基づく国鉄就業規則66条17号所定の事由に該当するものというべく、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。
原審確定の事実に徴すると、本件所為は、公務執行妨害罪にあたる重大な犯罪行為であって、その具体的な態様も相当に積極性が認められるのみならず、警察官の犯罪捜査のための情報収集という公務執行に対する具体的な侵害を伴っていることが窺われるのであって、原判決のいうように、右所為を単に偶発的なものであり、その法益侵害の程度はさほど重大ではなく、犯情も特に悪質ではないなどと評価し去ることができるものではない。そして、右所為について、公務執行妨害罪として懲役6月執行猶予2年の有罪判決が確定していることも、右所為の評価に当たり軽視しえず、更に、Xには、前記一の5(略)のとおり、本件所為以前に休職処分1回、それ以後に懲戒処分5回の処分歴があって、右休職処分の対象となった所為は、原審判示のように組合内部の統制にかかわるなどの事情があるにしても、粗暴な犯罪行為であり、そのような所為によって起訴され、休職となっていながら、本件所為に及んだという事実は、考慮に値いするものであるし、右懲戒処分歴も、本件所為以後のものであるとはいえ、無視することはできない。右に述べたような諸事情を綜合して考えると、原審の判示する他の事情及び本件免職処分の時期が本件所為の時点から隔たりのあること、Yの職員で公職選挙法違反の罪により、確定の有罪判決を受けた者があるが、その者が免職処分となった例はないことなどXの主張事実を斟酌し、更に、免職処分の選択にあたって特別に慎重な配慮を要することを勘案しても、なお、Yの総裁がXに対し本件所為につき免職処分を選択した判断が合理性を欠くものと断ずるに足りないものというほかはなく、本件免職処分は裁量の範囲をこえた違法なものとすることはできない。 以上によれば、本件免職処分を無効であるとした原審の判断は、国鉄法31条1項の解釈適用を誤った違法なものであり、その違法が原判決に影響を及ぼすものであるといわなくてはならない。したがつて、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。