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ID番号 90030
事件名 損害賠償請求控訴事件(1345号)、同附帯控訴事件(1900号)
いわゆる事件名 郵政事業(身だしなみ基準)事件
争点 「伸ばした髭、長髪」をマイナス評価として賃金をカットし、担当職務を差別したこと、また、上司らが職員に髭を剃るよう執拗に迫った行為が違法か否か。
事案概要 (1) 郵便事業者Yの従業員Xは、伸ばした髭と長髪という外貌を理由に人事評価でマイナスに評価し、賃金をカットされるとともに担当職務を差別されたこと、また、上司らがXに、髭を剃るよう執拗に求められたことがいずれも違法行為であるとして、Yに、国家賠償法1条1項に該当する行為又は人事権を濫用した不法行為に基づき、損害賠償金等の支払を求め提訴した。
(2) 神戸地裁は、人事評価は裁量権を逸脱した違法なものと認め、上司らから髭を剃り、髪を切るよう繰り返し求められたことも、一定程度の精神的損害を受けたものとした。東京高裁もこれを維持した。
参照法条 民法709条
民法710条
国家賠償法1条
労働契約法
体系項目 賃金(民事)/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/業務命令
裁判年月日 2010年10月27日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 平成22年(ネ)1345号/平成22年(ネ)1900号 
裁判結果 控訴棄却(1345号)、附帯控訴認容(1900号)、確定
出典 労働判例1020号87頁
審級関係 <第一審>神戸地裁/H22年3月26日/平成21年(ワ)149号
評釈論文 森博行・労働法律旬報1737号54~55頁2011年2月10日
中村和夫・労働法律旬報1753号22~31頁2011年10月10日
石井妙子・公務員関係判決速報411号1頁2011年12月
日野勝吾・東洋大学大学院紀要48号95~112頁2012年3月
判決理由 〔賃金(民事)/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/業務命令〕
争点(1)(被控訴人のひげ・髪型が、身だしなみ基準に違反するか否か)について
Yにおける灘局基準1・2及び公社基準2が男性職員の髪型及びひげについて過度の制限を課するものというべきで、合理的な制限であるとは認められず、「顧客に不快感を与えるようなひげ及び長髪は不可とする」との内容に限定して適用されるべきものであること、Xの長髪及びひげが、これらの基準で禁止される長髪及びひげには該当しない。
争点(2)(担当業務を限定したことの違法性)について
Yが、平成18年4月以降、Xに「特殊」業務の「夜勤」のみに限定して担務指定した理由が、公社身だしなみ基準及び灘局身だしなみ基準に違反してひげを生やしたため窓口業務を担当することはできないとのYの判断に基づくものであると認められること、そのような判断に基づいて、Xに「特殊」業務の「夜勤」のみの担当を指定したことは、Yの裁量権を逸脱し、違法である。
争点(3)(本件各人事評価の違法性)について Yは、人事評価は懲戒処分と比べて使用者により広い裁量が認められているから、身だしなみ基準違反を理由に人事評価でマイナス評価をしたとしても、懲戒処分と異なって違法とはならないと主張する。しかしながら(中略)、長髪とひげを全面的に禁止することに合理性は認められず、他方で、長髪とひげは基本的に個人的自由に属する事柄である上、これに対する制約が勤務時間を超えて個人の私生活にも影響を及ぼすものであることに鑑みれば、裁量の範囲を逸脱していると評価せざるを得ない。
争点(4)(被控訴人の上司らが、ひげをそるよう求めたことの違法性)について
A課長及びB課長ら灘局における被控訴人の上司による指導が違法である。
争点(5)(被控訴人に生じた損害及びその額)について 上司らからひげをそり、髪を切るよう繰り返し求められたことにより、一定程度の精神的損害を受けたと認められる。