ID番号 | : | 90029 |
事件名 | : | 不当労働行為救済命令取消請求上告事件 |
いわゆる事件名 | : | 大成観光事件 |
争点 | : | 結成間もない組合が組合員間の連帯感の昂揚等を目的として、「要求貫徹」等と記入したリボンを着用したまま就労したことを理由に受けた賃金カットと譴責処分の有効性(終業時間中のリボン着用が正当な組合活動といえるか否か)。 |
事案概要 | : | (1) Yホテルの従業員で組織するX組合は、結成3か月後に、組合員間の連帯感・仲間意識を昂揚し、士気を鼓舞することなどを目的に、就業時間中に「要求貫徹」等と記入したリボンを着用したまま就労したところ、Yホテルはその警告を無視してリボン闘争を指導したとして、組合員X1~X5を、昭和45年10月13日に平均賃金の半日分を減給する旨の処分に付すとともに、さらに、リボン闘争に参加したことを理由として同年11月17日に譴責する旨の処分に付した。 そこで組合員X1~X5、X組合とその上部組合は、これらの懲戒処分がいずれも不当労働行為に当たるとして、東京都地方労働委員会に救済を申立てたところ、同委員会は、これら懲戒処分の取消しと減給額の支払う旨の救済命令を発した。 このため、Yホテルは、この救済命令の取り消し訴訟を提訴した。 (2) 東京地裁は、本件リボン闘争が組合活動と争議行為の両面を有するとした上で、その行為の一般違法性とホテル業での特別違法性のいずれも肯定し、労働組合の正当な行為ではないとした。東京高裁もこれを維持し、最高裁は、東京高裁の判断は結論において正当であるとした(なお、伊藤正己裁判官の補足意見が付されている)。 |
参照法条 | : | 労働組合法7条 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/違法争議行為・組合活動 |
裁判年月日 | : | 1982年4月13日 |
裁判所名 | : | 最高三小 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和52年(行ツ)122号 |
裁判結果 | : | 棄却、確定 |
出典 | : | 最高裁判所民事判例集36巻4号659頁 最高裁判所裁判集民事135号715頁 裁判所時報838号1頁 判例時報1042号140頁 判例タイムズ470号108頁 労働判例383号19頁 労働経済判例速報1115号7頁 裁判所ウェブサイト掲載判例 労働委員会関係 命令・裁判例データベース |
審級関係 | : | <控訴審>東京高裁/S52年8月9日/昭和50年(行コ)14号 <第一審>東京地裁/S50年3月11日/昭和47年(行ウ)145号 |
評釈論文 | : | 坪内利彦・法律のひろば35巻7号39頁1982年7月 西谷敏・ジュリスト792号221頁1983年6月 松田保彦・月刊法学教室22号69頁1982年7月 労働基準34巻7号32~33頁1982年7月 中村巌・月刊労委労協313号23~27頁1982年5月 林修三・時の法令1149号56~61頁1982年7月13日 片岡昇・Law School47号57~62頁1982年8月 警備法令研究会・捜査研究31巻9号97~103頁1982年9月 新村正人・ジュリスト773号86頁1982年9月 森井利和・労働経済旬報1223号29~33頁1982年9月1日 石橋洋・労働判例391号4~13頁1982年10月15日 籾井常喜・季刊労働法125号70~79頁1982年9月 斎藤健・季刊公務員関係判例研究36号32~36頁1982年9月 郵政省人事局労働判例研究会・官公労働37巻1号44~47頁1983年1月 西谷敏・昭和57年度重要判例解説(ジュリスト臨時増刊792)226~268頁1983年6月 下井隆史・季刊実務民事法2号220~221頁1983年7月 河本毅、末啓一郎、関根修一・最高裁労働判例〔5〕――問題点とその解説257~278頁1985年6月 新村正一・法曹時報38巻1号197~228頁1986年1月 岩井國立・経営法曹86号36~41頁1988年4月 奥山明良・労働判例百選<第5版>(別冊ジュリスト101)244~245頁1989年3月 岩井國立・救済命令取消判決の解説・研究298~307頁1989年12月 宮本安美・労働判例百選<第6版>(別冊ジュリスト134)182~183頁1995年5月 中嶋士元也・労働判例百選<第7版>(別冊ジュリスト165)200~203頁2002年11月 吉田美喜夫・労働判例百選<第8版>(別冊ジュリスト197)184~185頁2009年10月 |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/違法争議行為・組合活動〕 本件リボン闘争は、主として、結成後3か月の参加人組合の内部における組合員間の連帯感ないし仲間意識の昂揚、団結強化への士気の鼓舞という効果を重視し、同組合自身の体造りをすることを目的として実施されたものであるというのである。 そうすると、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件リボン闘争は就業時間中に行われた組合活動であって参加人組合の正当な行為にあたらないとした原審の判断は、結論において正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は、失当である。論旨は、採用することができない。 裁判官伊藤正己の補足意見 業務の性質によっては、リボン闘争自体が労務の停止に等しいと考えられる場合がありえないものではないから、一切のリボン闘争が争議行為にあたらないとすることはできないとしても、一般的には、リボン闘争は、類型として争議行為にあたらないというべきである。 本件リボン闘争は、法廷意見の示すような態様で行われたのであるから、これを争議行為としてとらえることは相当ではない。したがって、争議行為に就業規則が適用されるかどうか、また具体的な本件リボン闘争が争議行為として正当性をもつかどうかを判断する必要はないと考えられる。 職務専念義務に違背する行動にあたるかどうかは、使用者の業務や労働者の職務の性質・内容、当該行動の態様など諸般の事情を勘案して判断されることになる。このように解するとしても、就業時間中において組合活動の許される場合はきわめて制限されるけれども、およそ組合活動であるならば、すべて違法の行動であるとまではいえないであろう。 所論のように本件懲戒処分が不当労働行為となるためには、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、右のような見解に照らして本件リボン闘争が正当として許されるものでなければならない。この点に関しては、原審が本件リボン闘争の特別違法性として説示するところは是認することができ、したがって、本件リボン闘争は、参加人組合の組合員たる労働者の職務を誠実に履行する義務と両立しないものであり、被上告人の経営するホテルの業務に具体的に支障を来たすものと認められるから、それは就業時間中の組合活動としてみて正当性を有するものとはいえない。 服装規定の違反に関する所論についても、一般にリボン闘争が使用者の定める服装規定に違反して正当性を欠くものであるかどうかはともかく、原審の適法に確定した事実関係のもとでは、本件リボン闘争がY経営のホテルにおいて服装規定に違反するものであるから正当な行為たりえないとした原審の判断は、正当として是認することができる。 |